開業のご挨拶。投資総額55.8億の医師が「不動産の診察室」をはじめます
先日、若先生からこんなLINEが届きました。
「先生、僕の年収でも1棟目って買えるんですか? 年収1,700万あるのに、手取りは全然増えなくて。税金に殺されそうです。同期が新築ワンルームを3戸買ったと聞いて、僕も焦っています」
診断から言いましょう。買えます。ただし、あなたが今のまま、その同期と同じ入口から融資を受けに行けば、3年以内に含み損を抱えます。断言します。
年収の高さは、不動産投資における「入口の広さ」であって、「成功の保証」ではありません。むしろ属性が良いほど、業者から見れば「良い患者」——数字だけで押し切れる相手として狙われる。私はその現場を、買う側としても、時に危うく食われかける側としても、20年近く見てきました。
はじめまして。Dr.蒼と申します。47歳、現役の開業医です。勤務医だった2010年代に不動産投資を始め、複数法人スキームが全盛だった時代に規模を拡大し、現在は投資総額55.8億、法人14社を運営しながら、内科クリニックを一つ経営しています。
この記事は、私にとって記念すべき最初のnoteです。診察室で患者さんに病状を説明するときと同じ姿勢で、これから私の来歴と、このnoteで何を出すかをお話しします。長くなりますが、最後までお付き合いください。
なぜ今、この形で発信を始めるのか。理由は一つではありません。順を追ってお話しします。
なぜこのnoteを始めるのか
正直に言います。きれいな動機だけではありません。
まず苛立ちがありました。ここ数年、医師や高属性サラリーマン向けの不動産セミナーやSNSの発信を見るたびに、「これはレントゲンを見せずに手術を勧めているな」と感じる場面が増えました。利回りの数字だけを見せて、融資の出口や法人の設計、修繕の将来コストを一切語らない。それは診断ではなく、ただの営業トークです。私自身、買う側としてその手のトークに乗せられた経験があるからこそ、余計に腹が立つのだと思います。若先生が言っていた「新築ワンルームを3戸」という話も、私に言わせれば診断抜きの処方です。表面利回りと節税効果の説明はあっても、家賃下落カーブと出口の流動性の話が一言も出てこない。そういう相談を、この数年で何度も受けてきました。
次に、記録を残す責任です。私は複数法人スキームが最も過熱していた時期に、その渦の中心近くにいました。銀行が数字だけを見て融資を伸ばしていた時代、そして金融庁の検査でその手法が一気に締め付けられていった時代——その両方を、当事者として体験しています。あの時代に何が起きて、なぜ今は同じ手法が通用しないのか。これを語れる人間は、実はそう多くありません。多くは業界を去ったか、語らないまま次の商売に移っています。私は語れる場所に、まだいます。ここで書かなければ、あの数年間に何が起きたのかは、成功譚か武勇伝としてしか語り継がれない気がしています。
そして、これも正直に書きますが、収益化への欲もあります。私は医師として患者を診ながら、投資家として14社の法人を管理しています。時間は有限です。無料で個別相談を受け続けることは、もう物理的にできません。だからこの場所に、私が20年かけて集めた診断の型を、記事として置いていく。読んでくれる方にとっても、無料で読める部分と、対価を払ってでも読みたい深い症例とを、きちんと分けて出す方が誠実だと考えています。個別相談の代わりに、記事という形で再現性のある診断を渡す——それが今の私にできる、一番まっとうなやり方だと思っています。
若先生のような後輩医師、あるいは同じように高属性でありながら時間がなく、正しい情報にアクセスできていない読者に向けて。私が見てきたものを、なるべく歪めずに渡したい。それがこのnoteを始める、飾らない理由です。
もう一つ、書いておきたい記憶があります。複数法人スキームで一時期共に規模を拡大していた、ある外科医の後輩の話です。金融庁の検査以降、彼は借り換えに失敗し、保有していた物件のうち2棟を任意売却する羽目になりました。連絡が来たのは深夜で、「先生、僕はどこで判断を誤ったんでしょうか」という一文だけが送られてきました。私は返信に迷い、結局、翌朝まで返せませんでした。あのとき彼にきちんと言葉を渡せなかったことが、今も引っかかっています。彼のような読者に向けて、今度こそ言葉にしておきたい——それも、このnoteを始める理由の一つです。
