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独自のうま味体系:西アジア・中東における「重層的」な味の設計


「だし」「スパイス」だけではない料理文化

 西洋料理のブイヨン、日本料理の出汁、中国料理の湯。これら「だしの文化」は、調理の前にあらかじめ素材からうま味を抽出した液体を用意することを基本とします。対照的に、南アジアのインド料理は、スパイスの揮発的な香りを油に移し、多層的な風味を構築する「スパイスの文化」を極めています。
 これら既存の巨大な食文化圏と肩を並べながらも、全く異なる独自の進化を遂げたのが、トルコ、アラブ、ペルシアを含む「西アジア・中東文化圏」です。この地の料理には、別途「だし」を引く習慣は稀ですが、それはうま味を軽視しているわけではありません。むしろ、調理の過程そのものを「うま味の抽出プロセス」に変えてしまう、極めて合理的でダイナミックな手法をとっています。

炒め玉ねぎの土台

 彼らの技法は、いわば「一鍋(ひとなべ)の中でうま味を育てる文化」と呼ぶべきものです。
 その核となるのは、「炒め玉ねぎ」による土台作りです。

 例えばトルコ料理では、たっぷりの玉ねぎを炒めたところに、トマトやパプリカを煮詰めた濃厚なペースト「サルチャ」を加えます。このサルチャは、まさに「うま味の結晶」です。ここに肉や野菜を加えてさらに炒め、最後に水を注ぐ。すると、炒められた素材からうま味が水へと溶け出し、煮上がる頃には、その液体自体が濃厚な「だし」へと変貌しているのです。
 アラビア料理(レヴァント地方など)でも、炒めた玉ねぎとニンニク、肉の脂に「バハラット(混合スパイス)」を馴染ませ、肉のタンパク質とスパイスの精油、野菜の甘みを混然一体とした「マラク(スープ)」へと昇華させます。
 さらに独自の洗練を見せるのがペルシア料理です。「ピアーズ・ダーグ(黄金色の炒め玉ねぎ)」を起点とし、そこに大量のハーブや乾燥ライム、果実のペーストを幾重にも重ねます。じっくり時間をかけて煮込むことで、ハーブの青々しいうま味と酸味、肉のコクが溶け合い、底知れぬ深みを持つソースが完成します。

「鍋の中の水」という味のキャンバス

 この文化圏において、水は単なる加熱媒体ではありません。それは、炒められ、凝縮された素材のポテンシャルをすべて引き出し、受け止めるための「キャンバス」なのです。
 「あらかじめ抽出したうま味液」を縦横無尽に活用する東アジアや西洋とも、「香りの構築」に主眼を置く南アジアとも異なる、「鍋の中で、今まさにうま味の層を積み上げていく」という構築美。これこそが、ユーラシア大陸の西側に位置するこの広大な文化圏が誇る、もう一つの「おいしさの正体」なのです。


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