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GLP-1受容体作動薬の使い方・考え方(2026年)

  • GLP-1受容体作動薬について、2026年1月時点でのエビデンスと、糖尿病内科医の立場からの使い方・考え方についてまとめています。

  • 過去5年間のCOIは0円です。

  • β版ですので、どしどしご意見、ご批判をいただけると嬉しいです。


1.注射GLP-1・GIP/GLP-1受容体作動薬の現在地

1-1. “主役級”だが万能ではない

 注射GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)およびGIP/GLP-1RAは、現在の2型糖尿病治療において「血糖」「体重」「心血管リスク」「腎リスク」を同時に動かせる、数少ない“主役級”の薬剤です。

 かつては「注射=最後の手段」「インスリンの一歩手前」という位置づけで語られることが多かった薬剤ですが、現在のGLP-1RAは明らかに役割が変わっています。

・      血糖が大きく下がり
・      体重も大きく減り
・      低血糖は起こしにくく
・      心血管イベントも減る
・      腎イベントも減る

 ここまでそろった薬は、他にほとんどありません。

 実際、主要な心血管アウトカム試験では、心血管イベント抑制(MACE低下)や脳卒中(1-3)、腎イベントの減少(4-6)などが一貫して示されています。

 一方で、万能薬ではありません。臨床現場で必ず直面する「壁」もあります。

・      「注射」への心理的ハードル
・      消化器症状(悪心、食欲不振、便秘、下痢)
・      継続率の問題(効く前にやめてしまう)
・      価格の高さ
・      供給不安、流通制限

 そのため、「誰にでも最初から使えばよい薬」ではなく、「ハマる患者には強烈にハマる薬」という理解が重要です。

  

1-2. 注射GLP-1・GIP/GLP-1受容体作動薬の歴史

 GLP-1(Glucagon-like peptide-1:グルカゴン様ペプチド-1)は1980年代にインクレチンホルモンとして同定され、食事刺激に応じて血糖依存性にインスリン分泌を促進する生理作用が明らかになりました。しかし、内因性GLP-1はDPP-4により数分で分解されるため、そのままでは治療薬になりませんでした。そこで開発されたのが、DPP-4分解に耐性を持たせたGLP-1受容体作動薬です。最初期の製剤は短時間作用型で、1日2回注射という制約がありましたが、その後、脂肪酸修飾や高分子化によって半減期を延ばした「持続型」「週1回製剤」が登場しました。

 2010年代半ばには心血管アウトカム試験(CVOT)で主要心血管イベント抑制が示され、GLP-1RAは血糖降下薬から予後改善薬へと評価が一変しました。さらに近年はGIP(Glucose-Dependent Insulinotropic Polypeptide:グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体作用を組み合わせたデュアルアゴニスト(チルゼパチド(マンジャロ))が開発され、体重とHbA1cをより大きく動かせる時代に入りました。日本では使い勝手や供給、臨床的位置づけの観点から淘汰も進み、今後は週1回製剤のみとなる可能性が高いです。

1980年代 GLP-1がインクレチンホルモンとして同定される
2005年 世界で初のGLP-1受容体作動薬(エキセナチド)が海外で承認

2010年(日本)
・      リラグルチド(ビクトーザ)上市
・      エキセナチド1日2回製剤(バイエッタ)上市(とにかく、吐き気、嘔吐の副作用が強かった

2013年(日本)
・      エキセナチド週1回製剤(ビデュリオン)上市(糖尿病治療薬初の、週1回という概念が登場)

2015年(日本)
・      デュラグルチド(トルリシティ)上市(使いやすいデバイス、週1回注射が臨床的にも使いやすく

 2016年(世界的転機)
・      LEADER試験でリラグルチドが主要心血管イベントを抑制(1)
・      SUSTAIN-6試験でセマグルチドの心血管安全性と有効性が示される(2)
 → GLP-1RAが「血糖降下薬」から「心血管イベント抑制薬」へ評価転換

2019年
・      REWIND試験でデュラグルチドが一次予防を含む集団でMACE抑制(3)
 
→ 幅広い患者層での使用が現実的に

2020年(日本)
・      週1回セマグルチド(オゼンピック)上市(体重減少効果への注目が一気に高まる)

2022年(日本)
・      エキセナチド週1回製剤(ビデュリオン)、1日2回製剤(バイエッタ)販売中止(吐き気が強く、続けられるヒトは少なかった)

2023年(日本)
・      チルゼパチド(マンジャロ)上市(GIP/GLP-1受容体作動薬という新しいフェーズ)

2024年
・      FLOW試験で、セマグルチドが糖尿病+CKDの腎保護効果も証明(6)し、腎保護としての評価も上がる

2025年
・      リキシセナチド1日1回(リキスミア)販売中止

2026年
・      1月、週1回GLP-1(セマグルチド)+週1回インスリンイコデクの配合注「イコセマ(キーンス)」承認
・      年後半、リラグルチド1日1回(ビクトーザ)販売中止予定(GLP-1は週1回製剤のみとなる予定)

  

1-3. 注射薬が刺さる患者像

 注射GLP-1RA/GIP・GLP-1RAが特に力を発揮するのは、次のような患者です。

 1)肥満・過体重で、食欲ドライブが強い患者

 GLP-1RAは、「血糖を下げる薬」というより「食事量そのものを自然に減らす薬」と理解した方が、臨床ではしっくりきます。

 ・      間食が多い
・      夕食量が多い
・      分かっているけど食べてしまう

 といった患者では、血糖改善と体重減少が同時に得られやすく、治療満足度も高くなります。

 2)ASCVD既往、または心血管リスクが高い患者(特にGLP-1RA)

 リラグルチド(ビクトーザ)、セマグルチド(オゼンピック)、デュラグルチド(トルリシティ)などのGLP-1RAでは、主要心血管イベント(MACE)の抑制が示されており(1-3)、チルゼパチド(マンジャロ)も、心血管抑制効果はデュラグルチドに非劣性であったと報告されました(7)。

・      心筋梗塞既往
・      脳卒中既往
・      複数の動脈硬化リスク 

を有する患者では、「血糖を下げるため」だけでなく、「将来のイベントを減らすため」に選択する価値があります。

  

3)CKD合併で、アルブミン尿が目立つ患者

 リラグルチド(ビクトーザ)、デュラグルチド(トルリシティ)などのGLP-1RAが、主要腎イベントを抑制することが示されてきました(4, 5)。

 GLP-1RAの腎ベネフィットは、SGLT2阻害薬のように「eGFR低下を一直線に鈍らせる」というより、まずは「アルブミン尿の改善(腎障害の進行抑制)」を中心に理解すると分かりやすいです。

 さらに近年、CKD合併2型糖尿病を対象に、セマグルチドが「主要腎疾患イベント(腎不全、eGFR 50%以上低下、腎関連または心血管死の複合)」を24%有意に抑制したFLOW試験が報告され、腎のエビデンスは一段上がりました(6)。

  

4)低血糖をできるだけ避けたい患者

 GLP-1RA単独、あるいはメトホルミンやSGLT2阻害薬との併用では、低血糖リスクは極めて低いのが特徴です。SU薬やインスリンを増やすより、GLP-1RAの方が安心して使える場面が少なくありません。

 

 5)インスリン開始を先延ばししたい/増量したくない患者

 HbA1cがやや高値でも、食事量が多い、体重増加を強く避けたいといった患者では、「インスリンを足す前にGLP-1RA」という選択が合理的です。実際、GLP-1RA導入により、インスリン導入を回避できたり、すでに使っているインスリンを減量できたりするケースは少なくありません。

  

2.作用機序

2-1. GLP-1は「インスリン分泌刺激薬」ではなく「代謝調整ホルモン」

GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、単にインスリン分泌を刺激する薬ではありません。

本質は、食後に生理的に起こるインクレチン反応を、薬理学的に強く、長く再現することで、代謝全体のバランスを整える薬です。

 GLP-1は本来、小腸L細胞から分泌され、食事摂取に応じて以下の反応を引き起こします。

・      血糖依存性のインスリン分泌促進
・      グルカゴン分泌抑制
・      胃排出遅延
・      中枢性の食欲抑制

 GLP-1RAは、これらの生理作用を同時に、かつ持続的に引き出します(8)。GLP-1RAは世界中から注目されている薬剤なので、とにかく研究が盛んです。全身の様々な臓器のGLP-1受容体に作用することで、様々な薬理作用を介して効果を発揮することが考えられており(9)、未だ全容は明らかではありませんが、やはり主作用は食欲調整だと思っています。

