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ごく平凡で幸せな "姉" の物語

私はお姉ちゃんである。
双子の可愛い妹と優しい父を持つ、世界一幸せなお姉ちゃん。

————

深い森の奥の奥のさらに奥……人類の文化圏から遥か離れ閉ざされたこの場所に、一軒の建物がある。
決して豪華ではないが、私達の立派な家だ。

そこには、アイビー家の四人が住んでいる。
優しくて一流の魔法研究者である父、エイモス。
少し年の離れた双子の妹、ナナリスとニアリス。
そして三姉妹の長女、ジリウス。それが私だ。

父上は少し頼りないが、私達姉妹をなにより大切に想ってくれている。
妹達は二人ともかわいくてしっかり者で、かわいくて人に優しくできて、かわいくて本当によくできた……私の妹にしておくには勿体無いくらいの良い子達だ。
私は、そんな家族のことをこの世で一番愛している。

だが、異変はある日突然やってきた。
父上が、居なくなったのだ。

毎日一緒に家族で食卓を囲んだ。父上の帰りが遅くなる日は、姉妹揃って帰りを待った。
父上が帰ってこない、そんなことは今まで一度だってなかった。あの日までは————

その日、「薬草を取りに行く」と言って父上は家を出た。
日が沈み、暗い闇が森を飲み込んだ後も、何時まで待っても家に戻らなかった。
無論、私達姉妹は森中を探し回った。
薬草の群生地、稀少な花の咲く断崖、澄んだ水の沢……
父上の行きそうな、思い付くところは全て探した。
でも見つからない。父上の姿はどこにも無かった。
それどころか一切の痕跡が見つからない。手がかりの一つすら出てこない。
これは、明らかに異常だった。
私達の焦燥は、どんどん加速していった。

どこか怪我をしていないか、痛みで苦しんではいないか、寂しい思いをしていないか……
そんな心配ばかりが胸を駆け巡り、この晩、私達姉妹は日課の「ほかりん」も忘れ、がむしゃらに父上を探し続けた。

翌日、私はテーブルで目を覚ました。
目の前にはすっかり冷めた四人分の食事。
その向こうに、疲れて眠る妹達。
私は二人を起こさぬようそっと立ち上がり、その肩に毛布を掛けた。

どこへ行ったのですか、父上。

二人には聞かせるまいと努めてきた弱音が、ふと零れた。

この日も私達は父上を探した。
父上の書斎を覗くと、日課のほかりんに使う薬湯用の粉が作り置かれていた。
いつもと一つ違うのは、その量。
そこには、今までに見たことのないほど大量に用意されていた。
以前「嵐が来るからたくさん作っておこう」と父上に言われたことを思い出す。
その時だってこんなに大量には作らなかった。
目算で一年分ほどあるだろうか。これは……これではまるで————

ふと過った考えを打ち消すように、私達は先日訪れた集落へ向かうことにする。
昨日、薬草を集めた後に集落に寄ったのかもしれない。
心優しい父上のことだ。そのまま頼まれ事を引き受けて日が暮れ、泊まっただけかもしれない。
きっとそうだ。そうに違いない。
それは可能性と言うより願いに近かったが、私達はもはやそれに縋るしかなかった。
私達三人の歩調は誰からともなく早くなり、気付けば集落までの道を駆けていた。

しかしながら、たどり着いた集落にも父上の姿は無かった。
尋常ではない様子の私達を見て、村の人達も何事かと集まって話を聞いてくれた。
父上の足取りについて聞いて回ったが、めぼしい情報は無かった。
ただ、最近付近の森の中で、怪しい黒装束を纏った連中を何度か見かけたと教えてくれた。
父上の失踪に関係があるかもしれない、いや寧ろその連中が父上を……?
連鎖的に浮かぶ想像に怒りが沸き上がる。
震えそうになる拳を握り締めながら、礼を伝える。
なにか情報があれば教えて欲しいと皆にお願いをして、私達はつい先ほど来た道を、失意のまま帰った。

