見出し画像

マンジャロ炎上で思うこと。GLP-1を4剤使い倒した内科医が、賛成も反対もしない理由

今回のキーワードは「適応」。
誰が、何のために、どう使うか。
それだけで薬は武器にも凶器にもなります。

マンジャロが炎上しています。

キャバ嬢のインフルエンサーがマンジャロのアンバサダーとして「1ヶ月で5kg痩せた、こうなれますからね皆さん」と発信し、医師や医療関係者から批判が殺到。

「世界で売れてるから安全でしょ」という反論がさらに火に油を注いだ、あの件です。

Xを眺めながら、私はずっとこのツイートをしようか迷っていました。

なぜなら、私はGLP-1を4剤使った内科医だからです。
世界中の内科医から刺されかねない。

擁護したい気持ちも、批判したい気持ちも、両方ある。

だから正直に書きます。
少し硬い話になりますが、少しでも自分の思いが誰かに伝われば。



「世界で売れてるから安全」は、論理が違う

まず一つだけ、はっきりさせます。

ゆいぴすさんの反論の中に「世界中での売り上げはご存じですか?」という言葉がありました。
需要があるから安全、売れているから正しい、という論理です。

これは違います。

一つわかりやすい例を挙げるとすると、

麻薬(モルヒネ)も世界中で使われています。

がん患者の疼痛管理に、末期患者の苦痛緩和に。
医師が適切に管理し、正しい適応で使うから安全なんです。
麻薬を素人が「効くから」と勧め始めたら、それは乱用です。
(というか逮捕です👮)

需要があること、世界で売れていることは、「誰でも自由に使っていい」の根拠にはならない。

これは、GLP-1に限らず全ての医薬品に言えることです。



でも、痩せたい人の気持ちはわかる

批判だけして終わるのは、私には無理です。

なぜなら私自身が、薬なしではどうしても痩せられなかった人間だからです。

出産後、体重は65kgまで増えました。

ウェディングドレスの試着でファスナーが閉まらなかった日のことは今でも忘れられません。
食事制限も、運動も、できる限りやりました。

それでも「詰んでしまう瞬間」が人生にはある。

自力でどうにもならなくなった時、私はGLP-1に手を伸ばしました。

医師として患者さんに「もっと歩きましょう」と指導しながら、自分のお腹に注射を打つ矛盾を抱えながら。

チートという十字架を背負いながら。

だから言えます。

痩せたくてこの薬に手を伸ばす人の気持ちは、否定できない。

でも、だからこそ、正しく知ってほしいんです。


マンジャロって、そもそも何の薬?

マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、日本では2型糖尿病の治療薬として承認された医薬品です。

GLP-1受容体作動薬と呼ばれるカテゴリーの注射薬で、私たちの小腸から出るホルモンと同じ働きを体の中で再現することで、脳に「お腹いっぱい」という信号を送り、食欲を物理的に抑制します。

血糖値を下げる効果もあるため、糖尿病患者にとっては血糖コントロールと体重管理を同時にできる、本当に画期的な薬です。

しかし。

ダイエット目的での使用は、適応外使用にあたります。

適応外使用とは、承認された用途以外で薬を使うこと。
それが、自由診療です。

これは医師の判断のもとで行われることもありますが、万が一重大な健康被害が起きた場合、国の医薬品副作用被害救済制度の対象外になります。

つまり全額自己責任。

この事実を知った上で使っている人が、今の美容ダイエット界隈にどれだけいるでしょうか。


「じゃあゼップバウンドとは何が違うの?」

ここで一つ、知っておいてほしい話があります。

実は今年、ゼップバウンドという薬が日本で発売されました。

マンジャロとゼップバウンドは成分・注射器・用量すべてが同じです。
違いは「何の病気の薬として承認されているか」だけ。

マンジャロが「糖尿病の薬」として使われていたチルゼパチドに、「肥満症の薬」としてのお墨付きが追加されたのがゼップバウンドです。

つまり中身は全く同じ薬です。名前が違うだけ。

ゼップバウンドは2025年3月に保険適用となりました。
でも、ここが重要なのですが、誰でも保険で使えるわけではありません。

保険適用には「肥満症」の診断が必要です。
肥満症とは、単に太っているだけでなく、BMIの基準に加えて高血圧・糖尿病・脂質異常症などの合併症がある場合に初めてつく診断名です。

つまり、こういう構図になります。

肥満症の診断がある人
→ ゼップバウンドが保険で使える

「痩せたいだけ」の人
→ 保険は使えない、マンジャロを自費で適応外使用するしかない

今回炎上した「ダイエット目的でマンジャロを使いたい人」の多くは、後者です。
医学的には「治療が必要な肥満症ではない人」が、同じ成分の薬を自費で適応外使用している。