  

2-2. 血糖低下のメカニズムと、臨床での見え方

 GLP-1RAによる血糖低下は、次の3つの機序が重なって起こります。

 1)血糖依存性インスリン分泌促進
GLP-1RAは、血糖が高いときにのみインスリン分泌を後押しします。このため、単独使用やメトホルミン、SGLT2阻害薬との併用では低血糖が起こりにくくなります。

 2)グルカゴン抑制による肝糖放出の是正
2型糖尿病では、食後にも不適切なグルカゴン分泌が続き、肝糖放出が抑えられません。GLP-1RAはこの異常を是正し、空腹時血糖の改善にも寄与します(10)。

 3)胃排出遅延による食後血糖スパイクの緩和
胃内容物の排出を遅らせることで、糖の吸収速度を落とします。そのため、導入初期は食後血糖が先に改善することが多くなります。

 一方で、この作用は消化器症状とも表裏一体であり、増量スピードが速いほど悪心や食欲不振が出やすくなります
「効かせるコツは急がない」ことが、作用機序からも説明できます。

 

 2-3. 体重が落ちる理由は「脂肪燃焼」ではなく「摂取量の変化」

 GLP-1RAによる体重減少は、エネルギー消費増加よりも、摂取エネルギー低下の寄与が大部分を占めます。GLP-1は胃内容物の排出を遅らせることで、物理的に満腹感をもたらしますが、GLP-1受容体は視床下部や脳幹にも発現しており、GLP-1RAは中枢に作用して、

・      食欲を弱める
・      満腹感を早く、長くする
・      間食や過食の衝動を抑える

 といった変化を引き起こします(11)。患者から、「自然に食べる量が減った」「無理していないのに体重が落ちた」という言葉がよく聞かれます。これは意思の問題ではなく、摂食行動のドライブ自体が弱まった結果です。

 製剤間で体重減少効果に差が出る理由として、中枢移行性や受容体刺激の持続性が影響していると考えられています。若年で肥満が強い患者では大きな武器になる一方、高齢者ややせ型、フレイルでは「効きすぎ」に注意が必要です。

  

2-4. GIP/GLP-1受容体作動薬は何が上乗せされているのか

 GIP/GLP-1RAであるチルゼパチド(マンジャロ)は、GLP-1作用に加えてGIP受容体も刺激する薬剤です。

 GIPはGLP-1と並ぶインクレチンですが、以前は、2型糖尿病患者にGIPを投与しても、ほとんどインスリンが増えない(効果がない) と考えられていました。なぜ「効かない」と言われていたGIPが、チルゼパチド(マンジャロ)などのGLP-1との合剤になると画期的な効果を出すのか、その理由は主に3つです。

 (1)  GIPが「復活」する(血糖値の改善)

 これまで2型糖尿病では、GIPを投与してもインスリンがあまり出ない(GIP抵抗性)ことが知られていました 。 しかし、GLP-1の力でまず血糖値を下げてあげると、「高血糖による麻痺」が取れて、GIP本来のインスリン分泌能力が復活することがわかってきました(12)。GLP-1が露払いをした後に、GIPが本領を発揮するという連携プレーです。

 (2)「脂肪の質」を変えてインスリンを効きやすくする(異所性脂肪の減少)

 ここがGLP-1との最大の違いです。GLP-1は、主に「食欲を抑えて体重を減らす」ことで代謝を改善します。GIPは、脂肪組織に働きかけ、余ったエネルギーを「肝臓や筋肉(異所性脂肪)」ではなく、「皮下脂肪」などの安全な場所に優先的に収納させる働きがあると考えられています(脂肪のバッファー機能)(12)。結果として、肝臓や筋肉から脂肪毒性が抜け、GLP-1単独よりも強力に全身のインスリン感受性(効きやすさ)が良くなります 。

 (3)副作用(吐き気)をGIPがカバーする

 GLP-1受容体作動薬の欠点は、用量を上げると「悪心・嘔吐」が出ることでした。動物実験レベルですが、GIPの刺激にはGLP-1による吐き気を抑える作用があることが報告されています(12, 13)。GIPが副作用を打ち消してくれるおかげで、十分な量の薬剤を投与でき、強力な効果が得られている可能性があります。

 臨床的には、GLP-1RAではHbA1cや体重の改善が不十分な症例、肥満が強く、体重も積極的に動かしたい症例でもGIP/GLP-1RAが真価を発揮することがあります(かなりあります)。一方で、消化器症状、体重減少過多といった問題も出やすく、用量漸増と継続設計がより重要になります。

  

2-5. “効き方のクセ”を理解する

 (1)血糖は「食後から入って、次に空腹へ」

 ・      GLP-1RAは、開始直後は食後血糖が先に動きやすいです。理由は、胃排出の遅延、食後のインスリン分泌増強とグルカゴン抑制が“食後”に強く効くからです(8)
・      一方、空腹時血糖は、体重減少(インスリン抵抗性の改善)、肝糖産生の是正などが効いてきて、時間差でじわじわ下がります(14)。

 (2)体重は「食欲→摂取量」で落ちる(体重計より“食欲”を先に見る)

・  体重変化は患者さんの行動変容(摂取量の変化)に依存します。つまり、食欲が落ちているか、間食が減っているか、1回量が自然に減っているか、が早期の“効いているサイン”です(8)。
・      体重がすぐに落ちない場合も、食欲は落ちているが、まだ行動に反映されていない、便秘や悪心で食形態が偏り、結果として摂取量が落ちていない、などがありえます。

 (3)消化器症状は「薬の強さ」ではなく「増量スピード」で決まることが多い
・      食欲不振・悪心・便秘・下痢は、作用機序と地続きです。つまり副作用というより「薬理作用が強く出た表現型」です(8)。
・      症状が出た場合は、注射+”どんな食べ方”をしたら消化器症状が強くなるか?を振り返ってもらいます。「食べ過ぎちゃったら気持ち悪くなるんですよねー」くらいが調度いいサインだと思います。
・      大事なのは、“急がない”こと。作用機序を理解していると、増量延期や一段戻しが「負け」ではなく「継続率を上げるための戦略」だと納得できます。

 (4)実際、血糖と体重の効果は時間差がある
GLP-1受容体作動薬は、「血糖」「体重」に強力に作用しますが、これらの作用には少し時間差があります。図は、日本人2型糖尿病 636名(平均年齢57歳、HbA1c 8.2%、BMI 28.1)を対象としたチルゼパチドvsデュラグルチドの第3相試験(SURPASS J-mono試験)(15)ですが、血糖降下作用は開始直後から強力に表れ、以後横ばいであるのに対し、体重減少作用は、投与直後から始まり、1年後も継続しています。

  

3.薬剤一覧とエビデンス

3-1. 日本で使えるGLP-1RA製剤

 2010年のリラグルチド(ビクトーザ)登場から様々なGLP-1RA製剤が発売されてきました。ヒト由来/トカゲ由来、短時間/長時間、1日1~2回/週1回、分子量、脳へ届くか、併用薬のしばり、など様々でしたが、徐々に淘汰されていきました。2026年後半にリラグルチド(ビクトーザ)の日本での発売中止が決まっており、注射製剤として使用できるのは、

 ・      週1回GLP-1RAのセマグルチド(オゼンピック)、デュラグルチド(トルリシティ)
・      週1回GIP/GLP-1RAのチルゼパチド(マンジャロ)

 の3つが選択肢となります。効果、簡便、副作用からチルゼパチド(マンジャロ)を選択する機会が圧倒的に増えましたが、ざっくりとした個人的な製剤使い分けの目安を記します。

