赤い鯨 #曲からチャレンジ
砂浜で金魚の弔いをしている女に出逢った。
マッチ箱の中で、白い綿にくるまれて黒いからだが眠っていた。
一番素敵な箱にしました。中身は他に移し替えて。
女はそう言って、ちょっと微笑んだ。
月が咳払いをして、波が揺れ、砂を連れて行く。白くて長い指がマッチ箱をその流れの中へ押しやった。
どうして金魚を海に、とは聞かなかった。どこまでもどこまでも漂って、朽ちて、いつか鯨に生まれ変われるような気がしたから。
あなたの金魚もお弔いいたしましょうか、と女が言った。それは星が瞬くのと同じくらいの早さで、同じくらいさりげないことだった。
胸の真ん中にいる私の真っ赤な金魚。
いまはこのままにしておきます、とこたえた。
そうですか。いつか、ご入用になったら呼んでくださいね。ほら、素敵なマッチ箱にはなかなか巡りあえるものではないから。
それから何度か、夜の海を訪れるのだけれど、あの女に会えない。
もう、還してやったらどうかと、頭では解っている。そうしたらいつか、赤く煌めく鯨になれるかもしれない。
でもあと少しだけ、そう、少しだけこのままで。
海に浸した指を舐めたらしょっぱかった。
涙と海はどっちがしょっぱいのか。
混じってしまったから、今は良くわからない。
<了>
ピリカさんの企画に参加しております。
こういう物語の生み出し方もあるのね。新しい回路が開いた感じがしています。
ピリカさんと、参加されている皆さんの作品のお蔭です!
追記
これを元にして、約2000字の掌編に仕立て直しました。
完全版は、こちらに収載しております。
お手に取っていただけたら飛び上がって喜びます。