これが、グレーゾーンと言われる構造の正体です。

「なんでマンジャロをサプリみたいに普通に売ったらダメなの?」と思う人がいるとしたら、この構図を知ってほしい。

同じ成分の薬が、条件を満たせば保険で処方される医薬品として存在している。
それを条件を満たさない人が自費で買い、非医師が「痩せるよ~」と広める。

医学的・法的にグレーなのは、当然のことだと思います。


糖尿病患者への影響という、もう一つの問題

今回の炎上で私が一番深刻だと思っているのは、実はここです。

マンジャロは、本来2型糖尿病の患者さんが血糖コントロールのために必要としている薬です。この薬がなければ、合併症が進行するリスクがある人たちが実際にいる。

ダイエット目的で需要が爆発的に増えると、本来必要な患者さんに薬が届かなくなる供給逼迫が起きます。

「薬は足りてる」という声もXで見かけました。
でも、本当にそうかどうかは、現場の医師でないとわからない。
少なくとも私の周りでは、GLP-1系の薬の在庫状況が不安定になっている話は耳に入ってきています。

サプリ感覚でこの薬を消費することは、どこかの誰かから薬を奪っているかもしれない。
その想像力を持ってほしいと思います。

罪悪感は処方する医師が引き受けるので。



非医師が「痩せる薬だよ~」と広めることへの、断固たる反対

使うこと自体は、私には否定できません。

繰り返しますが、私自身がそうだったから。

でも、非医師がサプリ感覚で他人に広めることには、断固として反対します。

理由はシンプルです。

GLP-1には副作用があります。
吐き気、嘔吐、便秘、倦怠感、脱毛。

私自身も経験しました。

うつ症状が誘発されて「死にたい」と言った知人もいる。

さらに長期的な影響については、まだ研究途上の部分もある。

薬理作用も、副作用も、適応も知らないまま「私は痩せたよ!」の一言で他人に勧めることは、無責任どころか危険です。

軽い気持ちであなたが勧めた薬で、誰かの命が危険にさらされたら。

「医者でなければ医薬品に関わってはいけないのですか?」

ゆいぴすさんはそう言いました。

関わることは自由です。

でも医薬品の効果を体験談として宣伝する行為は、薬機法で規制されている。

この区別は、医師でなくてもアンバサダーを引き受ける前に確認すべきことだったと思います。



適切な使い方とは何か

では、誰がどう使えばいいのか。

正直に言うと、これは個人の状況によって全く違います。

BMI、基礎疾患、生活リズム、胃腸の強さ、メンタルの状態、仕事環境。全部ひっくるめて、医師と相談しながら選ぶ必要がある薬です。

そして、「適応外使用」であるということを理解しm何か起こった時の覚悟をもって、医師は処方すべきであり、患者も使用すべき。

そして、私が4剤全部試して痛感したのは、GLP-1は相性ゲーだということ。
同じ薬でも人によって効き方も副作用も全然違う。

「マンジャロ最強」
「リベルサス飲むだけ」
みたいな雑な情報で選ぶと、高確率で地獄を見ます。


そしてもう一つ。

この薬は出口戦略がなければ、リバウンド製造機になります。

薬をやめた瞬間に食欲が戻る。その時に備えた習慣と知識がなければ、私のように4回リバウンドすることになる。薬を打てば痩せる、それだけでは何も解決しない。

マンジャロの本当の恐ろしさは、やめた後に見えてくる。



自由診療医への違和感

最後に、もう一つだけ言わせてください。

今回の炎上には「ダイエットビューティー」というオンラインサービスが絡んでいます。医師による診察と処方を前提としたサービスで、直ちに違法とは言えないグレーゾーンです。

でも私が実際に受けたオンライン診察(他社)は、わずか5秒でした。

「何か質問はありますか?」

それで終わり。
顔も見えない、名前も知らない、本当に医者かどうかもわからない、「医者」として案内された電話越しの声。

薬の正しい使い方も、副作用の説明も、リバウンド防止の話も、何もなかった。

例えばリベルサスは「起床時にコップ半分以下の水で内服後30分は飲み食いしない」と説明されます。

でも
「コップ満タンの水で飲んだら効果がほぼゴミ箱行き」
「胃内のpHが変わり吸収率が落ちるから」
まで教えてくれるクリニックは、恐らくほぼない。

知識なく使えば、ただ自由診療クリニックを儲けさせて終わるだけです。



私が言いたいこと、全部まとめます

  • マンジャロは糖尿病治療薬。ダイエット目的は適応外使用

  • 適応外使用は副作用被害救済制度の対象外。リスクは自己責任

  • 需要があること、世界で売れていることは「安全」の根拠にならない

  • 糖尿病患者への供給逼迫という公衆衛生上の問題がある

  • 使うこと自体を全否定はしない。でも正しい知識が絶対に必要

  • 非医師がサプリ感覚で広めることには断固反対

  • 出口戦略なき使用はリバウンド製造機になる

痩せたい気持ちは、否定しない。

でも、「正しく恐れ、正しく知って、賢く使う」、この3つが揃って初めてこの薬は武器になります。

GLP-1の4剤を自費で全部試し、4回リバウンドし、数十万円の授業料を払ってようやく辿り着いた「軟着陸の方法」を、詳しくはこちらで書いています。

[GLP-1の真実|医師が自分で試してわかったこと→]


知識を持った状態で、自分の意志で選んでほしい。
そのための記事です。

…と書いた私自身が炎上する可能性も十分にあるのですが…。

それでも伝えずにはいられなかったので、書きました。

最後まで読んでいただきありがとうございました🌷


いいなと思ったら応援しよう!