・最大の体重減少効果を期待 → チルゼパチド(マンジャロ)>セマグルチド(オゼンピック)
最大の血糖低下効果を期待 → チルゼパチド(マンジャロ)>セマグルチド(オゼンピック)
心血管イベント抑制エビデンス → セマグルチド(オゼンピック)>チルゼパチド(マンジャロ)、デュラグルチド(トルリシティ)
高齢者など,消化器症状を抑えたい → デュラグルチド(トルリシティ)
・基礎インスリン使用中、配合薬で注射回数の負担少なくしたい
 → 1日1回 ゾルトファイ配合注(リラグルチド+基礎インスリン)、ソリクア(リキシセナチド+基礎インスリン)  

3-2. 各GLP-1RAの血糖、体重への効果

3-2-1. チルゼパチド > セマグルチド > デュラグルチド

強さのイメージは、HbA1cも体重も
チルゼパチド > セマグルチド > リラグルチド > デュラグルチド
です(比較のため1日1回のリラグルチド(ビクトーザ)も入れています)。

 GLP-1製剤の「強さ」の目安を、単剤で最大用量使用した第3相試験ベースでみてみると、以下のようになります。

 チルゼパチド(マンジャロ)5~15 mg(SURPASS-1試験) (16)
・      HbA1c: 約 1.9~2.1%
・      体重: 約 7〜10 kg(8~11%)

 セマグルチド(オゼンピック)0.5~1.0 mg (SUSTAIN-1試験 (17))
・      HbA1c: 約 1.5〜1.6%
・      体重: 約 4〜5 kg(4~5%)

 リラグルチド(ビクトーザ)1.2~1.8 mg(LEAD-3 試験(18))
・      HbA1c: 約 0.8〜1.1%
・      体重: 約 2〜3 kg(2~3%)

 デュラグルチド(トルリシティ)1.5 mg(AWARD-3試験 (19))
・HbA1c: 約 0.8%
・体重: 約 2 kg(2%)

 チルゼパチド vs デュラグルチドを日本人(2型糖尿病636名、年齢56.6歳、HbA1c 8.2%、BMI 28.1))で直接比較したRCT(SURPASS J-mono)試験(15)でも、
・      HbA1c(52週)
チルゼパチド 5mg -2.4% 10mg -2.6% 15mg -2.8% vs デュラグルチド 0.75mg -1.3%
・      体重(52週)
チルゼパチド 5mg -5.8kg 10mg -8.5kg 15mg -10.7kg vs デュラグルチド 0.75mg -0.5kg

と、チルゼパチドが圧倒していました。

 2型糖尿病患者を対象とした12週間以上のプラセボ対照のRCT 76報(合計39,246人)のネットワークメタ解析をみても、チルゼパチド(マンジャロ)の圧倒的な強さが目立ちます(図)。 

各GLP-1・GIP/GLP-1RAのHbA1c、体重減少効果(プラセボ対照RCTのメタ解析
いますぐひける糖尿病診療ノート」 p217

 GLP-1RAの効力については、体重、血糖、副作用など何を指標とするかでも変わるため、「○○何mg=△△何mgに換算」することは難しいと思いますが、各薬剤RCTの結果と、筆者の感覚(n=1)からの目安を図にまとめています。ただし保険診療上、他のGLP-1に変更する際は、最低用量から開始する必要があるため、あくまで参考程度に考えて下さい。  

各GLP-1RAの用量別力価の目安
いますぐひける糖尿病診療ノート」 p217

 

3-2-2. HbA1cと体重によく効く人の特徴

(1)  HbA1cが高いほど下がる

原則として、開始時HbA1cが高いほど低下量は大きいです。
日本人SURPASS J-monoのHbA1cサブ解析(HbA1c 8.5%以下 vs 8.5%超)でも、チルゼパチドは幅広いHbA1c帯で一貫して改善していますが、チルゼパチド(デュラグルチド)のHbA1c低下効果は、

・      HbA1c<8.5%では、2.0〜2.3%低下(デュラグルチドは-1.1%)
・      HbA1c≧8.5%では、3.1〜3.9%低下(デュラグルチドは-1.8%)
と、ベースのHbA1cが高いほど、低下幅が大きい結果でした(20)。

  

(2)  体重はBMIより食欲ドライブで決まる

体重に効きやすいのは、ベースのBMIというより、間食が多い、夕食が多い、分かっているが食べてしまう、といった「食行動が血糖と体重に直結している」人です。逆に、やせ型、高齢、フレイル、摂食が細い人では、効きすぎ(体重減少過多)に注意が必要です。

 

(3)残存インスリン分泌能との関連は? 

以前から、「GLP-1RAはインスリン分泌促進薬なので、内因性インスリン分泌能が十分残っているほど効きやすい」と言われてきました。

 デュラグルチドとリラグルチドの効果を比較した日本国内の第3相試験のサブ解析において、投与前の空腹時血清Cペプチドの濃度(CPR値)により患者を3群に分けで、それぞれの群間にHbA1cの改善度に差があるかを検討されました(21)。介入26週後のHbA1cの低下度は、投与前のCPRによらず、デュラグルチドとリラグルチドのHbA1c低下効果は一定していました。最もインスリン分泌能が低い群は空腹時CPR 0.42~1.00ng/mLであり、残存インスリン分泌能とGLP-1の効果にはそこまで関連がないかもしれない、ことも示唆されています(21)

 ただし、長期的な減量効果、減量による血糖以外の代謝指標、肥満関連心腎アウトカムを考えると、残存インスリン分泌能が高い高度肥満では、GLP-1RAの有効性が高くなるのは言うまでもないと思います。

  

3-3. 心血管・腎アウトカム

3-1の表に心腎アウトカムの主要臨床試験についてもまとめています。

GLP-1RAは、2型糖尿病治療の中で「血糖を下げる」だけでなく、ASCVDイベントを減らすエビデンスを持つ薬です。特に、主要心血管イベント(3点MACE:心血管死 非致死性心筋梗塞 非致死性脳卒中)を減らすことが複数のCVOT(Cardiovascular Outcome Trial:心血管アウトカム試験)で示されています(1-3)。ここは歴史の順でみていきます。 

3-3-1.主要臨床試験(CVOT)

1)リラグルチド(ビクトーザ)

 LEADER試験(2016年)(1, 4)
糖尿病罹病期間13年、心血管既往81%、64歳、BMI 33、HbA1c 8.7%
リラグルチド(1.8mg) vs プラセボ 、追跡3.8年で、

 ・      心血管複合(3点MACE) HR 0.87(13%減) NNT 55
・      心血管死 HR 0.78(22%減) NNT 79
・      心筋梗塞、脳卒中、心不全は有意ではない
・      腎複合アウトカム HR 0.78(22%減) NNT 68 

※NNTは、Number Treated to Need=1イベントを抑制するのに必要な人数です(少ないほど恩恵を受ける人が多い)。

  

2)セマグルチド(オゼンピック)
SUSTAIN-6試験(2016年)(2)
糖尿病罹病期間13.9年、心血管or CKD既往83%、65歳、BMI 33、HbA1c 8.7%
セマグルチド(0.5mg 1.0mg半々) vs プラセボ、追跡2.1年で、
・      心血管複合(3点MACE) HR 0.74(26%減) NNT 43
・      心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全は有意ではない
・      腎複合アウトカム HR 0.64(36%減) NNT 43

 FLOW試験(2024年)(6)
2型糖尿病+CKD(eGFR 25-75/UACR100-5,000)、66歳、SGLT2阻害薬使用率15.6%、
セマグルチド(1.0mg) vs プラセボ、追跡3.4年で、
 ・      腎複合アウトカム HR 0.76(24%減) NNT 20
・      心血管死 HR 0.71(29%減) NNT 42

 FLOW試験までは、GLP-1RAの腎保護は長らく 「アルブミン尿の改善が主」 と理解されてきました。リラグルチド(LEADER)(4)では、主に 新規マクロアルブミン尿の抑制(HR 0.74) が効いていましたし、セマグルチド(SUSTAIN-6)(2)やデュラグルチド(REWIND)(5)でも同様でした。

