稼働時間で管理された瞬間、誰も AI を並列で使わなくなる
「ルールですから」と言われた日
「日報を提出してください」
支援先の会社で、新設される部の部長からそう言われたとき、思わず耳を疑いました。
私はある会社と技術アドバイザリー契約を結んでいます。社長とは以前からの付き合いで、お世話になった恩を返したいという思いから、限られた稼働の中でベストエフォートで支援している会社です。
PoC の対応、困っているメンバーの壁打ち、スキル面のアドバイザー。社長の遊撃部隊のような立ち位置で、いろいろな案件の支援を自ら買って出てきました。
そんな中で、ある部署の立ち上げ支援に入ることになりました。フルコミットでその部に所属するわけではなく、他の案件と並行しながらの関わりです。
そこで冒頭の一言です。稼働時間を、日々報告してほしいと。
契約形態も稼働状況も説明した上で違和感を伝えましたが、返ってきた答えは「会社のルールですから」でした。
その日報に何の価値があるのか
実際にメンバーが書いている日報を見せてもらうと、「会議を2時間やりました」「案件の会議を1.5時間やりました」という行が並んでいるだけでした。
見返しても価値のない、ただのタイムスタンプの羅列です。それを「3分で終わるから」と求められたわけです。
私は技術アドバイザ(コンサルタント)として価値を提供しています。実施報告書を作ってほしいと言われれば作ります。それが仕事の証明になるからです。
でも、稼働時間の報告は話が別です。
コンサルタントの仕事は、稼働時間ではなくアウトプットで評価されます。見積もりのときに工数の話はしても、金額に合意した後は、顧客の満足を取るためだけに動く。それが取れなければ契約終了、それだけの世界です。
私もその覚悟でやっています。知り合いの会社であっても、価値を出せなければ切ってもらって構わない。そういうプロの矜持で関わっている相手に、日報の提出を求める。この異質さには本当に驚きました。
結局この件は社長に相談したところ、そういう対応を求める意図はないということで、不要になりました。ただ、現場で「ルールですから」の一言で押し通されかけたこと自体に、強い危うさが残りました。
稼働時間の管理が生むディスインセンティブ
AI で作業を爆速にできる時代に、稼働時間という指標は危険です。
私は今、AI を使って多くの作業を効率化しています。AI に10並列で指示を出せば、今までの10倍の速さで仕事が進む場面もあります。
そこで「稼働は1時間でしたね」という評価をされたらどうなるか。誰も並列で作業しなくなります。直列で投げて終わり。極端に言えば、AI を使わないという選択肢すら合理的になってしまいます。
稼働時間で管理すると、生産性を上げるほど損をするディスインセンティブが生まれるのです。
かつて何日もかかっていた仕事が、半分や10分の1の時間で終わるようになりました。稼働工数の契約なら「まだ手が空いているから、次の仕事をお願いします」となります。生産性を上げても、何もおいしくないのです。
そうなると、もう単価を上げるしかありません。結局、誰も幸せにならない。このロジックが理解されないまま時間管理のルールだけが強化されていくのは、本当に危険です。
ルールを潤滑油にできるか
ルールを組織の潤滑油として使える人と、使えない人がいます。今回の件で、その差がはっきり見えました。
誤解のないように書くと、私は基本姿勢としてルールを破りたいわけではありません。本質的な理由があるルールなら従います。
労働局への対応で勤怠管理が必要だと言われれば出しますし、実施報告書を求められれば作ります。会社と私、双方にとってウィンウィンの関係を成り立たせるためのルールなら、全然やるのです。
問題は、目的を失ったルールを「ルールですから」の一言で押し付けることです。
管理したい気持ちは分かります。ただ、「ベストエフォートでもいいから時間内で支援してほしい」という社長の依頼と、時間で縛る管理は相入れません。ルールが支援の推進力を止めているなら、そのルールは機能していないのです。
私の場合は社長と直接話せる立場だったので、状況を変えられました。でも本来なら、自分で行動を起こさなければ、そのままやらされていたはずです。声を上げられない立場の人は、意味のない日報を書き続けることになります。
人の背中を押す制度を
最近、感銘を受けた記事があります。大東建託さんが、がんと診断された従業員に一律100万円を支給する制度を導入したというニュースです。
https://www.kentaku.co.jp/corporate/pr/info/2025/release_cancer_250725.html
治療のための休暇や休職期間の延長もセットで、治して、また一緒に働きましょうという会社からのメッセージになっています。社員の力を信じてエンパワーメントする、素晴らしい取り組みではないでしょうか。
ルールや制度は本来、こうあるべきです。働く人の背中を押し、走りやすい環境を支援する。コースアウトして落ちてしまわないための安全網になる。
逆に、走りにくくするためのルールはダメなのです。人を手助けし、間違って踏み外さないように守るためのものが、支援の推進力を止めてしまっては本末転倒です。
私の行動原理は恩返しです。お世話になった人に、自分ができることで恩を返す。それも特定の誰かだけではなく、なるべく多くの人に返したい。
だから、やることは全力でやる。それだけに尽きます。
意見が分かれる話かもしれません。それでも私は、人が加速できるルールや仕組み、制度を作っていきたいのです。
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