第11回:医院のキャッシュフローを守るための鉄則―「黒字倒産」は他人事ではない。お金の流れを制する者が経営を制する―
はじめに
利益が出ていても「お金がない」は起きる
「損益計算書(PL)では黒字なのに、なぜか月末に資金が足りない」
これは歯科医院に限らず、中小企業経営者が直面する最も怖いシナリオのひとつです。「黒字倒産」という言葉をご存知でしょうか。利益は出ているのに、手元のキャッシュが枯渇して事業継続が困難になる状態です。医院経営でもこれは起きえます。
利益(損益の話)とキャッシュ(現金の動き)は、別の話です。この違いを理解することが、経営者として最低限持つべき財務感覚です。
なぜ「黒字なのにお金がない」が起きるのか
主な原因は以下の3つです。
① 保険診療の入金サイクルのズレ
保険診療の診療報酬は、当月診療した分が翌々月に入金されます。つまり、6月に診療した分が口座に入るのは8月。2ヶ月分のタイムラグがある状態で、毎月の固定費は先払いされ続けます。
② 設備投資の一括支出
診療用チェアやCT、レーザー機器などを現金購入した場合、PLでは「減価償却費」として数年に分けて費用計上されますが、実際のキャッシュは一瞬で出ていきます。
③ 節税意識が強すぎる落とし穴
「税金を減らしたい」という意識から、経費を積み増して利益を圧縮した結果、「帳簿上は赤字・手元にキャッシュもない」という最悪の状態に陥るケースがあります。節税は大切ですが、キャッシュを守ることが最優先です。
キャッシュフローを守る5つの鉄則
鉄則①:「手元現金3ヶ月分」を守る
固定費(家賃+人件費+リースなど)の3ヶ月分は、常に口座に残しておく。これが医院の「生存ライン」です。2023〜24年の光熱費・物価高騰の局面では、この余力がある医院とない医院で、明暗がはっきり分かれました。
鉄則②:借入れは「困ってから」ではなく「余裕があるうち」に
金融機関は、経営が苦しくなってからの融資申請には消極的です。売上が安定している時期にあえて融資枠を確保しておくことが、いざという時の備えになります。
鉄則③:大型設備投資は金融機関の利用を基本とする
現金購入は一見「金利がかからない」ように見えますが、キャッシュが一気に減るリスクがあります。月々の固定費になる割賦やリースの方が、資金繰りの予測が立てやすく、医院の流動性を守れます。
鉄則④:自費入金とスタッフ賞与のタイミングを合わせる
高額自費診療(インプラント・矯正)の入金日と、賞与支給日が重なると資金繰りが楽になります。支払いスケジュールを意識的に設計することも、経営者の仕事です。
鉄則⑤:毎月「資金繰り表」を1枚作る
来月・再来月の入金予定と支出予定を一覧にした資金繰り表は、経営の「天気予報」です。PLだけでなく、この表を税理士と一緒に毎月確認する習慣をつけましょう。
院長の視点:「数字より患者さん」では守れない時代
2024年以降、金利の上昇基調(日銀の金融政策の変化)により、借入金の利息負担が増している医院も出始めています。「診療に集中していれば経営はついてくる」という時代は、少しずつ終わりを迎えています。キャッシュフローを意識することは、患者さんへの安定した医療提供を守ることでもあります。
今日のアクションプラン
今日、口座残高と今月の支出予定を照合する
「今月末に何が引き落とされるか」を把握しているだけで、経営感覚は大きく変わります。
税理士に「資金繰り表の作り方」を相談する
PLとは別に、キャッシュの動きを可視化するツールを一枚持つことを目標にしましょう。

次回(第12回)は、医療法人化を検討するタイミングと判断基準をお伝えします。