 FLOW試験では、全員CKDを対象に、アルブミン尿の改善だけでなく、eGFR 50%低下をHR 0.73と有意に抑制し、eGFR低下も -2.19 vs -3.36(mL/min/1.73 m2)と有意に抑制し、腎臓を本気で守りたい場面でも、GLP-1RAも“追い風”ではなく“戦力”になり得る、というメッセージを与えました。

  

3)デュラグルチド(トルリシティ)
 REWIND試験(2019年)(3, 5)
糖尿病罹病期間10年、CVD既往32%、66歳、BMI 32、HbA1c 7.2%
デュラグルチド(1.5mg) vs プラセボ、追跡5.4年で、 

・      心血管複合(3点MACE) HR 0.88(12%減) NNT 71
・      脳卒中 HR 0.76(24%減) NNT 111
・      心血管死、心筋梗塞、心不全は有意ではない
・      腎複合アウトカム HR 0.85(15%減) NNT 40 

REWIND試験は心血管疾患の既往がある人が約3割と、一次予防が多い集団であり、相対リスク低下も小さかったのですが、それでも一応、MACE低下が示されました。

  

4)チルゼパチド(マンジャロ)
SURPASS-CVOT試験(2025年)(7)
糖尿病罹病期間14.8年、CVD既往100%、64歳、BMI 33、HbA1c 8.4%
チルゼパチド5~15mg(vsデュラグルチド1.5mg)、追跡4.0年で、

・      心血管複合(3点MACE) HR 0.92(0.83-1.01) 非劣性
・      心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全も有意差なし

 腎アウトカムについては、2026年1月時点で論文未発表ですが、2025年12月に開催された、Kidney Week 2025で、複合腎アウトカムをHR 0.67(33%減)、有意に抑制したと発表されています。

 SURPASS-4の腎複合でも、チルゼパチド はインスリングラルギンより腎複合アウトカムを大幅に低下させた(HR 0.58)ことが報告されています(22)。

 血糖、体重減少効果は現時点で最強のチルゼパチドですが、新しい薬だけあって、心血管アウトカムの臨床試験は、他のGLP-1RAほど確立していないように見えます。さらに、これまでのGLP-1RAと違って、プラセボ比較のRCTは組めず、vs GLP-1のRCTが実施されています。

 一方で、2025年に発表された大規模なリアルワールドデータによる直接比較(米国保険データを用いた5つのコホート)でも、心血管ハイリスク患者におけるチルゼパチド vs セマグルチドで、 主要複合アウトカム(心筋梗塞・脳卒中・全死亡)は、HR 1.06(0.95-1.18)と有意差はなかった(チルゼパチドとセマグルチドの心血管保護効果は、実臨床において同等)と報告されました(23)

 ASCVD既往の心血管ベネフィットはセマグルチド優位と書かれることもありますが、”個人的には、心血管・腎への長期的ベネフィットは高いと予想できること、体重・血糖への効果が強いこと、消化器症状、デバイスの利点も含めて、心血管・腎目的でもチルゼパチド>セマグルチドを選んでいい”と思っています。

  

3-3-2. 日本人での期待はどうか?

 1 主要CVOTの解釈

 日本人を対象とした大規模なGLP-1RAのRCTは、他の治療薬同様、もちろん存在しません。日本人に対する結論は「国際CVOTの結果を、日本人を含むアジア人サブ解析とメタ解析で補強して外挿する」という形になります。

 主要CVOTは多国籍で、日本人は少数です。例えばLEADER(リラグルチド)(1)、SUSTAIN-6(セマグルチド)(2)では、アジア人の比率は8%程度と少ないです。BMIも32~33と肥満の程度も強く、日本で普段診る患者の平均像とは大きく異なります。

 一方で、CVOT 8試験のメタ解析で、GLP-1RA vs プラセボの心血管抑制効果を人種別にみてみると、

 ・      相対リスク減少 アジア人 HR 0.69(31%減少)、白人 HR 0.85(15%減少) 
・      絶対リスク減少 アジア人2.9%、白人1.4%
・      NNT アジア人 35、白人 73 

と、アジア人で有意に高いと報告されています(24)。SOUL試験を含むメタ解析アップデートでも同様です(25)。つまり「日本人を含むアジア人ではGLP-1のベネフィットが大きい可能性」があります。ただし、これはサブ解析の統合であり、背景リスクや医療体制の違いを完全には調整できない点は注意が必要です。

 2 心血管アウトカムの内訳

 一方で、例えばSUSTAIN-6(セマグルチド)のアウトカムの内訳をみてみると、 

・      心血管死0.98(0.65-1.48)
・      非致死性心筋梗塞0.74(0.51-1.08)
・      非致死性脳卒中0.61(0.38-0.99)
 
と、脳卒中のリスク低下が目立ちます(2)。

 欧米(UKPDS)では心疾患リスクが脳卒中の3倍以上あるのに対し、日本(JDCS)では心疾患と脳卒中のリスクがほぼ1対1と同等であること(26)を踏まえると、”心臓イベントよりも脳イベント抑制に効くかもしれない”、というのは、日本人での恩恵が強い可能性があります。

 2025年に発表された中国のLAMP試験では、2型糖尿病合併軽症脳梗塞または高リスクTIA 636例を対象としたRCTにおいて、リラグルチド vs 標準治療のみで、90日以内の脳卒中再発(虚血・出血)は、HR 0.56 (0.34-0.91) と、44%有意に抑制しており(27)、アジア人でも脳卒中抑制への有効性が期待値を少し上げました。

  

3 個人的なまとめ

 1.    二次予防目的(ASCVD既往あり)では、国際CVOTの恩恵をそのまま狙いやすい

 心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患など既往がある患者では、MACE抑制を目的としてGLP-1RAを選ぶ説明がしやすいです。

 2.一次予防目的(ASCVD既往なし)ではNNTが大きくなりやすい

 ベースラインリスクが低いほど絶対差が小さくなり、NNTは大きくなります。日本人では特に、合併症が少ない集団に漫然と使うと「良い薬だが費用対効果の実感が薄い」状況になりやすいです。一方で、喫煙や高血圧、CKD、アルブミン尿などがある場合は、一次予防でも“高リスク一次予防”として価値が上がります

 3. 心不全目的で主役にする薬ではない

最近、SUMMIT試験(2025年発表、チルゼパチドが心不全イベントを38%抑制)(28)、STEP HFpEF DM(2024年発表、セマグルチドが心不全スコア、歩行距離を有意に改善)(29)など、GLP-1(GIP/GLP-1)RAが心不全にも有効な報告が相次いで発表されていますが、いずれも高度肥満(平均BMI 36~38)を対象としており、日本人には適用しにくいエビデンスです。

心不全抑制を最優先にするならSGLT2阻害薬が軸で、GLP-1RAは「体重、血糖、ASCVD」を同時に取りにいく薬として位置づけるのが安全です。

  

4.副作用

4-1. 消化器症状(悪心・嘔吐・便秘・下痢)

 GLP-1(GIP/GLP-1)RAで、圧倒的に多い副作用は、悪心・嘔吐・下痢・便秘などの消化器症状です。症状が理由で中止せざるを得ないこともあるため、導入前から「副作用を出さない設計」を組むことが重要です。

 特に、もともと食事摂取量が多い肥満患者では、生活習慣が変わらないまま導入すると消化器症状が強く出る可能性があるため、導入時に食事量(特に脂質)を適正化するよう具体的に指導することが、継続のコツになります。

 また、消化器症状は投与開始時や増量時に起こりやすい一方で、自然軽快することも多いです。症状が強くなくQOLが大きく低下しない範囲なら、基本は継続しつつ様子を見るという考え方になります。ただし、高齢者では消化器症状が起こりやすいとされ、より注意が必要です。

 増量時に消化器症状が出やすい場合は、
・      症状がある状況で無理に増量しないこと
・      増量間隔を延ばす
・      一つ前の容量に戻す
ことを意識します。

目標は「副作用ゼロ」ではなく、“中止ゼロに近づける”運用です。

 また、最近では、GLP-1RA使用者では逆流性食道炎リスクが上がることも報告されています(30)。機序を考えると当然のリスクかもしれませんが、もともと難治性の逆流性食道炎があれば注意します。

  

◎どれくらい起きる? 

