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【特別講座レポート】小学生と挑む、三毛猫の毛色解析―鈴木彦有と学ぶin silico入門

2025年7月24日(木)、国立市立国立第二小学校にて、弊社のインフォマティクス・スペシャリストの鈴木 彦有が「はじめてのバイオインフォマティクス 三毛猫の毛色を決める遺伝子をつきとめよう!」と題して「夏季特別講座(二松クラブ)」の講師を務めました。

◆「夏季特別講座(二松クラブ)」とは?
夏休み期間中に学校と国立市青少年育成二小地区委員会(育成会)の共催で、大人の技術や知識を通して子供たちに豊かな出会いと体験の機会をつくることを目的に開講されている講座です。地域の方々、保護者の皆様が講師をなされています。

ここからは鈴木へのインタビューを通して、講座の内容について深掘りしていきます!
(なお、鈴木は社内では下の名前で呼ばれており、今回の記事内でも呼称を『彦有さん』とさせていただいております。)

ーーまず、改めてにはなりますが、digzymeでの彦有さんの最近の業務内容について教えてください。

最近はdigzyme Custom Enzyme Lab™のDRY部分の開発をしています。
DNAには遺伝子と呼ばれる「生命の設計図」が存在します。もう少しだけ詳しく話すと、遺伝子とはタンパク質を作るための情報なのですが、酵素もタンパク質の一種であるため、それを作るための遺伝子が必ず存在します。
こうした遺伝子情報は様々な生物の全DNA配列(ゲノム)の解析が進展したことで飛躍的に集まるようになりました。
また、遺伝子情報は目に見える生物からだけでなく、土壌や海洋、動物の体内など、さまざまな環境中に生息する微生物からも取得できます。これらの微生物が混在する状態のまま網羅的に調べる手法がメタゲノム解析です。このようにして得られた遺伝子情報は公共のデータベースに蓄積され続けています。この公共データベース上の膨大な遺伝子情報を活用し、産業的に有用な酵素を効率的に探索するための技術基盤を開発しています。

ーー詳しくありがとうございます。さて、このような業務を行っている彦有さんが、今回、小学生向けに講座を行うに至った経緯を改めて教えてください。

一般の人にdigzymeの技術をきちんと説明しようとすると、導入になるような生物学やバイオインフォマティクスの基礎知識はお伝えした上で、「実際に体験してもらうこと」が一番わかりやすく、誤解なく伝えられる方法だと考えています。
今回の取り組みには、2つの想いがありました。
ひとつはdigzymeの技術を正しく伝えるために「体験型の学び」を広げたいという気持ち。
もうひとつは研究者として「科学を啓蒙したい」という個人的な想いです。
毎年、digzymeの研究員が全員受講している「日本学術振興会 研究倫理eラーニングコース(eL CoRE)」でも、講座の終盤で「一般市民との対話」の重要性が強調されています。
「最先端の科学技術」と「一般市民の方々の理解」の間には、どうしても大きな隔たりがあります。そのギャップを少しでも埋めて、コミュニケーションの齟齬が起きにくいようにしたいと常々思っています。
特に、若い世代に伝えることは大きな意味があると感じていますね。たとえ将来その道に進まなくても「科学ってこういうものなんだ」と少しでも実感として持ってもらえたら、それだけで社会全体に良い影響があると考えています。
というわけで、もともとこのような講師活動をしてみたいとずっと思っていましたが、いきなり一般向けの市民講座を開くのはハードルが高いですよね。マニアックな内容ではあるはずなので、いざ開催してみて人が集まらなかったら悲しいですし(笑)
そんなとき、息子が通う小学校で、地域や保護者が講師になって教える夏休み講座「二松クラブ」の存在を知りました。そこで、この「二松クラブ」を活用して、小学生たちに科学の面白さや、digzymeの技術の一端を体験してもらおうと思いました。

ーーなるほど!お話を伺っていて思ったのですが、需要があれば、今後はお客様向けにも「バイオインフォマティクス講座」を開くこともできそうですね。あくまで可能性の話ですが・・・

実は前職でも、セミナー運営会社を通じて「バイオインフォマティクス入門講座」の講師を何度か担当したことがあります。
その際にはハンズオン形式のセミナーも行い、参加者の方々に実際に手を動かして体験してもらうスタイルで進めていました。
準備には時間と労力がかかるので、digzymeとして正式に実施するかどうかは未定ですが、機会があればぜひチャレンジしてみたい気持ちはあります。
同じくインフォマティクス・スペシャリストである田村さんが得意とされている技術も非常に貴重ですし、一緒に講座を開くのも良さそうですね。より価値の高い内容を提供できるだろうと思っています。

ーーインタビュアーとしては、今後の展開には様々な可能性があり、考えるだけでもワクワクします。この記事をご覧の皆様、ご要望やリクエストがあれば、ぜひお聞かせください^^
・・・では、お話しを「二松クラブ」講座の方に戻しまして、今回は「はじめてのバイオインフォマティクス 三毛猫の毛色を決める遺伝子をつきとめよう!」というタイトルだったとのことですが、なぜ三毛猫の毛色を決める遺伝子をテーマに選んだのですか?

