本棚の20世紀(55)鴻上尚史著「冒険宣言」
劇団「第三舞台」である。今は東西のワカモノたちに「日本のこれってクール?」と聞いているオジさんかも知れない。1958年生まれ、ひとつ年上だ。
バブル前の踊り場をかき回していた面々の一人である。
「第三舞台」は一時、あの「夢の遊眠社」と観客動員を競う人気劇団だった。「明るい虚無」とも言われたその作品世界は、まさにザ・80年代だったのだろう(チケットをゲットするのが困難だったので観ていないのだ)。
「冒険宣言」はそんな売れっ子劇作家・鴻上尚史のエッセイ集。「モダン・アドベンチャー・フェスティバル」なんてサブタイトルがついているけれど、何のこっちゃ。3分の1を占める「温泉的冒険」そして「恋愛的冒険」「朝日的冒険」「頭脳的冒険」「同時代的冒険」「遊戯的冒険」「究極的冒険」「ごあいさつ的冒険」と8つの章建て。いじめも戦争もジャズも宗教もセックスも、同じ土俵で語っちゃえ、ついでに自分の鼻毛も見てね(そんな話は載っていない)というその内容は、慧眼あり凡眼ありの玉石混淆。あくまでテキトーな私ですを装う80年代の典型的文体が、メロディのように染みついてしまっているので、何を言っているのかはワキに置いても今も抵抗なく読めてしまう。

どんな組織にも個人にも、ファシズムはある。人はまず、日常や会議で、面と向って、それらに対して提案し、抗議する。やがて、夜、酒の席でなければ、抗議できなくなる。酒が入ってはじめて、人は言葉を発する。そして、それを当り前と思った時に、当り前のように組織は崩壊する。ファシズムは人間の病であって、資本主義の病ではない。
そして、セックスの後でしか、酒を飲んだ後でしか、本当の言葉を発することのできない恋人達の愛は、当り前のように崩壊する。現代のファシズムは、まず愛から始まるのだ。
もうレトリックで弄んでいる余裕なんかないような気がする。ああ、やだ。
「冒険宣言」1987年光文社刊