私は何者か

2011年、私はまだ大学病院に勤務する内科医でした。当直明けの朝、給与明細を眺めながら、手取りの少なさに愕然としたのを覚えています。年収は悪くない。けれど税金と社会保険料で、想像していたより遥かに手元に残らない。同僚の何人かは、すでに個人年金や外貨建て保険を勧められるがまま契約していて、「このままでは、働いても働いても楽にならない」——それが最初の危機感でした。
同僚の紹介で、ある地方都市の1棟RCマンションを見に行ったのが、私の投資家としての最初の一歩です。休みの日に新幹線に乗り、現地で物件を見上げたときのことは今でも覚えています。利回り11.2%でした、私の場合は。当時の私は、その数字だけで胸が高鳴りました。今思えば、根拠もなく「元気そうだから大丈夫」と判断したようなものです。幸い、その1棟目は立地と入居付けに恵まれ、大きな失敗にはなりませんでした。しかし、この成功体験が、後の誤診の伏線になります。
融資の面談も、今でも覚えています。地方銀行の担当者と向かい合った狭い会議室で、私はほとんど物件の話をしませんでした。担当者が見ていたのは、勤続年数と診療科、そして今後の年収の見通しでした。「先生の属性なら、この物件は問題なく通ります」と言われたとき、私は物件そのものが評価されたと勘違いしていました。実際には、銀行は物件でなく、私という個人の属性を見ていたのです。この感覚のズレに気づくまでに、私は数年を要しました。
不動産投資家の9割が入口で読んでいる古典(私の1棟目もここから)。私は 『金持ち父さん 貧乏父さん』 に落ち着いた。
そこから2棟目、3棟目と規模を広げていく過程で、複数法人スキームという手法に出会います。1つの法人の決算が積み上がる前に、次の法人を設立して融資枠をリセットする。当時はこれが、属性の良い医師や士業にとっての「合理的な拡大戦略」として、業界の中で半ば公然と共有されていました。
2010年代後半、この手法は全盛期を迎えます。2019年、都内のあるセミナー会場での光景を、今でも鮮明に覚えています。壇上のコンサルタントが「先生方の属性なら、法人を5つ、10個と増やすだけで、規模は青天井です」と言い放ち、会場の医師たちが一斉にメモを取っていました。隣の席の外科医が、名刺の裏に法人の相関図を必死に書き写していたのを覚えています。異様な熱気でした。私自身、その熱気の中にいました。当時の私もそうでした。
その拡大の過程で、私は2棟目の物件を購入します。築35年の木造アパートを、表面利回りの高さだけで判断してしまった。契約前の現地調査も、業者が用意した資料をなぞる程度で終えていました。これは誤診ですね——今なら即座にそう言えます。しかし当時の私は、規模拡大のスピードに酔っていました。
購入から半年後、雨漏りの報告が入ります。屋根裏を業者と一緒に確認したときの光景は、今も忘れられません。柱の一部が黒く変色し、指で押すとぼろぼろと崩れる。同行した一級建築士が無言で写真を撮り続けていたあの沈黙を、私は今でもはっきりと覚えています。最終的な修繕見積もりは2,800万円。表面利回りだけを見て飛びついた代償を、正面から受け取ることになりました。あの日、現場から病院に戻る電車の中で、修繕費の桁を何度も指で数え直したのを覚えています。
——ああ、それは「売るための数字」です。あなたを診てはいない。あの物件を紹介した業者の言葉を思い出すたびに、今でもそう思います。
この時期、家庭にも負担をかけました。休みの日はほとんど物件視察と書類作成に消え、当時まだ小さかった子どもの運動会を一度、法人設立の面談と重ねて欠席したことがあります。規模を追っていた自分にとって、それは「仕方のない優先順位」に見えていました。今振り返ると、あの頃の私は、数字の拡大と家族との時間を、同じ天秤に乗せてはいけなかったと思っています。この反省も、後年、投資のペースを見直す一因になりました。
