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「執筆シミュレーションゲーム」


 体調を崩して創作が進まなかったので、代わりに執筆シミュレーションゲームというものをプレイしていた。純文学系かエンタメ系の大きな賞を受賞するのが目的となる。現実の賞レースがモデルにはなっているが、かなり単純化されている。週ごとに行動を決定して、バロメーターをあげていく。実力があがれば一日あたりに書ける枚数が増えていく。行動の選択や、各行動の成否によって、どちらの賞に向いているかも変わっていく。

 行動は「執筆」「読書」「労働」「交流」となっている。労働は就職もあれば日雇いアルバイトもある。交流では恋人と過ごしたり、創作仲間との会合に出たりもする。「読書」にあてる時間を減らすと全体的に数値は下がっていく。新人賞の時期までに原稿を完成させるのが目的であるが、ただ書き上げたところで、受賞確率は一万分の一だそうだ。運が良ければ一度で受賞できるし、悪ければ何万回やっても受賞しない。

 そこで実力を底上げしていき、「一次通過レベル」で千文の一、「二次通過レベル」で二百分の一、「最終選考レベル」で二十分の一、となる。これ以上は上がらない。レアイベントで「選考委員に賄賂を送る」が発生することもある。これに「送る」を選ぶとゲームオーバーとなる。

 地道に実力をあげていっても、落選時の十分の一の確率で「執筆意欲を失った」と出てゲームオーバーとなる。交流をし過ぎて他の道で成功してもゲームオーバーである。そして晴れて受賞しても、第二部「作家デビュー後」がある。先述の通り、第一部は運が良ければ実力の低いうちにデビューできることもある。その場合、第二部の難易度が格段に上がる。受賞後に出す三冊の本の売れ行きで、作家稼業を続けられるかが決まるのだが、受賞時の実力が「最終選考以上」でないと、クリアが難しい設定なのだ。

 第二部は形式的なもので、一部のような本格的シミュレーションゲームではない。ダイスを三回転がすだけだ。実力「最終選考」で受賞した場合、六面ダイスとなる。一が出れば成功となり、売れ行き好調により作家稼業継続が可能となる。「二次選考」で二十面ダイス、「一次選考」で百面ダイス。そして低いバロメーターで運頼みで受賞した者の場合「一万面ダイス」となる。それでも三回振れるだけ、マシかもしれない。

 私は何度も挑戦した。
 純文学系バロメーターをあげようとする行動を取ったつもりが、エンタメ系のバロメーターが上がったりした。
 恋人ができて執筆しなくなってゲームオーバーになった際には、なぜか嬉しかった。
 なんとか「最終選考」レベルまで上げたのに、落選と同時に「執筆意欲を失った」で終わった回もあった。これを避けるために、レベルの低い間は投稿しない、という選択肢もある。しかし結果が落選の場合でも、多くの経験値を得られるために、どちらがいいとも言い切れない。

 純文学系、エンタメ系、両方のルートを制覇するまでに何百回プレイしたのかはもう分からなくなっていた。とにかくどちらも「最終選考」レベルにまで上げてのクリアだったので、自信を持って第二部に挑んだ。三回のダイス振りの内、一度でも一が出ればいいのだ。それで執筆を続けられるのだ、簡単じゃないか。そう思った。しかし一度も出なかった。純文学でも、エンタメでも。

 同じゲームをプレイしている人のクリア証明画像を見ていると虚しくなる。中にはレベル上げをせずに一発でクリアした者もいた。多分面白くもなんともなかっただろう。私は幾度も筆を折った。他の夢も追った。意味のあるかどうか分からない交流もたくさんした。ブラック企業でもホワイト企業でも働いた。どんな時でも「執筆」コマンドだけは休まなかった。それでも、クリアはできなかった。

 私はゲームを止めた。
 ずっとずっと、本物の執筆をしていなかったことを思い出した。様々なバロメーターは上がることなく停滞していた。さて、何を書こうか。何でも書ける気がするし、書き方そのものを忘れてしまった気もする。
 じゃあとりあえずずっと遊んでいたゲームのことでも書いてみよう。

 体調を崩して創作が進まなかったので、代わりに執筆シミュレーションゲームというものをプレイしていた……。

※そろそろマガジン名を「泥辺五郎掌編集」とかに改めようかなと。

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