その帰りの道中で、奇妙な一団に行く手を阻まれる。
気が猛り、今にも飛びかからんとする、背中から無数の黒い杭を生やした獣。
その奥で不気味に此方を見つめ、浮遊する球体の人工物。
この森で、こんなものは見たことがなかった。

だが、気が立っているのはお前達だけじゃない。
私達は一刻も早く家に帰り、父上を探さなければならない。
ニアが拳を握る。
ナナの宝石がキラリと光る。
私は大斧を構え、眼前の獣達を見据える。
こんな場所で立ち止まっている時間はないのだ。

私達の邪魔を、するな。

————

三人だけのいただきます。
三人だけのほかりん。
三人だけのおやすみなさい。

そして、明けた翌日。
私達は三人だけのおはようを交わし、テーブルへついた。
誰も何も喋らなかった。ただ、重い沈黙の中、パンを口に運ぶ。
そんな時……
滅多に人の寄り付かない我が家に、ノックの音が響いた。

この出会いから、私達姉妹の運命が大きく動き始める、
その始まりの音だった。

「ごめんください」
「誰かいないか?」
ノックを繰り返す男女の声。

「二人はここで待っていて。いいね。」
ナナとニアに囁く。不安げに頷く二人をテーブルへ残して私は静かに玄関の扉へ近づいていく。
後ろ手に大斧を忍ばせ、答える。
「何か御用かな?」

少しの間。
「ここにエイモスの……いや、アイビー家が住んでいると聞いたんだが。」
「少しお話を伺いたくて。」
男女の声は続ける。

少しずつ心拍数が上がり、血が頭に昇っていくのを感じる。
「……どちら様だろうか。」
平静を装い、声が上ずらないようにするので精一杯だった。
集落で聞いた怪しい連中のことが頭に浮かぶ。
この扉の向こうに居る何者かが、得体の知れないひどく不気味なモノに感じられた。

「あら、そうでした。名乗るのが先ですわね。」
意外にも女は明るく声を上げ、近隣のギルドに所属する冒険者であると告げる。
それに続くように男が続けた。
「エイモスから手紙を受け取っていてな。」
父上から!?
その名前を聞いた瞬間、私は迂闊にも扉を開け放っていた。
後ろ手に隠した大斧を取り落としたことにも気付かぬまま。

扉の前に立っていたのは長身のナイトメアの男女二人組だった。
身なりはかなり整っており、その顔からは気品が漂っている。冷静に見れば、かなり高名な冒険者だと一目で分かる……
そんなことにも気付かぬ様子の私に向かって、男が手紙を差し出す。
その手から半ば奪い取るように受け取り……私は膝から崩れ落ちる。
部屋の奥に隠れていた妹達が何事かと駆け寄ってきて、私の手元を覗き込む。
そして私達三人は息をのんだ。
間違いない、これは父上の字だ……

彼らは父上からの手紙を受け取り、私達の様子を見に来てくれたのだった。
手紙には、父上の後悔と、自責と……私達三姉妹の未来を願う言葉が書き連ねられていた。

————

私達は父上の研究についてよく知らない。
それは、悪しき者達の手に渡るととても危険な……
そういう類いの研究だったそうだ。
人目を避け、この森の奥で暮らしていた理由は、
そういった輩から研究成果を、何より私達を匿うためだったのだ。

しかし今、この家の存在が露呈してしまった。
それに気づいた父上は、自ら選んで姿を消したのだ。
私達の後を、この人達に託して。

煮え切らない。
何故、何故私達には一言も言ってくれなかったのか。
私が、どれだけ父上のことを想い、心配したことか。
妹達が、どれだけ心を磨り減らしたことか!
そんなことを考えながら、二人の冒険者————
ロイドとセーラの話に耳を傾ける。
そう遠くない内に、研究成果の奪取を目論む連中がここへ来るかもしれないこと。
そんな連中から身を守るため、そして連中が手出ししにくくするため、人目の多い街へ移動した方がいいこと。
それらを踏まえた上で、一番優先されるべきは私達三人の意思だということ。

