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ターミナル・イン・マイ・マインド|||シン小説 No.004

アメリカでの、あれやこれやを空想しては、私は、ひとり、ニヤニヤしていた。

想像でしか知らない国。
閉塞感しかない自分の国とは異質であろう、その最初の一歩が待ち遠しかった。

もうすぐ着陸する。

着陸態勢に入ったころ、機内のモニターでニュース速報が流れた。

私の国は、消滅した。

地図から消えたわけではない。
政権が崩壊し、承認が撤回され、国としての認証が失効したらしい。

国籍という概念が、制度的に破棄された。
専門家は、前例がないと言った。

入国審査官は困った顔をした。
私のパスポートは、どの国にも属していなかった。

空港から一歩も出られない。

ターミナルは広かった。
ベンチがあり、電源があり、フードコートがあり、無料の水があった。

生き延びる条件は、すでに揃っていた。

私は床に座り、スマートフォンを充電した。ニュースを読み、メールを返し、ノートを開いた。

外の世界は、ビザや仕事や家賃や政治で満ちているらしかった。
だが、それらはこの床には届かなかった。

私は、国ではなくインフラの中にいた。

数日が経った。あるいは、数週間だったかもしれない。

売店の店員と、短い会話をするようになった。警備員は私の名前を覚えた。

外に出ないまま、人生は進行していた。
出国ゲートは、すでに私の内側にあった。

私は気づいた。
閉じ込められているのは、空港ではない。

期待だった。
未来のイメージだった。

「外に出たら始まるはずだった何か」だった。

また搭乗案内が流れた。
誰かの名前が呼ばれ、誰かが去っていった。

私は呼ばれなかった。

Wi-Fiも、生存可能なカロリーも、ここにはあった。人生をここで完結できる設計だった。

私はノートに、国のない住所を書いた。
住所欄には、ターミナルのベンチ番号を記した。

空港は、世界から切り離された街だった。
私は、その住民になった。

ある日、誰かが言った。
「あなたはどこへ行く予定ですか?」

私は答えられなかった。

その夜、私は理解した。
国が消えたのではない。
国という出口が、最初から私の人生に存在していなかっただけだ。

私は国を失った。
だが、空港は私を失わなかった。

約二週間ののち、私の棺は、あらゆる検疫を経て、やっと運び出された。




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