そして2020年代に入り、金融庁の検査が複数法人スキームに本格的に切り込みます。融資額の実態把握が厳格化され、決算をまたいだ法人間の資金移動が精査対象になりました。私が懇意にしていた医師仲間の何人かが、次の物件の融資を止められ、既存物件の借り換えにも苦戦する姿を見ました。ある勉強会で、かつて壇上で規模拡大を煽っていたコンサルタントが姿を消していたことに気づいたとき、私は「手法が死んでいく音」を聞いた気がしました。派手な音ではありません。ただ、あれほど盛り上がっていた会場から、静かに人が減っていっただけです。出席者名簿の空欄が、一年ごとに増えていくのを見るのは、正直こたえました。
その後の私は、規模の拡大よりも、1棟ごとの診断精度を上げることに軸足を移しました。現地調査の徹底、複数社からの修繕見積もり取得、法人ごとの財務の透明性の確保。あの築古アパートも、2,800万円をかけて根本から直したあとは、今では稼働率95%で安定して稼働しています。傷んだ物件も、正しく手を入れれば再生できる——そのことを、身をもって学びました。
勤務医を辞めて自分のクリニックを開いたのは、規模拡大の熱がひとまず落ち着いた頃でした。理由は不動産とは直接関係がないように見えて、実は地続きです。法人を14社まで管理するようになると、決算のたびに、税理士や銀行の担当者と何時間も向き合う必要が出てきます。勤務医の給与体系のまま、片手間でその全てをこなすのは限界がありました。開業して自分の裁量で時間を設計できるようになって初めて、投資家としての判断の精度も上がったように感じます。今は平日の診療を終えた夜と、休診日を使って、物件の管理と新規の診断にあたっています。派手な生活はしていません。むしろ、拡大期よりも今の方が、帳簿とにらめっこしている時間は長いくらいです。
地道な積み重ねの結果として、現在は投資総額55.8億、法人14社という規模を維持しながら、内科クリニックの経営も並行して行っています。ただし、この55.8億という数字は、成功の証というより、いくつもの誤診の上澄みだと私は捉えています。数字の裏には、あの築古RCの柱の写真が、今も貼りついています。
このnoteで何を出すか
このnoteでは、「診察室講義」という形式で記事を出していきます。若先生のような読者からの相談を起点に、私が結論から診断を告げ、講義形式でその根拠を語り、最後に【症例】として私自身の実数字、【処方箋】として具体的な手順、【予後】としてリスクと経過観察のポイントを示す——という一貫した構成です。毎回、私自身の実際の数字を出します。曖昧な一般論だけの記事は書きません。
扱うテーマは、1棟RC・木造アパートの選定基準、銀行融資における属性とエビデンスの整え方、複数法人スキームの興亡とその教訓、法人設計と役員報酬の設計、デッドクロスへの備え、出口戦略、そして医師・士業・高属性サラリーマン特有の融資の景色です。特定の物件や業者を推奨することは一切しません。私は宅建業の免許を持たない、いち投資家であり医師です。書けるのは、私自身の記録と診断基準だけです。
更新の頻度は、診療の合間を縫っての執筆になるため、無理のないペースを考えています。1本ごとに実数字を伴う症例を組み立てる以上、量よりも診断の精度を優先したいという事情もあります。焦って薄い記事を量産することはしません。
記事の一部は無料で、選定基準の考え方や、私の過去の誤診の記録など、読者が自分の状況を診断するための土台になる内容を出していきます。より深く踏み込んだ症例——実際の融資条件の内訳や、法人間の資金設計の具体的な数字を伴う記事については、有料での公開を考えています。価格は1本あたり3,980円からを予定しています。安くない金額だと自覚しています。それでも、そこまでの具体性を持つ情報は、私にとっても開示のリスクを伴うものであり、対価をいただく方が、読者にとっても「本気で読むべき記事」として向き合っていただけると考えているからです。無料の記事だけでも、診断の型は十分に持ち帰っていただけるように書くつもりです。
物件概要書を5分で捨てる3つのサイン(私の実診断基準)
無料の記事で何を出すのか、抽象的な話だけでは伝わりません。ですから、ここで一つ、私が実際に使っている診断基準をそのまま出します。