「俺達は少し席を外そう。この場で決めるには重すぎる話だ。」
そう言うと二人は立ち上がり玄関に向かって歩きだす……が、ふとロイドは立ち止まり、振り返る。
「だが、そこまで時間があるわけでもない。」
「急かして悪いが……君達にとって後悔のない選択をしてほしい。」
少し申し訳なさそうな顔でそう告げると、再び静かに歩きだした。

私は傍らの妹達にそっと向き直り、二人の肩に手を乗せ、話し出す。
「ニア、ナナ、私の可愛い妹達。よく聞いてくれ。」
声が、震えていた。
「二人とも、あの冒険者と一緒に、街に行くんだ。」
「それが一番安全だ。」
二人は驚いたように私の目を見る。ナナが問う。
「……お姉ちゃんは?」
「私は」
言葉に詰まりながら。
「……この家に残る。」
「この家は……私達の家だ。父上が戻ってくる家だ。」
「私が、守らなくては。」
二人の肩に乗せた手に、力が籠る。
「二人には、安全な場所にいてほしい。」
「お姉ちゃんが残るなら、私も残る!」
続けたその言葉を遮るように、ニアが今にも泣き出しそうな……しかして覚悟の籠った声を上げた。
「三人一緒じゃなきゃ嫌だ!」
「お父さんがいなくなっちゃって……そのままお姉ちゃんまで居なくなっちゃったら……!」
ニアの言葉に、ナナも頷く。

……私は本当に幸せなお姉ちゃんだ。
「そうだね。」
私は二人を強く抱き締める。
父上は手紙の中でさえ、私達の幸せを願っていた。
「私も、二人と一緒にいたいよ。」
「私達はずっと、ずっと三人一緒にいよう。」
玄関の先の二人の冒険者が、その様子を優しく見守っていた。

————

街へ行くとなれば、急いで用意をしなくては。
家の中で必要なものをかき集め、袋に詰めた。
そして残るは……私達は近付くことを禁止されていた、地下の研究室だけになった。
倉庫を抜け、仄かに光る扉の前に立つ。鍵穴は見当たらないが、どうやら魔法的な錠が施されているようだ。
扉を調べていたロイドが振り返る。
「解錠方法はわかるか?」
その口調から、かなり強固な鍵のようだった。
「何か日々していること……例えば日課のようなものはあるか?」
「どうもそれが鍵のようだ。」
「日課……」
私はそう呟くと妹達を見る。妹達も、私を見上げていた。
「「ほかりん?」」
ナナと声が重なる。
「ほか……?」
冒険者二人はキョトンとした顔をしたのち、直ぐに続ける。
「あぁ失礼。その日課のことを皆様はそう呼んでいるのね。」
「いやいいんだ。だが、本当にあれはただの日課で……その日の出来事なんかを話しているだけだぞ?」
そんなことで扉が開くわけが……といぶかしむ私に、セーラがやってみましょうよ、と微笑みかける。
そうして、件の扉の前でほかりんを試してみることにした私達は、セーラの助けを借りながら……慌ただしく準備を進めるのだった。

薬湯を飲んだ私達は向かい合う。
そして、誰からともなく手を取り合う。
三人で手を繋ぎ、互いの脈を感じる。
三人で額を寄せ、互いの熱を感じる。
三人の呼吸が、徐々に揃っていく。
三人の意識が、一つに繋がっていく。
一人足りない、三人だけのほかりん。
父上、どこにいるのですか。父上————

祈るようにギュッと瞑った瞼の外から、扉が一層明るく輝くのを感じた。
そして、鍵を失った扉がゆっくりと開いていく。
本当に開いた!という驚きよりも先に、
この扉の向こうには、私達の知らない父上がいるかもしれない、そんな不安が胸を覆った。
扉から流れてくる冷たい空気が、私達の足元を伝って行った。

————

一つ深呼吸をして、いざ部屋に入れば……入る前の不安はたちまちどこかへ消えてしまった。
壁に飾られた花冠。
棚の上の木彫りの人形やぬいぐるみ達は、私達が父上に贈ったものだ。
その全てが、大切に飾ってある。
夥しい数の紙の束に囲まれながら、そこには私達三姉妹を愛する父上の姿が今もあるようだった。
零れそうになる涙をぐっと堪える。
……感傷に浸る時間はない。
私達は重要そうな資料に目星を付け、手早く袋に詰めていく。