チルゼパチド(マンジャロ)について、日本人対象のRCT(SURPASS J-mono)では、消化器症状の頻度(52週)は、

・      悪心: 12〜20%
・      便秘: 14〜18%
・      下痢: 4〜10%
・      嘔吐: 2〜7%

 でした。ただし、消化器症状は頻度で表されても、どれくらいきつかったのがわかりにくいです。「薬を中断するほど消化器症状が強かった割合」が、もう少し信頼性が高いと思いますが、有害事象による中止は、チルゼパチド、プラセボともに約3%と、あまり高くはありません(15)

 リラグルチド(ビクトーザ)1.8mgでは、有害事象による永続中止は 9.5%(プラセボ7.3%)で、内訳は悪心 1.6%、嘔吐 1.2%、下痢 0.6%でした(1)。セマグルチド(オゼンピック)でも、有害事象による永続中止は 11.5%(プラセボ5.7%)で、体感的にもリラグルチドに近く、チルゼパチド(マンジャロ)より強い気がしています(2)。

 デュラグルチド(トルリシティ)は、1.5mg使用群でも重篤な消化器症状が 2.4%(プラセボ2.4%)であり、薬剤による影響がGLP-1RAの中で最も小さいです(3)

  

◎チルゼパチド vs セマグルチド

実際に気になるのは、使用頻度の高い、チルゼパチド(マンジャロ)vs セマグルチド(オゼンピック)です。

直接比較のRCT(SURPASS-2)での副作用報告(表)(31)をみると、あまり大きな差はないようにみえます。メタ解析でも製剤間の消化器系有害事象の頻度はあまり大きくかわりません(32, 33)。

SURPASS-2における、消化器症状の頻度

 ただ、感覚的には、チルゼパチドよりセマグルチドの方が消化器症状が強く出る患者さん多いです。もちろん個人差は大きいのですが、セマグルチドは悪心や食欲低下が「出るときははっきり出る」タイプで、増量のタイミングや食事内容が雑だと一気に継続が揺らぎます。

 一方でチルゼパチドは、導入前にこちらが設計しておけば意外とマイルドに走ることがあります。特に、脂質の多い食事や早食いが残っていると胃腸症状が目立ちやすいので、開始時に「量を7割」「脂は控える」「ゆっくり食べる」をセットで指導しておくと、症状が前面に出にくい気がします。つまり、チルゼパチドは“薬が強いから副作用も強い”と決めつけるより、むしろ「食事の作法と増量の作法でマイルドにできる薬」という印象です。

  

4-2. 胆道系疾患・膵炎

結論からいうと、
(1)胆道系イベントは「少し増える」。ただし増え方はわずかで、臨床では“見逃さないこと”が大事
(2)膵炎は少なくとも大規模データでは「明確に増える」とは言いにくい

 (1)胆道系疾患は増えるのか

 インクレチン関連薬は、以前から胆嚢・胆道系疾患リスク上昇との関連が懸念されてきました(34)。

 76のRCTをまとめたメタ解析では、GLP-1RAは胆嚢・胆道系イベントのリスク上昇と関連しました。
内訳をみると
・      胆嚢・胆道疾患全体 HR 1.37(1.23-1.55)、1年で1万人あたり27人増加
・      胆石症 HR 1.27(1.10-1.47)、1年で1万人あたり14人増加
・      胆のう炎 HR 1.36(1.14-1.62)、1年で1万人あたり10人増加
・      胆道疾患 HR 1.55(1.08-2.22)、1年で1万人あたり9人増加
・      胆道癌 HR 1.43(0.80-2.56)、1年で1万人あたり5人増加(有意ではない) 

特にリラグルチドでHR 1.79(1.45-2.22)と高く、高用量、長期間、非糖尿病肥満でも強い傾向でした(35)。

 実臨床の大規模比較でも、方向性は概ね同じです。
2型糖尿病でGLP-1RAとSGLT2阻害薬を比較した大規模コホートでは、胆道系イベントは
・      GLP-1RA vs SGLT2阻害薬で、胆道系イベント HR 1.15(1.05-1.26)
・      GLP-1RA vs DPP-4阻害薬で、胆道系イベントHR 0.95(0.86-1.04)
と、GLP-1RAの方が増えていますが、増加は「年間1000人あたり1件未満」です(36)。

 韓国の全国データを用いた研究でも
・      GLP-1RA vs SGLT2阻害薬で、胆道系イベント HR 1.27(1.07-1.50)
と、わずかに増加していますが、ベースラインのBMIで層別しても、結果は一定だったと報告されています(37)。胆道系・膵炎イベントは「肥満で起こりやすい」と思われがちですが、BMIに関係なく起こり得るようです。

 

 (2)  膵炎は増えるのか

 GLP-1RAは発売初期から、症例報告や自発報告をきっかけに膵炎が話題になりました。しかし、その後の大規模観察研究やCVOTを含むメタ解析では、少なくとも集団レベルでの膵炎リスク上昇は支持されにくい流れになっています。

 国際多施設の大規模コホートでは、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬とGLP-1作動薬)使用は、他の経口薬を複数併用している群と比べて急性膵炎入院リスクを増やさない、という結果でした(38)。

 2025年に報告された、米国120万人以上のコホートでも、結論は同様です。GLP-1RA vs SGLT2阻害薬で、急性膵炎 HR 1.01(0.90-1.13)、GLP-1RA vs DPP-4阻害薬でも、急性膵炎 HR 1.08(0.95-1.22)と差はありませんでした(36)

 プラセボ対象7つのRCTのメタ解析でも、2型糖尿病56,004名中1.3年~からの追跡で急性膵炎180例、膵癌108例が報告されましたが、オッズ比は急性膵炎 1.05(0.78–1.40)、膵癌 1.12(0.77-1.63)と、薬剤との関連はありませんでした(39)。

 胆道系と膵炎は、頻度そのものよりも「疑ったときに確実に拾う」方が重要です。また、”既往があれば使用できない”わけではありませんが、導入前に、
・      胆石 胆のう炎 胆管炎の既往、胆石発作っぽいエピソード
・      急性膵炎の既往(原因不明 反復性は要注意)
は確認しておき、”既往があればGLP-1導入を慎重に検討したほうがよい”、くらいの距離感です。

  

4-3. 眼合併症(網膜症、NAION、他)

 1 糖尿病網膜症
・      GLP-1RAで“増える”というより、HbA1cが短期間に大きく低下することに伴う現象と考えられています(2)。
・      既に網膜症がある人・急速な血糖改善が見込まれる人は、開始前後の眼科フォローを厚めにします。

 2 NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)
・      2024~2025年にかけて、セマグルチドとNAIONの関連を示唆する研究が複数出ていますが、研究間で揺れがあり、絶対リスクは低いです。
・      現時点では、「禁忌のように避ける」ではなく、GLP-1RA開始後、”見え方がおかしければすぐに眼科受診”という注意喚起程度が妥当です。

 3 その他(加齢黄斑変性、視神経疾患、視神経乳頭異常など)
・      大規模データでは、NAION“だけ”でなく、他の視神経障害が増えている可能性も議論されています(40)。

  

1 糖尿病網膜症

 ・      SUSTAIN-6試験では、セマグルチド群で網膜症関連イベント(硝子体出血、失明、光凝固/硝子体内注射など)が増加しました(3.0% vs 1.8%、HR 1.76)(2)。
・      ただしGLP-1RA全体で一貫した有害性が示されたわけではありません。
・      CVOTのメタ解析では、「GLP-1RAそのもの」よりも、「HbA1c低下量が大きいほど網膜症リスクが高い」という関係が示されています(41)。
・      SUSTAIN-6の事後解析では、治療開始前から網膜症がある、HbA1cが高値、HbA1cの急激な改善、インスリン併用、の条件が重なると網膜症悪化のリスクが高いことが示唆されています(42)。
・      「血糖を急速に改善した後に網膜症が一過性に悪化する」現象は、インスリン治療などでも古くから知られています(43, 44)。