私のもとには、業者や仲介から物件概要書——いわゆるマイソクが、月に数十枚届きます。当然、全部を精読していたら診療も経営も回りません。ですから私は、届いた概要書を5分で仕分けします。そのうち9割は、5分以内に「捨てる」に分類されます。

捨てる判断に使っているサインは、大きく3つです。順に出します。
サイン1: 「想定満室時利回り」しか書かれていない
概要書の右上に、太字で「利回り8.5%」と書かれている。その数字の頭に「想定」または「満室時」という語がついていて、現況の稼働率がどこにも書かれていない——これが1つ目のサインです。
想定満室時利回りとは、「全室が家賃表どおりに埋まったと仮定した場合」の数字です。仮定です。現況が半分しか埋まっていなくても、この数字は8.5%と書けてしまう。
私は概要書を受け取ったら、まず利回りの数字を見ません。レントロール(賃貸借条件一覧)の「空室」の行数と、各室の契約開始日を見ます。ここで見るべきは3点です。
1. 空室が何室か(総戸数に対する比率)
2. 入居中の各室の契約開始日が、直近3ヶ月に集中していないか
3. 家賃の設定が、部屋ごとにばらついていないか
2番目が特に重要です。売却の直前に、相場より安い家賃、あるいはフリーレント2ヶ月といった条件で急いで埋めた物件は、契約開始日が売り出し時期の直前に固まります。私が過去に見た概要書では、12戸中5戸の契約開始日が、売り出しの2ヶ月以内に集中していたものがありました。その5戸の家賃は、他の7戸より平均で8,000円低く設定されていました。
これは、満室に見せるための化粧です。購入後、その5戸が更新時期を迎えたときに、家賃は据え置きか、退去です。——ああ、それは「売るための数字」です。あなたを診てはいない。
3番目のばらつきも同様の意味を持ちます。同じ間取り・同じ階で家賃が15%以上違う場合、安い方が「現在の実力」で、高い方が「昔の契約が残っているだけ」であることが多い。私は診断のとき、必ず低い方の家賃で全室を再計算します。この再計算後の利回りが、私の想定する最低ラインを割るなら、その時点で捨てます。
【症例】私の2棟目、あの築古RCの概要書には「想定利回り11.8%」と書かれていました。現況の稼働は9割。悪くない、と当時の私は判断しました。ですが低い方の家賃で全室を引き直すと、10.4%まで落ちました。1.4ポイントの差です。この差を「誤差の範囲」と処理したのが、最初のつまずきでした。1.4ポイントは、1棟の年間キャッシュフローで見れば数百万円の話です。
サイン2: 修繕履歴の欄が空白、または「不明」
2つ目は、修繕履歴です。築15年を超える物件の概要書で、大規模修繕の実施年・実施内容の記載がない、あるいは「前所有者に確認中」「不明」とだけ書かれているもの。これは即座に警戒対象です。
不明は、無いのと同じではありません。不明は、「調べていない」か「言いたくない」かのどちらかです。どちらであっても、買主側がリスクを全部背負う構造は変わりません。
私が最低限求める記載は、次の4項目です。
- 屋上防水の施工年と工法(ウレタン・シート・アスファルトのいずれか)
- 外壁塗装の施工年
- 給排水管の更新履歴(特に給水管が鋼管か樹脂管か)
- 受水槽・ポンプの交換年
このうち、私が最も重く見るのは3番目です。理由は、費用の桁が違うからです。屋上防水や外壁は、悪くても数百万円の世界で、しかも劣化が外から見えます。ですが給排水管は、壁と床の中にあり、外から見えず、更新するには専有部に入る工事が要る。入居者がいる状態での更新は、工程も費用も跳ね上がります。
私はこれを「レントゲンで見えない部位」と呼んでいます。外観の写真がどれだけ綺麗でも、配管の情報がなければ、その物件の内臓は診ていないのと同じです。
【症例】私の2棟目、修繕2,800万の誤診は、まさにこの見落としでした。概要書の修繕履歴欄には「外壁塗装:施工済(年不明)」の一行だけ。私は「施工済」の三文字で安心してしまった。実際に購入後に判明したのは、給水管が竣工時のままの鋼管で、赤水の苦情がすでに出ていたという事実です。更新費用と、それに伴う一時退去・原状回復を含めて、2,800万円。当時の私は、この項目の空白を「よくあること」として流しました。これは誤診ですね。それも、初歩の。