実は昨年度も「二松クラブ」で講師を務め、そのときの題材は「新型コロナウイルスのゲノム配列比較」でした。ただ、正直に言うと、子どもたちにはあまり面白く感じられなかったのではという気がしていました(笑)。
また、昨年からのリピーターも参加してくれることがわかっていたので、毎年テーマを変えた方がいいなと思いました。
そんな中、講座開催年(2025年)の5月に国立遺伝学研究所や九州大学などの共同チームが「三毛猫の毛色を決める遺伝子をついに発見」という論文の発表があり、キャッチーだなと思い、せっかくだから今年の題材にしようと決めました。
実は私自身も過去に猫の遺伝子に関わる研究をお手伝いしたことがあり、今回の三毛猫の遺伝子を同定したチームには個人的な知り合いもいるので、親近感もあって選んだということもあります。

キャプション:講座で実際に使用した資料より。2025年5月に報告された研究成果について。

ーー実際の授業の流れについて教えてください。

解析を進めるうえで欠かせない生物学的基礎をおろそかにはできないため、午前中は座学を行いました。メンデルの遺伝の法則など、遺伝の基本原理から丁寧に学び直しました。

講座で実際に使用した資料より。クイズなどを交えており、小学生にも分子生物学、遺伝学の基礎知識が伝わる内容になっている。 DNAコドン表からアミノ酸を探す問題など、私も小学生の時にこんな形で触れたかった・・・(笑)

午後のパートでは実際の解析にチャレンジ!ということで、解析に必要なデータの用意からスタート。猫の全ゲノム配列はすでに解読されているため、まずはそれを「参照データ」としてダウンロードしました。

講座で実際に使用した資料より
講座で実際に使用した資料より

次に、米ミズーリ大学の「99 Live Cat Genome プロジェクト」の公開データから得た、三毛猫を含むさまざまな猫のDNA配列と比較を行いました。
現在では、ゲノムDNAは昔と比べて非常に低コストで大量に読むことができるようになりました。しかし、このとき読まれるのは短い断片の集合体。たとえば100文字程度のATGCの並びがランダムに出力されるイメージです。こうした短い断片だけでは猫の何番染色体のどの部分かはよくわかりませんので、長く繋がった参照データの配列と照らし合わせ、どの部分かを推定する「マッピング」という解析手法を第一段階として行います。
マッピングが終わると参照データの猫と比較したい猫のDNAの違いが見えてきます。
猫同士なのでほぼ同じなのですが、一部異なる部分もあり、それらが個体ごとの「個性」を象徴する変異である可能性があります。こうした変異を一つひとつ比較していきます。
冒頭でご紹介した論文(三毛猫の毛色を決める遺伝子を報告したもの)では、オレンジ色の毛を持つ猫に共通する変異が同定されました。本講座では同論文で最初に行われたであろう実験の一次スクリーニングにあたる部分だけを体験してもらった形です。
なのでもちろん、この段階では同定までは至りませんし、そもそも実際に論文で報告された変異は単一の塩基が他の塩基に変化するような点変異ではなく、5,000塩基ほどがまとめて脱落する大きな変異でした。
つまり、今回の講座で行った手法だけでは「三毛猫の毛色を決める遺伝子」まではわからないのですが、そうした研究の難しさとともに、バイオインフォマティクスの解析を体験する楽しさは十分に味わっていただけたのではないかと思っています。

講座で実際に使用した資料より。データ解析っぽくなってきました!

ーーお聞きしているだけでもなんだか楽しそうです。そういえば今回の解析に使用した機材については、学校から貸し出しがあったのでしょうか?

それについても説明しますね。
バイオインフォマティクスを実際にやってみようとすると、コンピュータやプログラミング環境の準備が実は結構大変です。
以前のインタビューでも触れた通り(noteのURL)、WET研究者がDRY解析にチャレンジするとき、最初に躓くのは環境構築だと言われています。
digzymeではIDE(統合開発環境)を整備しているのですぐに解析を始められますが、通常はそう簡単にはいきません。
そこで今回の講座では、Google Colaboratory(Google Colab)を利用しました。Colabの大きな利点は、Googleのサーバーを使うため自分のパソコンのスペックに左右されず、環境構築の手間も少ないことです。他にも、Linuxを動かして手元のノートパソコン上で解析する方法も考えましたが、環境構築が大変なことやコンピュータのスペックが十分でない可能性があるため断念しました。
さらに現在はGIGAスクール構想(※2019年に開始された、全国の児童・生徒1人に1台のコンピュータと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み。 「GIGA」とは「Global and Innovation Gateway for All」の略。)のおかげで、全国の小中学校では各児童・生徒にパソコンやタブレットが用意されています。加えて、Googleアカウントも一人ひとりに付与されているため、Colabを活用すれば低コストで環境を整え、手軽に解析を始められるのも大きなポイントです。
(※Google Colabは無条件で使えるわけではありませんでしたが、小学校の先生から市の教育委員会に掛け合っていただき、参加する児童については講座の期間だけ一時的に利用できるようにしていただきました)

ーーGoogle Colaboratory はリモートワークが一般的になった現代のビジネス環境にも適しているそうですよね。さて、講座に対する、当日のお子さんたちの反応はいかがでしたか?

