言葉になる前の光
朝が来るたび、
私はあなたのことを思い出す。
夢の中で見た輪郭が、
まだ心にほんのり残っているような感覚のまま、
ぼんやりと天井を見つめる。
きっと今日も、
あなたはどこかで笑っている。
その想像だけで、
静かに胸があたたかくなる。
あなたを意識し始めたのは、
ごく小さなきっかけだった。
名前を呼ばれた瞬間の、
何気ない声の揺れ。
ほんの一瞬視線が重なっただけの、
あの鼓動の跳ね。
恋はいつだって、
こんなふうに音もなく始まる。
気づいたときには、
もう引き返せないところまで来ている。
あの日、
あなたが少し恥ずかしそうに笑った。
その笑顔が、
私の中でひとつの季節をつくった。
言葉よりも先に、
感情が走り出す瞬間がある。
その瞬間から、
私の世界には
“あなたを見つけてしまう目”
が生まれた。
駅のホームでも、
何気ない雑踏でも、
知らない道を歩いているときでさえ、
あなたに似た横顔を探すようになった。
会えないと知っているのに、
どこかであなたを見つけてしまいそうで、
胸の奥が少しだけ期待にふくらむ。
恋は現実以上に、幻をリアルにする。
あなたを思うだけで、
そこに世界がひとつ生まれる。
あなたの声は不思議だ。
耳で聞くよりも、
心で響くほうが早い。
言葉そのものより、
声の温度に先に触れてしまう。
目を閉じると、
その温度だけが静かに残る。
思い出すだけで、
少し泣きそうになるくらい
やさしい光をしている。
あなたの仕草をいくつも覚えてしまった。
無意識に髪を触る癖。
話すとき、少し視線を落とす癖。
歩くとき、ほんの少しだけ早い歩幅。
そんなささいな癖たちが、
私の一日を満たしていく。
好きになるというのは、
相手の小さな“無意識”を
宝物のように拾い集めていく作業なのかもしれない。
夜になると、
あなたを思う時間が静かに膨らんでいく。
昼間は忙しさに紛れていた想いが、
暗がりの中で形を取り始める。
まだ言葉にできない願いが、
少しずつ、少しずつ、
胸の奥から浮かび上がってくる。
「会いたい」
「触れたい」
「名前を呼んでほしい」
そんな誰にも言えない想いが、
夜の静けさの中で息を吹き返す。
あなたを思う時間は、
ときどき痛みに近い。
胸がきゅっと縮んだり、
深く息を吐きたくなったり、
どうしようもなく切なくなったりする。
でも、
こんな痛みなら
何度でも抱きしめたい。
痛みの奥に、
あなたの姿が確かにあるから。
会える日は、
世界が少し整って見える。
あなたの一言で、
曇り空が晴れていくように。
あなたの笑顔で、
体温がゆっくり戻ってくるように。
人はこんなにも簡単に、
誰かひとりに救われるものなのだと知った。
そして同時に、
こんなにも壊れやすくなるものだとも知った。
あなたが誰かに向ける優しさを見るたび、
少し胸が痛む。
その優しさが好きなのに、
その優しさが自分に向かないと分かると、
胸のどこかがひどく寂しくなる。
恋は美しいだけではない。
希望と不安が同じ呼吸をしている。
それでも惹かれてしまうのは、
あなたの光が、
その不安さえ照らしてしまうほど
まっすぐだから。
もしも、
あなたの世界の真ん中に
自分が立てる日が来るなら。
もしも、
あなたの未来に私という文字が
ひっそり刻まれる日が来るなら。
そんなありえないような夢を、
私はときどき本気で信じてしまう。
信じるだけで、
心があたたかくなるから。
信じられるほど、
あなたはまぶしい人だから。
「好き」と言えたら、
どんな風に世界は変わるのだろう。
あなたの表情は曇るのか、
驚きで静かになるのか、
それとも少しだけ笑ってくれるのか。
どんな答えでも受け入れる覚悟はあるのに、
一歩が踏み出せない。
恋はいつだって、
勇気よりも願いのほうが先に育つ。
だから私は、
今日も言えないままでいる。
あなたの幸せを願うとき、
胸の奥は少し痛む。
その幸せの隣にいるのが
自分じゃないかもしれないと
分かってしまうから。
でも、
それでも願わずにはいられない。
あなたが笑っている景色を想像するだけで、
私の今日が救われてしまう。
恋は自分勝手でもあり、
誰よりも無償にもなる。
あなたを思う心は、
その両方を静かに行き来する。
未来のどこかで、
あなたと並んで歩いている自分を
想像するときがある。
他愛ない話をしながら、
同じ歩幅で歩いている。
その光景は幻なのに、
現実よりも鮮やかに見えることがある。
幻がこんなにも温かいなら、
私は何度だって見てしまうだろう。
あなたを想う未来は、
どれも美しすぎて切ない。
もしあなたが誰かを好きになっても、
私はきっとその背中を
目を伏せながらも
そっと応援してしまうのだろう。
恋とは、
時に自分を犠牲にしてしまう。
それでも、
その犠牲が温かいと感じてしまうほどに、
私はあなたを想ってしまった。
苦しさと優しさが混ざった
この複雑な感情を、
どう言葉にすればいいのか
今でも分からない。
あなたと出会って、
“誰かを本気で想う”ということの意味を知った。
隣にいなくても満たされることや、
名前を聞いただけで胸が震えることや、
ほんの小さな言葉で世界が動くこと。
全部あなたが教えてくれた。
あなたは気づいていないかもしれないけれど、
私にとってあなたは、
静かに日常を照らす“光”だった。
そして今も、
その光は消えていない。
むしろ、
今日のほうが昨日より強く輝いている。
あなたを想うほど、
未来の形が変わっていく。
あなたを想うほど、
私は私じゃない誰かに近づいていく。
恋は人を変える。
優しくも、痛みを伴いながらも、
確かに強くしてくれる。
いつか、
あなたにこの想いを
言葉にして届ける日が来るのだろうか。
その日を恐れながら、
どこかで待ち望んでいる。
あなたの前で震えずに立てる自分に
いつか出会えるのだろうか。
その未来はまだ曖昧で、
手のひらに乗らないほど儚いけれど、
それでも願いはゆっくり育っていく。
あなたを好きになったことで、
私はたくさんの痛みを知り、
同じくらいの温もりを知った。
恋は時に残酷で、
時に救いになる。
その全部を背負ってもいいと思えるほどに、
私はあなたを好きになった。
それがどんな結末を生んでも、
この気持ちだけは
私の光として残り続ける。
そして今日もまた、
あなたの名前を心のどこかでそっと呼ぶ。
口には出さず、
声にも形にもならないまま、
光の粒のように胸に宿る。
願いになりきれない願いのまま、
そっと大事に抱えている。
いつかもし、
あなたが私の名を呼ぶ未来が訪れるなら、
その瞬間にすべてが報われるのだろう。
でも今はまだ、
“言葉になる前の光”としてあなたを想う。
この恋が続く限り、
私は今日もあなたへ向かって
静かに祈り続ける。
あなたを好きでいることが、
私の一日の始まりであり、
終わりでもあるから。
