間違えた、 止まれなかった、 戻れなかった、 そのどれでもないことって、 あるよね|||シン小説 No.034
あの子は、よく笑う子でした。
見られているときだけ、笑う子でした。
転んだときも、まず周りを見ていました。
それから、笑うか、泣くかを決める。
私は、それを賢さだと思っていました。
研究者になると言ったときも、この子は正しいことをする人間になるのだろうと。
そう思っていました。
あの出来事のあと、あの子は帰ってきました。
そして、昔と同じように笑いました。
「大丈夫だよ」と。
私は、何も言いませんでした。
本当に大丈夫な人間は、そんなことは言わないと知っていたからです。
しばらくしてからでした。
テレビで、あの話をしていました。
「今回の件を受けて、研究機関ではチェック体制の見直しが——」
私は、音を消しました。
別の日には、新聞に、こう書いてありました。
「再現性の重要性が、改めて問われている」
あの子の名前は、どこにもありませんでした。
それでいいのだと思います。
研究は、人のものではないのでしょう。
誰が見つけたかではなく、誰でも見つけられるかどうか。
それだけが残る。
あの子が発表したものは、誰にも再現できませんでした。
だから、最初からなかったことになるのでしょう。
それでも、あの子は確かに何かを見ていました。
私は、そう思っています。
ある日、あの子が言いました。
「ねえ、お父さん」
少し笑っていました。
昔と同じ顔でした。
「私は、どこで間違えたのかな」
私は答えませんでした。
答えられなかったのです。
間違いはあったのでしょう。
きっと、いくつも。
けれど、それだけではない気がしています。
あの子は、途中で止まれなかったのではありません。
止まれば、自分がなくなるところまで進んでしまった。
世間は言います。
「戻れたはずだ」と。
ですが、それは、戻れなくなった場所を、外から見ている人間の言葉です。
証明は残りませんでした。
名前も残りませんでした。
ただ『再現できるかどうか』
それだけが残りました。
それを、意味と呼んでいいのかは。
あの子の功績と呼んでいいのかは。
私にはわかりません。
もし、あの子の見ていたものが、本当だったとしたら。
それでも、残らなかったものは、無かったことになるのでしょうか。
私は、今でも……
……。。。
と、ここまで書いて、やはりこのネタは弱いな、と。
で、ボツに。
「あの子」は、引き返せなかった。
僕は、引き返せたみたいです。

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