最後に、残る|||シン小説 No.043
水が、うまい。
山のほうから流れてくる水は、冷たくて、舌に残る。
ここに来る前のことは、よく覚えていないけど、 この水だけは、最初からうまかった気がする。
草は、いくらでもあった。
柔らかくて、腹がふくれて、
そのまま眠っても、また目が覚めれば続いている。
みんな、好きな場所で食べて、
好きな場所で寝ていた。
囲いはなかった。
どこまで行っても、草か、森か、水だった。
森の際には、あまり近づくなと、
誰かに教わった気がする。
あそこには、別のやつらがいる。
体が大きくて、毛が荒くて、
顔つきも違う。
牙があるやつもいる。
同じ匂いがするのに、
同じではないやつら。
あいつらは、森の中で生きていて、
ときどき、戻ってくる。
そして、また消える。
ある日、遠くで、何かが吠えた。
低くて、重たい音だった。
そのあと、森のほうがざわついた。
次の日、あいつらの中の一頭がいなくなっていた。
誰も探さなかった。
草は、減っていく。
みんなで食べて、掘って、
体をこすりつけて、穴をあけて、
土はやわらかくなっていく。
気持ちがいい。
体が軽くなる。
そこにまた、水が流れて、
匂いが変わる。
やがて、そこには何もなくなる。
ーーー
たまに、あの匂いが来る。
風に乗ってくる。
甘くて、濃くて、
腹の奥を引っ張られるような匂いだ。
来ると、みんなが一斉に動きだす。
走る。走る。走る。
ぶつかる。
押される。
蹴られる。
それでも、止まれない。
そういう匂い。
あの匂いの中に行きたい。
見えてくる。
大きな箱だ。
いつも、突然そこにある。
今日も、間に合わなかった。
先に入れるのは、いつも同じようなやつらだった。
体の大きいやつ。
やたらと、元気なやつ。
あいつらは、迷わない。
押しのけてでも、中に入る。
俺も行こうとする。
体をねじ込む。
前に出る。
あと少しで、届きそうなのに。
そう思ったとき、横から弾かれる。
息が詰まる。
地面に倒れそうになる。
気づくと、終わっている。
箱は閉じられて、
ゆっくりと動き出す。
中には、あいつらがいる。
外には、俺たちがいる。
次こそは、と。
ーーー
周りに草が無くなりだすと、人が来る。
遠くから、犬の声もする。
音で、押される。
追われる。
また、別の場所へ移る。
そこには、まだ草がある。
さっきまでいた場所では、
何かを植えている。
草とは、また違うみたいだ。
ーーー
そういえば、箱に入れたやつらは、誰も帰ってこない。
あんなに、いい匂いなのだ。
よっぽどいいところに連れて行ってもらっているのだろう。
水は、今日も、うまい。
ーーー
「まだ、いるんだな、あいつ」
「はじめて寿命を迎えるんじゃないか?」
「まぁ、そういうヤツが一番、うまいかもしれないぜ」
「うちの子が名前とかつけてたしなぁ……なんだかね」
「ほかの国じゃ、餓死者だらけだっていうぜ」
「うちの国は、あいつだって寿命を迎えられそうだってのになぁ」

今日も、今日とて
箱の先に憧れながら
ほのぼのと
水と草をハム日々さ