ふと目線を上げると、ナナがぬいぐるみの前で立ちすくんでいる。
セーラが隣へ歩み寄る。
「こちらの皆様は……連れていかれないのですか?」
この問いかけにナナは小さく答える
「こんなもの……持っていったって……」
パパは帰ってこない、続くその言葉を飲み込む姿を見て、私は伸ばしかけた手を、そっと握るしかなかった。
ナナの手にしていた袋が床に落ちる。

セーラは優しく微笑み、ナナへ語りかける。
「では、私が連れていってあげてもよろしいでしょうか。」
「随分愛されて、大切にされていたようですもの。一目見れば分かります。」
「このままここに置いていってしまってはかわいそうですわ。」
そう言いながら、手際よくぬいぐるみ達を綺麗な布にくるんでいく。
そっと袋に納められた人形達を、ナナは見ていた。
そして続ける。
「やっぱり連れていく。」
セーラは微笑み、袋をナナへ手渡す。
袋を大事そうに両手で抱き抱えながら、小さく感謝の言葉を告げるナナの頭を、セーラの手が優しく撫でた。

「大方重要そうな資料は集まったな。」
ぱんぱんと手を叩くロイドの前に、資料の詰まった袋が積み上がっている。
「他に、お父様の思い出の品なども持ち出さなくてよろしいですか?」
セーラの呼び掛けに、私達は研究室を振り返る。
ニアとナナは机の上に父上の万年筆を見つけたようだ。
二人が大事そうに袋へ仕舞うのを見届けていると、セーラに呼び掛けられた。
「ジリウスさん」
彼女は机の奥から小さな箱を見つけ出したようだった。
「こちらを」
そう続ける彼女の手の中の小箱には
金色の丸眼鏡が収まっていた。
これは父がよくかけていた————

セーラが私の顔を覗き込み、手元の眼鏡と交互に見ている。
「あなたも眼鏡をしているようですし……度が合うかは分かりませんが…」
そう言うと、私へ父上の眼鏡を差し出す。
言われるがままかけてみると、自分でも驚くほどしっくりくる。
「ありがとう。」
私は笑顔のセーラに礼を告げ、元々かけていた眼鏡を小箱に戻す。
父上の眼鏡を身に付けていると何故か……まるで今も傍に父上がいて、優しく見守られているような……
そんな安心感があった。

————

まとめた荷物を持ち、玄関へと向かう。
思いの外時間がかかってしまったようだ。窓の外にはいつの間にか夜の闇が広がっていた。

早く街へ向かおう、そう言って玄関の扉に手を掛けたロイドが立ち止まる。
「……少し時間を掛けすぎたかもな。」
その言葉の意味を理解するよりも前に、森からの強烈な違和感を感じた。
いつもの見知った森ではない、数多の生物の蠢きと、明確な視線を。
ロイドがこちらへ向き直る。
「嫌に動きが早いな……ざっと二百、それなりの規模で来たようだ」
「二百……!?」
息をのむ私の言葉に微笑むとロイドは続ける。
「"あれ" は俺達が相手をする。なるべくこっちへ通さないようにはするが……」
そこまで言ってからチラリと私達を見、不敵に微笑みながら続ける。
「お前達も戦闘の心得はあるようだな?」
その言葉に、私達は各々の得物を取り出して応える。
「いい返事だ。」
そう言ってセーラと目配せをしたかと思うと、二人は扉を開け放ち、まるで吹き荒ぶ突風のように速く、森の奥へ飛び込んでいった。

直後、森の至るところから斬り伏せられる何者かの断末魔が響く。
それは戦いとも呼べぬ一方的なものだった。
生い茂る木々をまるで意に介さず、稲妻のような速度で縦横無尽に駆け巡る。
これが、冒険者————