Before/After で言えばこうです。
- Before(2棟目まで): 修繕履歴が空白でも、指値の材料になると考えて話を進めた
- After(3棟目以降): 修繕履歴の4項目が揃わない概要書は、その場で返す。揃っていない物件を検討するのは、売主が「調査に協力する」と明言し、かつ購入前に専門業者による給排水設備の調査を入れられる場合のみ
この線を引いてから、私が検討のテーブルに載せる物件の数は、体感で3分の1になりました。ですが、購入後に想定外の修繕が発生した件数は、ゼロです。
なお、修繕の見積もりを取るときは、必ず複数社から取ってください。私は最低3社と決めています。同じ工事内容で、1.5倍から2倍の開きが出ることは珍しくありません。1社の見積もりだけで判断するのは、セカンドオピニオンを取らずに手術を決めるのと同じです。
サイン3: 「積算価格」だけが強調され、収益還元の記載がない
3つ目は、少し専門的になります。概要書に「積算価格○億円・売買価格△億円(積算超え!)」という強調があり、その一方で、収益還元による評価の記載も、想定される金融機関の評価方法への言及もない——この構図です。

積算価格とは、土地の路線価等と建物の再調達原価から機械的に積み上げた評価額です。かつて、この積算価格を重視して融資を出す金融機関が一定数あったため、「積算が出る物件」は融資が通りやすい物件として売られてきました。
ですが、ここが重要な点です。積算が出ることと、その物件が儲かることは、別の話です。 積算は、あくまで「その土地と建物を、今もう一度作ったらいくらか」の計算であって、その物件が毎月いくら生むかとは無関係です。地方の駅から遠い土地は、路線価が付いていても入居需要とは連動しません。
そして、2018年から2019年にかけての金融庁検査以降、多くの金融機関が収益還元——つまり「その物件が実際にいくら生むか」を軸にした評価に重心を移しました。積算だけを売り文句にしている概要書は、その業者の融資に関する認識が数年前で止まっていることの表明でもあります。売り文句が古いということは、提携している金融機関の情報も古い可能性が高い。
私はここで、書類の中身と同時に、その書類を作った側を診ています。
やりがちな失敗:「良い点が3つあるから」で天秤にかけてしまう
最後に、この3つのサインを使う上で、私自身がかつてやった失敗を書いておきます。
サインが1つ出ている。ですが、立地が良い、価格が相場より安い、担当者の対応が丁寧——といった良い材料が3つある。だから差し引きプラスだ、と天秤にかける。この処理が、最も危険です。
この3つのサインは、どれも「情報が隠されている、あるいは加工されている」ことの指標です。情報の欠落は、他の長所で埋め合わせできません。 良い立地の物件で、給排水管の情報がないなら、それは「良い立地の、内臓が見えない物件」です。立地の良さは、配管を治しません。
若先生、焦らない。焦った投資家から死にます。月に数十枚届く中の1枚を捨てても、来月また数十枚届きます。捨てる基準を持っている人間だけが、残った数枚を本気で診ることができる。5分の仕分けは、そのための時間の作り方です。
この基準を、あなたの手元でどう使うか
処方箋を出します。手元に概要書があるなら、今日、次の順で見てください。
1. レントロールを開く(利回りの数字より先に)。空室の行数を数え、契約開始日を古い順に並べる。直近3ヶ月に3割以上が集中していたら、化粧を疑う
2. 同じ間取りの家賃を比較し、最も低い額で全室を再計算する。この数字が、あなたが向き合う実力値です
3. 修繕履歴の4項目(屋上防水・外壁・給排水管・受水槽)を確認する。空欄が2つ以上あれば、その概要書は返す
4. 積算の強調しかない資料は、収益還元でどう評価されるかを自分で計算し直す。業者の売り文句を、自分の計算で上書きする
この4手順は、慣れれば5分で終わります。そして、この5分が、その後の10年を左右します。私の場合、これを身につけるのに、2,800万円の授業料がかかりました。ここに書いた分だけでも、持ち帰っていただければと思います。
