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ゆれる港区女子、金持ちイケオジと金なし中年のあいだ

彼女は赤坂の静かなバーで、カクテルをかき混ぜながらそう言った。
まるで今日の天気の話をするみたいに、事務的で、でも少しだけ疲れた声だった。

「実はね、もう一人、会ってる人がいるの」

僕は驚かなかった。
港区女子には、たいていもう一人か二人、余剰の男がいる。
それは港区の湿度みたいなもので、否応なくそこにある。

「すごくお金持ちで、すごく優しくて、すごくイケオジなの」と彼女は続けた。

「たぶん、世間的には、そっちを選ぶのが正しいんだと思う」

僕はグラスの水を一口飲んだ。
僕の口座残高と肩書きのことを考えた。
それはたいていの場合、あまり考えない方がいい種類の話題だった。

「でも、なんか…」と彼女は言った。

「彼といると、私、すごく港区女子っぽくなるの。バッグとか、ホテルとか、夜景とか。そういう自分が嫌いってわけじゃないけど…」

彼女は少し考えてから言葉を探した。

「あなたといると、私、普通の人間になるの」

それは褒め言葉なのかどうか、僕には判断がつかなかった。
でも少なくとも、僕の人生であまり言われたことのない種類の台詞だった。

「普通の人間って、だいたい退屈だよ」と僕は言った。

「うん。でも、退屈って、ちょっと安心するの」

彼女は笑った。
その笑い方は、港区女子というより、ただの若い女の子のそれだった。

「イケオジの方は、未来の話しかしないの。ヨットとか、投資とか、来年の別荘とか」

「あなたは、過去の話しかしないでしょ」

「僕はもう未来をあまり信用していないんだ」と僕は言った。

それは半分冗談で、半分本気だった。

彼女はカクテルの氷を眺めながら言った。

「どっちといるときの自分が本当なのか、わからなくなるの」

港区女子がアイデンティティの危機に陥っているのを、僕は初めて見た気がした。
それはちょっとしたコメディで、同時に小さな悲劇だった。

「僕は、君がどっちを選んでも困らないよ」と僕は言った。

それは強がりだったし、事実でもあった。

「それが一番困るの」と彼女は言った。



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