「家屋の中に残存する生体反応を検知。」
「作戦続行。対象を捕獲せよ。」
あの二人の攻撃をすり抜けた、幸運な隊の無機質な声が、家の裏手から微かに聴こえた。
森を駆ける冒険者の動きに見とれていた私達は一瞬で我に帰る。
私は妹達を見つめる。妹達もまた、私を見ていた。
「いこうか」
「「うん」」
短く言葉を交わす。刹那、私とニアが駆け出す。
敵は人型が二体と獣が2体。
ナナの放ったファイアボルトが私達二人の間の闇を切り裂き、獣達に直撃する。
燃え上がる獣を大斧で一閃する。
その横でニアの拳がもう一匹を粉砕していた。
ナナ、ニア、素晴らしい力だ。お姉ちゃんは鼻が高いぞ。
拭いきれぬ不安を気取られぬよう、まるで威嚇するように……大斧の柄を地面に突き立て、吠える。
「一体誰を捕まえようと言うのかな!」
私の言葉に黒ずくめの人型は身じろぎ一つせず、不気味な風体のままこちらを見ていた。

————

捕獲班の長らしき男を、ニアの拳が遂に地に沈める。
と同時に男は持っていたオイルランタンを取り落とし、けたたましい音と共にホヤが割れた。
「ニア!」
ほとんどタックルするように上がる火の手からニアを遠ざける。
いつの間にか、冷たい風が森の奥から吹いてきていた。
舞い上がった火の粉は風に乗り————
あっという間に私達の家へ燃え移った。

古い木造の家が炎に飲まれるのに、時間はかからなかった。
一瞬の出来事に放心していた私達は……燃え上がる家へと弾かれたように駆け出した。
必死に玄関に残したままの荷物を運び出す。
全ての荷物を運び終えた頃には、既に私達の家はごうごうと音を立てて燃えていた。
私達の家が……父上が帰ってくるはずの家が……!
そこへ中隊規模の敵を片付けたロイドとセーラが駆けてくる。
「無事か!?」
その言葉が耳に届かぬ程に、私達はただ黒煙を吐きながら燃え続ける家を、呆然と見続けていた。

いつしか天は暗く重い雨雲に覆われていたようで、あっという間に大降りの雨が降ってくる。
ロイドが身に付けたマントの裾を持ち上げ、妹達に降り注ぐ雨を遮ってくれている。
「……このままじゃ風邪をひく。」
彼は家を……家だったものを見つめる私達へ、そっと声をかける。
「大丈夫よ、大切なものはもう取った後だもん。」
服の裾をきつく握り締めたままのナナが絞り出すように言う。
「きっとまた、ここに家を建てようね。」
「そしてまた、みんなで、ここで暮らすの。」
ニアが、消え入りそうな声で呟く。
「ああ、きっと……」
いや、違う。私達はここへ戻る。全てを取り戻して、必ず。
「必ず、ここへ戻ってこよう。」
「私と、ナナと、ニアと、そして父上と。」
「家族みんなで。」
私の言葉に、妹達は静かに頷いた。

妹達はロイドとセーラと共に歩きだす。
その後ろで私は一人、静かに振り返る。
今は燃え残った家の残骸。そして、私達四人の大切な場所。
「行ってきます、父上。」
金の眼鏡に触れながら、そっと呟いた。

————

私はお姉ちゃんだ。
姉とは妹を守り、常にその先を歩むもの、と信じている。
他の誰でもない、私が、最愛の妹達を守るのだ。

父上を見つけるその日まで、私達は進み続ける。進み続けなければならない。
きっと平坦な道ではないだろう。
目を背けたくなるような現実も、絶望するような真実も、きっと泣きたくなるほどあるだろう。
だからこそ、私達は覚悟を決めたのだ。

私達の幸せを取り戻す。その為に、私は強くあらなければならない。
妹達が危険に曝されるくらいならば、どんなに非情な手段だって取ろう。
私には、冒険者の誇りも、矜持も、何も要らない。

私に必要なものは、大好きな "家族" と共に生きること、ただそれだけなのだから。

<ジリウス•アイビーの日記帳より抜粋>

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