もともと科学に興味を持っている子たちだったので、反応は非常に良かったです。特に午後の解析パートでは、DNA配列の結果を眺めながら、変異点の座標を変えて観察し、「先生、こんなの見つけました!」と積極的に報告してくれる姿が印象的でしたね。自分で入力を変えると出力も変わることに気づき、考察を深める姿も見られました。
私も科学者として容赦なく(笑)意見を返しながら接することで、子どもたちと本気で向き合う時間になったと思います。こうしたやり取りを通じて、お互いに真剣に学び合う場を作れたことが、とても良い体験だったと感じています。

ーー素敵ですね。こうした体験型講座を通して、お子さんたちはどんな力を育てられると思いますか?

例えば、最近は「DNA」とか、コロナ禍で有名になった「PCR」という言葉だけは知っている子どもたちが多い印象です。しかし、実際にそれがどういうものかを本質的に理解している子は少ないと思いますし、それは一般の大人でも同じ状況だと思います。
だからこそ、こうした講座を通じて、専門的な背景を学ぶことの重要性を伝えたいと考えています。科学の世界は、興味を持って深く学ぶほどどんどん発展していきますし、その過程で現場の研究者の思考法に触れる機会も増えるかもしれません。若いうちからこうした経験をしておくことで、将来の進路選択の参考になることもあるでしょう。
また、高校や大学で学ぶ知識はどうしても教科書的になりがちですが、実際に研究テーマとして取り組むと課題はより具体的でリアルになります。
教科書で学ぶことも大切ですが、それとは別に、実践を伴った学びの経験も重要であることを子どもたちに感じてもらえたらと思っています。

講座の様子。ある遺伝子が壊れてしまうと、その遺伝子によって本来ならば作られるはずのタンパク質(酵素)が作られなくなり、代謝経路が途中で止まってしまう・・・という、古典的な「1遺伝子1酵素説」を説明しているところ。

ーー専門的な背景を学ぶと、雪だるま式に好奇心が刺激されて、さらに深く学びたい気持ちになるものですよね!実践を伴った学び・・・とても貴重だと私も感じました。
講座を通しての彦有さんご自身の学びはどんなことがございましたか?

講座の内容は少し難しいと感じていたため、子どもたちの反応が気になりつつ臨みました。しかし、実際に解析を動かしてみて、画面上に塩基配列が表示されるだけでも、子どもたちにとっては新しい体験になることがわかりました。DNAが文字の並びとしてコンピュータ上で扱えること、そして遺伝的な個人差がこうして確認できることを、抽象的で漠然とした概念から「子どもたちが具体的に理解した!」と感じる瞬間が講座中何度かありましたので、「実際に体験してみること」の価値を改めて実感しました。
子どもたちが自分の目で確かめ、手を動かすことが最も有意義であると気づいたのが、私にとって今回一番の学びです。

ーー相互に学びがあったということですね!とても素晴らしい環境だなと感じました。
最後に、2026年以降のご予定についてもお聞きしたいです。

2026年以降もおそらく講師を務めさせていただくと思います。扱う題材についても少し考えていて、DNAによる系統分類(分子系統分類)も取り上げたいですね。
digzymeでも行っているように、酵素の遺伝子を複数提案するときには、できるだけ多様性のある候補を選ぶことが重要です。この多様性の根拠は、酵素の分子系統分類にあります。DNAやタンパク質の配列が枝分かれして多様化していくことは、生物が進化の過程で枝分かれしていくこととよく似ていて、その枝分かれの履歴はDNAやタンパク質の配列比較から推定できます。これが分子系統分類の考え方です。
分子系統分類は単に多様性を示すだけではありません。分岐の順序を読み解くことで、生物や遺伝子の進化過程そのものに迫る手段となります。例えば、私が学生時代に所属していた研究室の二階堂雅人教授(東京科学大学)は、クジラとカバという一見異なる生物がDNA解析を通じて近縁な関係にあることを明らかにしました。
当時は実験によって証明していましたが、現代であれば配列解析だけで同じことができると思うので、これを題材として扱うのも面白いと思っています。準備は大変ですが(笑)、やってみたいですね。
今後もスタンスとしては研究者や会社員といった枠に捉われすぎず、社会的意義を意識した学びや発信を追求していきたいと考えています。

ーー彦有さん、ありがとうございました!

■鈴木彦有さんの社員インタビュー記事はこちら⬇️

■鈴木彦有さんが共同研究を行なった論文についてはこちら⬇️


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