※本記事は筆者の投資記録と見解の共有であり、投資勧誘・助言ではありません。投資判断はご自身の責任で。
私が、このnoteでやらないこと
信頼というのは、何を書くかより「何を書かないか」で決まります。私はそう思っています。
だから、先に線を引かせてください。
第一に、物件は紹介しません。
私は宅地建物取引業の免許を持っていません。ですから、特定の物件を「これは買いです」と名指しすることも、業者を仲介することも、一切しません。ここに出てくるのは全て、私が自分の金で買い、自分の名前で借り、自分の判断で失敗した記録です。あなたの物件の代わりに私が診断書を書くことはできない。できるのは、私が使ってきた診断基準を、そのまま開示することだけです。
第二に、「儲かります」とは言いません。
医師は「絶対に治ります」とは言わない。どれだけ確度の高い治療でも、です。予後には必ず幅があり、患者ごとに違う。不動産も同じなんですよ。同じ利回りの同じ築年数の物件が、持ち主の属性と出口の設計次第で、資産にも負債にもなる。私が書けるのは確率と条件の話であって、約束ではありません。
第三に、あの手法を、今のあなたに勧めることはしません。
私は複数法人スキームで規模を作った人間です。この記録は隠しません。隠せば、私の数字は嘘になる。

ただし——ここははっきり書いておきます。銀行に対して、既存の融資総額を伏せる。別法人だからと問われなかったことにする。それは当時、業界の"常識"の顔をして流通していました。私も、その空気の中にいました。そして2018年以降、金融庁検査と各行のスタンス変更で、その空気は死にました。今、同じことをやれば、それは審査の裏をかく行為であり、契約上も法律上も、あなたの首を絞めます。
私は書きます。「私がどうやったか」と「なぜ今それが通用しないか」を、同じ濃度で。前者だけを売る人間にはならない。断言します。
第四に、失敗を後から編集しません。
2棟目の築古RC、修繕2,800万の誤診。あれは私の読み違いです。数字を丸めず、言い訳を足さず、そのまま出します。成功だけが並ぶ投資記録は、レントゲンの都合のいい一枚だけを見せているのと変わらない。それでは診断になりません。
最後に
若先生の質問に、まだ答えていませんでした。「僕の年収でも1棟目って買えるんですか」。
答えは、彼のメールの中身次第です。年収1,700万という数字だけでは、私は何も言えない。金融資産がいくらあって、既存の借入がどうなっていて、勤務先の属性がどう見られていて、10年後に何をしたいのか。そこまで揃って、初めて「買える/買えない」ではなく「どういう順番で、何を買うか」の話になる。
私が47年生きて、そのうち十数年を融資と物件に費やして分かったことは、たぶんこれ一つです。急いだ人から、順番を間違える。
私自身、40代の一時期、拡大の速度に自分の生活を明け渡していました。数字は伸びていました。ただ、あの頃の私に「今、幸せですか」と聞かれたら、返事に困ったはずです。55.8億という数字は、正しい判断の積み重ねではなく、正しい判断と誤診の両方が積み上がった結果です。私はその内訳を知っている。だから書ける。
このnoteには、その内訳を置いていきます。融資面談で私が実際に何を出し、何を聞かれ、どう答えたか。買わなかった物件をなぜ捨てたか。法人をどう設計し、役員報酬をどこで刻んだか。デッドクロスがいつ来て、その手前で何をしたか。派手な話は少ないと思います。診察室というのは、そういう場所です。
もし、あなたが今「誰かに数字を見てほしい」と思っているなら、ここは合っているかもしれません。私はあなたの物件を見ることはできませんが、あなたが自分で自分の物件を診断できるようになるための、基準と道具は全部置いていきます。
次回は、若先生への回答をそのまま記事にします。年収1,700万・金融資産1,200万・借入なしの勤務医が、1棟目に何を選び、どの銀行に、どの順で当たるべきか。私が今もう一度ゼロからやるなら、どうするか。
焦らないでください。焦った投資家から死にます。
診察室は、開けておきます。
※本記事は筆者の投資記録と見解の共有であり、投資勧誘・助言ではありません。投資判断はご自身の責任で。
