自分に厳しいってのも、 善し悪しだよね|||シン小説 No.042
老人がひとり、座っていた。
怒鳴り声が聴こえる。
老人を土下座させるように座らせ、誰かが、ひたすら怒鳴りつけている。
おいおい、なんだなんだ、と目を凝らして、俺は息を呑んだ。
罵声を浴びせ続けているのは、俺だった。
何がなんだかわからないまま眺めていると、ふと罵声がやんだ。
「子供のままなんだ、私の中では。いつまでたっても、なにがあっても」
老人の声は、母のようでもあり、父のようでもあった。
そのくせ次の瞬間には、意味のわからないガナリ声に変わる。
怒鳴るというより、もう獣の唸り声だった。
かすれきった喉から絞り出されるそれでは、何を言っているのか何ひとつわからない。
やがて老人は這うように棚の前まで進み、木でできた人形に祈りはじめた。
「そんなもの信じたって、なんになる。所詮、木でできた人形だろ」
気づくと俺は、眺めていた俺の中にいた。
思考も行動も、自分のものにはならない。
俺は人形を奪い取り、圧し折り、床に叩きつけた。
「そうかもしれない」
老人は、砕けた欠片を拾いながら言った。
「じゃあ、なんで祈るんだよ」
「祈るしかないから祈る。祈りというのは、そういうものだ」
もっともらしいことを言う。
その瞬間、どこかで、カチリと音がした。
箍が外れるというのは、ああいう音なのかもしれない。
俺は老人を蹴りはじめた。
ふいをついて、柔らかな腹ばかりを狙った。
自分でも驚くほど狡猾だった。
それでも老人は、呻き声ひとつあげなかった。
ただ、はじめて顔を上げた。
真っ赤に腫れた目を見開いたまま、じっとこちらを見た。
まるで、よく見ろ、と言わんばかりに。
そこでようやく気がついた。
それは、年老いた俺だった。

