僕なりのトランプさんが目指すもの|||シン小説 No.037
俺がそのスイッチを押したのは、べつに世界を破滅させたかったからじゃない。
ただ、世界をもう少しだけ、風通しのいい場所に整理したかっただけなんだ。
世界はあまりにも無秩序になりすぎていた。
誰が敵で、誰が味方で、どこの誰にいくら払えば平和が維持できるのか、誰も把握できなくなっていた。
それはまるで、掃除の行き届いていない巨大な地下貯蔵庫に、正体のわからないガラクタが山積みにされているようなものだ。
だから、俺は一度、その貯蔵庫を棚卸しすることにしたんだ。
自ら最強国という看板からあえて重しを外し、自らの国力を削り取る。
そうすることで、バラバラに散らばっていた対抗勢力に『一本化』という名の大きな椅子を用意してやったんだ。
すべては、あの醜くも美しい『冷戦構造の再現』のためだ。
人々は俺を狂気と呼んだ。
自滅行為だと罵った。
でも、彼らはわかっていない。
無数の小さな小競り合いを相手にするより、巨大な一つの壁と向かい合い、その間に緊張という名の『均衡』を流しておく。
そのかりそめの平和みたいなものの時代の方が、ずっと管理は容易なんだ。
結局のところ、それこそがこの世界というシステムを永続させるための、最も効率的な『ビジネス最適解』なんだ。
そう、俺にとって世界とは、
経済だ。
金儲けだ。
それの何が悪い?
俺は、大統領執務室のデスクに並ぶレポートを眺めている。
そこにはもう、予測不能な混乱はない。
自国の優位性を少し手放すことで、俺は代わりに『計算可能な未来』を買い戻したわけだ。
あるのは、計算され、管理され、最適化された、静かな対立『冷戦構造』という名の利益だけだ。
俺はデスクに戻り、白い磁器のカップを持ち上げた。
中には、完璧な温度で抽出されたコーヒーが入っている。
一口、ゆっくりと口に含む。
苦味は強すぎず、酸味はあくまで慎ましい。
それは、誰もが納得し、誰もが抗うことを忘れるような、最大公約数の味がした。
「いい味だ」
俺は独り言を言った。
今のこの世界では、豆の流通も、労働の対価も、そしてこの一杯の価格も、すべてが完璧な均衡の中に収まっている。
高すぎもせず、安すぎもしない。
誰もが「そういうものだ」と首を振って受け入れられる、最適な値段。
俺はもう一度、コーヒーを啜った。
世界のざわめきは消え、そこにはただ深く心地よい沈黙だけが横たわっていた。
そのとき、突然、電話が鳴った。
あの大国が崩壊して以来、まったく使われることのなかった『ホットライン』と呼ばれていた歴史的遺物。
俺は、もう一口、コーヒーを堪能してから、ゆっくりと受話器を上げた。

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