 注意すべき患者背景として、
・      中等度以上の非増殖網膜症、増殖網膜症、糖尿病黄斑浮腫がある
・      HbA1cが9~10%以上と高値
・      インスリン治療中、または同時に治療強化予定
・      最近眼科治療を受けた、または予定がある

 実際、行ってほしいこととしては、
・      直近6~12か月以内に眼底評価を受けていなければ、GLP-1RA開始前に眼科受診を推奨
・      開始後、特に最初の3~6か月は、視力低下、見え方がおかしければ早めに眼科受診するよう説明

 一方、チルゼパチドについては、SURPASSプログラムでは、チルゼパチドによる網膜症リスク増加は明確ではありません(45)。ただしHbA1c低下が大きいため、網膜症の早期悪化という意味では、GLP-1RAと同様に注意します。

   

2 NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)

 私も最近までNAIONという言葉を知りませんでしたが、GLP-1RAでリスク上昇することで注目ワードになりました。NAIONは、突然の無痛性視力低下や視野欠損を来す視神経障害で、もともと、糖尿病、高血圧、加齢、睡眠時無呼吸などがリスク因子です。

 ・      単施設の後向きコホート研究(NAION既往のない2型糖尿病患者710名)では、3年間の累積NAION発症率は8.9%対1.8%、調整HR 4.28(95%CI 1.62–11.29)と、セマグルチドとNAIONの関連が指摘され、注目されました(46)。ただし、対象は「神経眼科を受診した患者」なので発症率は極端に高くなっています。

 ・      デンマークとノルウェーのレジストリを用いた新規使用者コホートでも、セマグルチド開始 vs SGLT2阻害薬開始を比較した結果、NAIONの調整HR 2.81(95%CI 1.67–4.75)と相対リスク上昇が示されました(47)。ただし絶対リスク差は+1.41/10,000人年にとどまり、「増えるとしても人数としては稀」という位置づけになります。

 ・      2型糖尿病3,710万人の国際大規模データベース解析(セマグルチド新規使用者810,390人を含む)では、セマグルチド vs 他の糖尿病治療薬に比べて相対リスク1.32(95%CI 1.14–1.54)とわずかに有意に増加しますが、NAION発症率は14.5/100,000人年とかなり低いです(48)。

 ・      2026年に発表された、GLP-1RAとNAIONのリスクのメタ解析(RCT・観察研究15本、約157万人)では、GLP-1RA vs 対照群で、NAIONのリスクは、 OR 1.70(1.23-2.36)で有意に上昇していましたが、絶対リスク増加は0.04%程度(2700人に1人、GLP-1RAの影響でNAION発症する程度)とごくわずかです(49)。

 研究デザインや比較薬により推定値は揺れるものの、GLP-1RAでNAIONが「控えめに増える可能性」は否定できず、一方で絶対リスクは低いという点は共通しています。視神経疾患の既往がある方は稀だと思いますが、「稀だが報告がある」疾患として、知っておくことが大事かなと思います。

  

3 その他の眼合併症

 ・      2025年に発表されたカナダ、人口ベースの後ろ向き研究(傾向スコアマッチ後14万人)では、GLP-1RAの使用vs非使用で新規滲出型加齢黄斑変性(nAMD)リスクがHR 2.21(1.65-2.96)と2倍以上上昇、GLP-1RA30ヶ月以上になるとHR 3.62まで上昇することが報告されました(50)。ただし、発症率は低く(0.2% vs 0.1%)、絶対リスクは小さいです。やはり、高齢者や既存の眼疾患がある場合は、定期的な眼科フォローを意識します。

・      他にも様々な眼合併症のリスク上昇が指摘されています(40)が、やはりGLP-1RAの直接作用というよりは、血糖(体重)の急激な低下による間接的なものかもしれません。いずれにしても重要なのは、

 “GLP-1開始前の眼底評価、開始後「見え方」に異変があれば眼科受診”
です。

 

 5.実際の使い方

5-1. 結局どれを使うか?

今までの話をまとめると、必ずどれを使うのが正解、というのはありません。

 あくまで個人的な話ですが、私は、
・      第一選択 チルゼパチド(マンジャロ)
・      高齢者・消化器症状が心配なら デュラグルチド(トルリシティ)
・      注射経験者で細い針を好むなら セマグルチド(オゼンピック)

ぐらいの感覚で選んでいます。以前、GLP-1RAの使用経験があれば、中止した理由(痛い、消化器症状、効果なかった、など)を確認し、中止に至った原因を繰り返さないように選択、増量スピードの調整をします。

  

5-2. 腎機能による調整は不要

 GLP-1・GIP/GLP-1RAは腎排泄が主ではなく、腎機能が低下しても血糖・体重効果そのものは比較的保たれるので、腎機能で用量を調整する必要はありません。

 ただし、腎機能が低い患者ほど、食事量低下や嘔気・嘔吐から脱水に傾きやすく、腎前性の悪化を起こしやすくなります(糖尿病性腎症の場合、神経障害も進行して胃腸障害を合併している率も高くなります)。利尿薬やSGLT2阻害薬を併用している場合はさらに水分バランスが崩れやすく、体重が落ちやすい高齢者やフレイルでは、減量が“良い減り方”ではなく、栄養・筋量の低下として出てしまうこともあります。

 運用としては、eGFRが30以上であれば通常通り導入し、増量も基本は消化器症状の程度で決めます。eGFR30未満では、“増量を急がない”ことが重要で、むしろ少量で長めに様子を見る、フォロー間隔を短くする、という方針がいいと思います。

  

5-3. 実際の処方ステップ(著者のルーチン)

 Step1.開始前チェックリスト

 【適応について】
□ 目的は何か(血糖/体重/ASCVD/CKD)
□ 体重が落ちても大丈夫か?(高齢、フレイル、脱水リスク)
□ 注射デバイスの操作ができるか(理解、視力、手技、支援者)
□ 費用は大丈夫か? 

【副作用などの懸念】
□ もともと消化器症状(便秘・下痢・胃もたれ)、難治性GERD
□ イレウス、腹部手術既往がないか
□ 急性膵炎の既往(特に原因不明・反復性は注意)
□ 胆石・胆のう炎・胆管炎の既往、胆摘の既往(慎重に)
□ 眼底評価を受けているか?
□ 甲状腺癌既往がないか
□ 妊娠中・妊娠希望ではないか

  

Step2.開始用量 

セマグルチド(オゼンピック)は、インスリンのようなペン型注射器に注射針をとり付けて使用します。針が細い(32~34G)ので穿刺時の痛みはあまりありません。インスリンと同じ使い方なのでインスリンからの移行はしやすいですが、初めてであれば、注射手技を獲得する必要があります。初回のみ空打ち(液が出てくるか確認)が必要ですが、2回目以降は空打ちは不要です(毎回空打ちすると薬液が不足してしまう)。目盛を次の用量に進める(→0.25→0.5→1.0mg)のに、かなりダイアルを回さないといけないのは少し面倒です。海外では、目盛通りではなく、少しずつ増量したほうが消化器症状が出にくい報告(51)もありますが、もちろん推奨はされません。

 チルゼパチド(マンジャロ)、デュラグルチド(トルリシティ)は、アテオス(あてて押すだけという意味)という専用ペンになります。注射針は29Gで痛みがありますが、1回使い切り、事前の空打ち不要、注射針もペン内に取付済で見えない、設計となっており、簡便です。ただし、キャップを外さずに注入ボタンを押すと1本無駄になってしまう点には注意が必要です。

 痛みが軽いけど面倒なオゼンピック、痛いけど簡単なマンジャロ、トルリシティといった感じです。

 
◎添付文書上の用法

 チルゼパチド(マンジャロ): 2.5mg 週1回から開始(4週以上あけて5、7.5、10、12.5、15mgに増量可)

セマグルチド(オゼンピック): 0.25mg週1回から開始(4週以上あけて0.5、1.0に増量可)

デュラグルチド(トルリシティ): 0.75mg 週1回(1.5mgに増量可)

