人を幸せにする手段としてのデザイン|ユーザーがやりたい事をできるようにする!
今年、渋谷のお洒落な飲食店でペットロボットのLOVOTを前に座らせて食事をしている男性を見掛けた。抱っこしているところも目撃した。
それから数ヶ月後に木製家具メーカーのカリモクがLOVOT専用のチェアを発売した。価格は143,000円と高額だが、あの男性がこの椅子の存在を知ったら買うだろうなと思った。

LOVOTオーナーでなければ必要のないニッチな商品だ。だが、実際に連れ歩いている人もいるのでニーズはある。
ユーザーがやりたい事をできるようにすること、それはつまり「ウェルビーイングの実現」
ユーザーのニーズ起点で発想するデザイン思考が広がりを見せ、デザインは課題解決の手段として認識されるようになった。デザインは現状に囚われない価値提案の側面もあるためそれだけではないと筆者は考えるが、確かに課題解決には有効である。
その課題解決が「幸福な明日」をもたらすことも重要。ユーザーの願いを叶える。デザインは「ウェルビーイング(良い状態、幸福)」を実現させる手段になり得るのだ!

例えば、好評につき既に21拠点に広がる「SANU 2nd Home」もそうだ。
「Live with nature./自然と共に生きる。」をコンセプトに、月額55,000円で自然の中にもう一つの家を持てるようにした共同オーナー型のサブスクサービスである。大きな初期費用や維持管理の負担をなくし、憧れの二拠点生活を始めるハードルを下げてくれるこのサービスは、まさに幸福を実現させるデザイン。ユーザーが諦めていた夢を叶えるアイデアである。

SANUのサービスデザインはビジネスモデルでもあるので実現する側にとっては壮大な計画だ。だが「単品のデザイン」でもユーザーの夢を叶えることはできる。
自動翻訳機は言語の壁を払拭し、コミュニケーションの可能性を拡張した。
AIイラスト生成は絵を描くのが苦手な人も伝えたいことを絵で表現できるようにした。
ノンアル飲料は下戸の人も運転する人も飲み会に違和感なく参加できるようにした。
などなど。
スマホはその最上級の例かもしれない。古い例だがその道筋を作ったWALKMANや写メもそうだろう。
その多くは技術開発や商品の中身の設計で実現している。
近年はデザインという言葉が広義になり、エンジニアや研究者の仕事もその対象とされてきているが、従来のデザイナーの仕事の範疇でできることもあるのではないか。と、考え事例を思い出してみた。
苦手意識を克服して自信を持たせる
花王AUBE ブラシひと塗りシャドウ(2016年)
「毎日、キレイがうまくいく」をコンセプトに掲げるAUBEブランドのアイシャドウは、3色のグラデーションカラーをブラシで一気に塗れる仕様になっている。


時間がない、面倒くさいといったニーズに向けて「10秒シャドウ」のキャッチコピーで訴求しているが、元々の商品は化粧が上手くない人も可愛くなれることを目的としていた。

↑ 前身となる製品は、まぶたを象ったパレットで誰でもいい感じにメイクできるようにしていた。
アイメイクのトレンドも押さえた配色にしていたので、化粧が苦手でコンプレックスを持っていた人も自信が持てるようになる。AUBEブランドは残念ながら今年終了したため同商品もなくなってしまった。以前SNSで発信したら、知らなかった、買う!という反応があったので、プロモーションがそれを必要とする人たちに届いていなかった可能性もある。せっかくの良い視点なので考え方は別の商品に受け継がれたらと思う。
経済的に困難でも夢を追えるようにする
モルテン My Football Kit(2021年)

ボールを始めとするゴム/樹脂製品を開発するモルテンが、デザイン会社nendoと共同開発したサッカーボールのキット。世界の貧困地域ではサッカーボールが入手困難で、購入できても空気入れがなくメンテができないらしい。この製品はその解決策として考案された「エアレスボール」。竹鞠の構造をヒントにした帯状のパーツを互いに組むことで完成する。

破損時に怪我しないよう軟質な再生ポリプロピレンとエラストマーの合成樹脂を採用。フラットパック式で輸送も容易で、破損してもパーツ交換で修理できる。トリセツも添付されている。自社商品を活かして弱い立場にいる人たちに希望を与えるこのデザインでの解決策は、企業のSDGsの取り組みの参考になるのではないだろうか。
サービスデザインなら他にもありそうだが、製品の形のデザインにこだわったので今回は事例が少なくて申し訳ない。引き続き探してみるが、時間を掛けたのに思い当たらなかったということは、もしかしたら「願いを叶えたいという潜在ニーズ」はまだまだたくさん開拓の余地が残されている証なのかもしれない。
イネーブラー(enabler)なデザインという新機軸
知人が「イネーブラー」になりたいと言っていた。イネーブラーとは、何かを遂行することを可能にする人や物、組織、手段、道具*¹を指す言葉で、恐らくその知人は生活や社会をより良くするために必要なことを実行可能にすることを意味していたと思う。
デザインもこれからは、ウェルビーイングをゴールとするイネーブラーであるべきだと考える。形を工夫するだけでもそれが可能なことを示してみた。
余談だが、個人的にこれが叶うといいなと思うのは、雲のようなふかふかの布団に身を沈めること😁
英国のファッションブランドのアニヤ・ハインドマーチが2018年に「Chubby Cloud」(おデブな雲)というもこもこした形のバッグにちなんだイベントを開催した。そこに登場させた巨大なマットレス。あれを小ぶりにしたものが家にもあったらと思う。

NewsPicksトピックス 2024.9.27掲載記事より転載(筆者:本人)
《脚注》
*¹ 参考文献:IT用語辞典e-Words
最後までお読みいただき、ありがとうございました。(o^∇^)ノ

人々や社会を幸福にする手段としてデザインを捉え、気づきを発信しています。デザインの面白さや可能性をデザイナー以外の方々にも感じていただけたら幸いです。
普段は、デザイン、カルチャー、ライフスタイルの観点から消費者価値観や市場の潜在ニーズを洞察し、具体的な商品/デザイン開発のアイデア創出のためのコンセプトシナリオ策定や トレンド分析を行うデザインコンサルティング業務を担当しております。
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