 ※4週以上あけて、とありますが、個人的には消化器症状対策のため、3-6ヶ月くらいかけて増量することも多いです。
※トルリシティは1.5mgも製剤はありますが、個人的には増量するくらいならマンジャロ2.5にします)

 
◎併用薬の調整
・      DPP-4阻害薬: 中止(忘れやすい、配合剤にも注意)
・      SU薬: 原則減量。低血糖は「想定内の副作用」
・      インスリン: もともと高血糖なら用量変更なし。血糖コントロールがよければ減量しておく。
・      SGLT2阻害薬: 継続。ただし、食事量低下による脱水に注意。水分はしっかりとるよう指導。

 ちなみに、GLP-1RAを開始することで、自己血糖測定が保険適用になります。自宅で血糖測定が可能になれば、治療意欲向上、問題意識の共有が可能になり、介入ポイントがみつかりやすいメリットもあります(もちろん費用も増えますが)。

  

Step3.最初に伝える説明

 「この薬は、血糖を下げるだけでなく食欲にブレーキをかけて体重も減りやすい薬です。」
「副作用は吐き気・胃もたれ・便秘・下痢が多く、開始直後と増量時に出やすいです。つらいときは我慢せずに言ってください。増量を止める/一段戻すだけで楽になったり、だんだん慣れてくることが多いです。」
「ムカムカは食べ過ぎのサインなので、ゆっくり、少なめに、脂っこいものは控えめ。無理に食べないでOKです。」
「体調が悪くて食べられない日は一旦中止して連絡してください。」
「飲み薬に比べて、費用が結構高くなります。(マンジャロ2.5mg導入で月あたり5000-6000円程度増加(3割負担の場合)。ただ、高いけどいい薬を早めにしっかり使ってほしい」

 

 Step4.フォロー

初回フォロー(2~4週)
・      悪心・嘔吐・便秘・下痢の有無
・      食事量が落ちすぎていないか
・      低血糖(SU・インスリン併用時)
・      体重の減り方が急すぎないか

問題なければ同量維持、もしくは1段階増量を検討(個人的には、添付文書の増量スピードよりかなりゆっくり増量しています)

 ・      悪心=増量が早すぎるサイン
・      便秘は「予測して先に対策」
・      食事量低下が強い場合は一段戻す勇気

 

6.GLP-1RAの最近のTOPIX

 Q1. GLP-1(GIP/GLP-1)RAで増える癌?、減る癌?

 1)がん全体

 結論から言うと、「癌全体としては増える根拠は今のところ強くない」です。

最新のRCTをまとめたメタ解析(RCT48報、約9.4万人)では、がん全体のオッズ比は0.99で、有意な増加は示されませんでした(52)。52週以上のRCTを対象にしたメタ解析でも、全がん:OR 1.05(0.98–1.13)と、で有意差はありません(53)。一方で、がんは潜伏が長く、RCTの追跡期間は短めなので、“完全に白”と言い切れない、と思います。

 

2)肥満関連癌

 同じRCTのメタ解析(52)では、部位別にみても、甲状腺がん(OR 1.37[0.82~2.31])、膵がん(OR 0.84[CI 0.53~1.35]、乳がん(OR 0.95[CI 0.60~1.49]、腎がん(OR 1.12[CI 0.78~1.60]など、GLP-1RAとがんリスクの関連はほとんどありません。

 一方で、観察研究(実臨床データ)の結果をみると、例えば米国後向きコホートのターゲットエミュレーション試験では、マッチ後8.6万人(平均年齢52.4歳、女性68.2%)を対象とし、GLP-1RA服用者vs非服用者で、全肥満関連がんは1,000人年あたり13.6対16.4、HR 0.83 [0.76-0.91]と有意に低い結果でした(54)。特に、子宮内膜がん(HR 0.75 [0.57-0.99])、卵巣がん(HR 0.53 [0.29-0.96])などのリスク減少が顕著でした。

 また、米国電子カルテデータベース(2型糖尿病165万人、平均60歳、男性50%)の後ろ向き研究では、最大15年の追跡期間ですが、GLP-1RAはインスリンと比較して、13種類の肥満関連癌のうち10種類で有意なリスク減少と関連していました(55)。
・      胆嚢がん(HR, 0.35; 95% CI, 0.15-0.83)
・      膵がん(HR, 0.41; 95% CI, 0.33-0.50)
・      肝細胞がん(HR, 0.47; 95% CI, 0.36-0.61)
・      卵巣がん(HR, 0.52; 95% CI, 0.03-0.74)
・      大腸がん(HR, 0.54; 95% CI, 0.46-0.64)
・      食道がん(HR, 0.60; 95% CI, 0.42-0.86)
・      子宮内膜がん(HR, 0.74; 95% CI, 0.60-0.91)
・      腎がん(HR, 0.76; 95% CI, 0.64-0.91)

 

3)甲状腺癌は増える? 

GLP-1RAの添付文書には、「甲状腺髄様癌の既往のある患者及び甲状腺髄様癌又は多発性内分泌腫瘍症2型の家族歴のある患者に対する、本剤の安全性は確立していない」と明記されています。

 これは、動物実験において甲状腺C細胞腫瘍の発生頻度の増加が認められたことによります。

 実際に、RCTのメタ解析では、GLP-1RA使用者で甲状腺癌 OR 1.55(1.05–2.27)(53)と有意に増加しており、フランスのレセプトデータを使用下でも、GLP-1RA 1〜3年の使用で
・      甲状腺癌:HR 1.58(1.27–1.95)
・      髄様癌:HR 1.78(1.04–3.05)
と有意に増加したと報告されています。ただしネステッドケースコントロール研究なので、「相対リスク」は出ても、発症率は分からず、臨床にどれくらい意味があるのか不明でした。

 一方、2025年に発表された多施設データベース研究では、甲状腺腫瘍の発生は0.88〜1.03/1000人年程度であり、GLP-1RA vs SGLT2阻害薬で調整HR 0.98(0.88–1.09)と、差なしでした(56)。 米国メディケアデータでも、GLP-1RA開始はSGLT2iより甲状腺癌が増えず、3年累積リスク差:-23/1万人、HR 0.74と推定されています(57)。

 現時点では、甲状腺癌は「RCTで小さなシグナルが出うるが、実臨床の大規模データでは増えていない」という整理でいいと思います。ただし、甲状腺癌の既往がある方にはあまり使いたくないです。

 

  

4)婦人科系癌(子宮体癌・卵巣癌など)

GLP-1RAと卵巣がんや子宮内膜がんなどの婦人科系癌の関連については、RCTでは関連なし(52)、観察研究では卵巣がんHR 0.52(0.03-0.74)子宮内膜がんHR, 0.74(0.60-0.91)と有意なリスク低下(55)が示されています。

 しかし、チルゼパチド高用量に限っては、RCTのネットワークメタ解析で
・ 婦人科がん全体 OR 2.37、絶対リスク差 0.57%(NNH 176)
・ 子宮内腫瘍 OR 4.65、絶対リスク差 0.38%(NNH 263)
と、無視できないリスク上昇が報告されています(58)。2025年12月に発表された論文であり、真偽はどうか、機序はどうか、不明な点が多いですが、今後も議論があると思いますので、現時点では“要注目だが確定ではない”程度の温度感でみています。

   

Q2. “自殺リスクが上昇するかも?”は、どうなった?

 結論からいうと、現時点では 「GLP-1(GIP/GLP-1)RAで自殺念慮・自傷行為が増える」ことを支持する根拠は乏しく、 “因果関係なし(少なくとも明確な増加なし)”で落ち着いています。

 2023年以降、症例報告・自発報告をきっかけに安全性シグナルとして検討されました。WHO自発報告データの解析では、セマグルチドで「自殺念慮」の報告が相対的に多いという“シグナル”が示されました(59)。それを受けて、米国FDAや欧州EMAから、2024年に「因果関係を示す根拠はないが、小さなリスクは否定しきれないため継続評価」と発表され、注意喚起がなされました。

 ・      北欧(スウェーデン+デンマーク)レジストリ: SGLT2阻害薬を比較対象にした大規模コホートで、自殺死・自傷の増加は示されませんでした(60)
・      英国データベース:DPP-4阻害薬/SGLT2阻害薬と比較した解析で、粗解析では差が見えても、交絡調整後はリスク増加なしでした(61)

 その後の包括的レビューを踏まえ、米国FDAは 2026年1月に、体重減少薬ラベルにある“自殺念慮/行動”警告の削除を要請しています

 この話題だけでGLP-1RAを避ける必要は基本的にありません。ただし、糖尿病・肥満は抑うつなどを合併しやすく、急激な体重減少や食欲低下でメンタル不調になりやすいのは事実なので、

 “薬が効いて体重・血糖が改善していても、”それが本人にとって喜ばしいことか、苦痛を伴うことか、確認する”姿勢が大事です。

  

Q3. サルコペニア、フレイルが進行する?

 薬が筋肉を「直接」壊すというより、減量に伴って除脂肪量(=筋肉+水分など)も一部減る、といった感じです。多くの試験で、減った体重の「中身」は脂肪が約70〜75%、除脂肪量が約25〜30%というイメージです。一方で、筋トレ+十分なタンパクで、このリスクはかなりコントロールできると思います。

 1)筋肉はどれくらい減る?

 チルゼパチド(SURMOUNT-1 DXAサブ解析)では、72週で体重−21.3%減少していますが、
・      脂肪量:−33.9%
・      除脂肪量(筋肉+水):−10.9%
であり、体重減少の内訳は、脂肪75%、除脂肪量25%と、除脂肪量も減りますが、脂肪の減りが大きいので、体組成としてはむしろ“除脂肪比率が上がる”、という読み方になります(62)。

 

2)ハイリスク因子 

「GLP-1RA=サルコペニア」ではなく、“減り方が危ない人”に注意することが大事です。
特に注意したいのは:
・      高齢(目安:75歳以上)、もともとフレイル/サルコペニア疑い
・      痩せ型〜標準体型(「減らす余地」が小さいのに食欲が落ちる)
・      活動量が低い(運動習慣ゼロ、歩行が少ない)
・      摂取不足(悪心・嘔吐・便秘で食事量が落ちる、タンパクが少ない)
・      慢性疾患で筋肉が落ちやすい(CKD、心不全、COPDなど)、炎症・感染反復
・      “早く効かせたい”で増量を急ぐ(短期間に体重がストンと落ちる)

 
3)予防はできるか? 

結論から言うと、レジスタンス運動介入を「やるか・やらないか」で言えば、やった方がいいです。 

GLP-1RAのみの介入だと、体重とともに、筋肉は落ちます。
ただし、レジスタンス運動(筋トレ)を併用することで、筋肉低下リスクはかなり下がります(63, 64)

 GLP-1RAとは直接関係ありませんが、肥満高齢者を対象に、食事制限単独と、食事制限+レジスタンス運動を比べたRCTの系統的レビューでも、レジスタンス運動併用で食事制限に伴う除脂肪低下が93.5%抑えられたと報告されています(65) 

 

 Q4. 内視鏡検査のときにGLP-1をどうするか?

 GLP-1RAの使用で、胃残渣(=胃に固形物が残る)は増えます。ただし、GLP-1RAも週1回製剤が主流になってきているため、内視鏡検査時に一律GLP-1RA中止は難しく、“胃残渣ハイリスクを拾って対策(絶食期間を延ばす、GLP-1RAスキップ、延期)が現実的です。

 1)胃残渣(胃内容)リスクは上がる

 GLP-1(GIP/GLP-1)RAは胃排出を遅らせるため、絶食していても胃内に内容物が残ることがあります。

 ・      上部内視鏡に関するメタ解析では、胃残渣のオッズ比が約5.6倍、さらに検査中止(中断)のオッズ比が約4.5倍と報告されています(66)。
・      大規模比較コホート(GLP-1RA vs SGLT2阻害薬)でも内視鏡の中止が増加し、中止頻度は9.8/1000 vs 4.9/1000と、100人に1人程度でした(67)。
・      日本のデータでは、糖尿病患者のスクリーニングEGDにおいて、PSマッチ後の胃残渣はGLP-1RA使用群で12.2% vs 非使用群で3.4%と、GLP-1RA使用群が多い結果でした(68)。ちなみにこの研究では検査後の誤嚥性肺炎は観察されていません。 

糖尿病患者では、もともと神経障害、胃腸障害の頻度が高く胃残渣が多くなりやすいですが、その中でもGLP-1RA使用者でさらに「胃残渣は増える」→「中止・再検が増えうる」ことになります。

 一方で、誤嚥、肺炎などの合併症リスクは、現時点では「少なくとも大きくは増えていない」と報告されています(66, 67, 69)。

  

2)誰がハイリスクか(ここだけ拾えば運用しやすい)
・      過去に「絶食しても胃に残っていた」
・      GLP-1RA導入初期/増量期(とくに直近4–8週)
・      悪心・嘔吐、早期飽満感、胃もたれ、腹部膨満がある
・      既知の胃排出遅延(糖尿病性胃不全麻痺など) 

全例で一律中止にする根拠は強くありません。低リスク(増量期でない/症状なし)では基本は継続、通常の絶食でよいと思いますが、高リスク(増量期、症状あり、胃排出遅延が疑わしい、深鎮静・麻酔など)では、①前日夕から固形食はやめて液体のみ摂取にする、②直近のGLP-1RAをスキップする(ただし週1回が主流なので難しい)、などの対応を個別に検討します(68)。 

週1回GLP-1RA製剤が主流となっていますが、国内でも海外でも内視鏡前のGLP-1RAの扱いについては共通のコンセンサスはまだありません。施設によっては、薬剤中止のプロトコールを採用しているところがあるかもしれませんが、個人的には、“最後のGLP-1RA投与日”より“絶食時間”の影響が大きいと思います。

  

Q5. 開発中のGLP-1”+α”作動薬は?

 肥満患者の世界的な急増を受けて、GLP-1関連薬の需要がますます伸びている背景と、チルゼパチド(GIP/GLP-1デュアルアゴニスト)の”大成功”を受けて、世界中の主要メーカーが新薬を開発中です。単剤GLP-1から、デュアルアゴニスト → トリプルアゴニスト → 経口化・長時間化の流れですが、今後は「どれだけ痩せるか」より、忍容性・利便性・価格・他の適用で棲み分けがされていくと思います。

 ■今後発売予定の主要メーカーGLP-1関連薬(2026年以降、各メーカーIR報告書などから)

  • オルフォルグリプロン(イーライリリー) 低分子経口GLP-1:注射並みの効果を内服(70, 71)

  • カグリセマ(ノボノルディスク) GLP-1+アミリン(カグリリンチド):食欲抑制を二重にかける配合注射(72, 73)

  • アミクレチン(ノボノルディスク) GLP-1+アミリン:カグリセマ後継の超強力食欲抑制(74)

  • レタトルチド(イーライリリー) GLP-1+GIP+グルカゴン(トリプルGアゴニスト):体重減少最強候補”(75)

  • マリタイド(アムジェン) GLP-1:月1回の超長時間型(76)

  • サルボデュチド(べーリンガー) GLP-1+グルカゴン:脂肪燃焼を強く促す二重作動薬。MASHも視野(77)

  • マズデュチド(中国) GLP-1+グルカゴン。中国主導、脂肪肝・肥満に強み(78)

  • CT-388(ロシュ/中外製薬) GIP+GLP-1:後発組だが差別化を狙うデュアルアゴニスト。

 中外製薬はロシュと開発したオルフォルグリプロンの販売権をリリーに譲渡して、CT-388の日本での販売権を2025年10月にロシュから獲得しています。CT-388の全容は不明ですが、日本で発売されれば、マンジャロの牙城を崩すかもしれません(個人の妄想です)。

 ただし臨床的には、”チルゼパチド以上のものが日本でどれだけ必要か”疑問です。これらの新薬のうち、どれだけ日本で使用できるのか不明ですが、”チルゼパチドの忍容性を超えるものが、供給が安定してくれれば使ってみたい“、というのが正直なところで、ほどよい距離感で今後の動向をみていたいです。

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