マントヴァ紹介 1. 建築編(巨匠 : ジュリオ・ロマーノとマニエリスムについて)
はじめに
今年の3月にイタリアを1ヶ月ほど旅をしている時、建築目的にマントヴァを訪れました。
その際に、小さいながらにこの街の魅力にすっかり惹かれてしまいました。
そこで、このnoteでは自分で撮影した写真を交えながら、実際に街を歩いて感じたマントヴァの魅力を、歴史・文化・都市・建築など、いろいろな角度から紹介していきたいと思います。
その第一弾となる今回は、「建築」について。
マントヴァを実際に歩いてみると、街の規模に対して驚くほど多くの歴史的な建築が残っていることに気づきます。
その背景にあるのが、かつてこの街を支配したゴンザーガ家と、彼らが招いた芸術家や建築家たちです。
特に面白いのが、ルネサンスからマニエリスムへと移っていく時代の建築。
今回は「そもそもルネサンス建築とは何なのか?」というところから始めて、マニエリスム、そしてジュリオ・ロマーノと代表作パラッツォ・テまで、実際に撮影した写真を交えながら見ていきます。
① そもそもルネサンス建築とは?
まずは「ルネサンス建築って何?」というところから。
ルネサンス建築は、15世紀初頭(1400年代前半)にイタリア・フィレンツェで始まった建築様式です。そこから16世紀にかけてヨーロッパ各地へ広がっていきました。
ルネサンスは、古代ギリシャ・ローマの文化をもう一度見直そうとした時代。建築でも古代の建築を研究し、柱やアーチ、ドームなどの古典的な要素を取り入れました。
特に大切にされたのが「調和」と「比例」。
建物のそれぞれの部分をバラバラに考えるのではなく、全体の中で大きさや形を整え、左右対称や幾何学的な秩序によって美しい空間をつくろうとしました。
フィレンツェのブルネレスキや、マントヴァでも活躍したアルベルティなどが代表的な建築家です。
簡単に言えば、「古代の建築をお手本に、理性と比例によって美しい建築をつくろう!」としたのがルネサンス建築。

ルネサンス建築を代表する建築の一つ。ブラマンテやミケランジェロらが設計に携わり、古典建築をもとにした調和と壮大な幾何学的構成が特徴。
そして、この「調和のとれた美」を追求した先で、少し面白い方向に進んでいきます。
② マニエリスムとは?
ルネサンスでは、古代ギリシャ・ローマをお手本に、人体の比例や空間の奥行き、左右対称など、調和のとれた美しい表現が追求されました。
ところが16世紀になると、そこから少し違った表現が生まれます。
例えばこの絵、パルミジャニーノの《長い首の聖母》。

より
名前の通り聖母の首が異様に長く、身体も現実ではありえないほど細長く描かれています。さらに人物の配置や空間もどこか不自然。
これは「下手に描いた」のではなく、ルネサンスが追求した理想的な人体や調和を知ったうえで、あえてそれを誇張・変形しているのです。
こうした、現実にはない優雅さや不安定さ、洗練された違和感を表現したのがマニエリスムです。
「完璧な美」を追求したルネサンスに対して、「完璧だからこそ、あえて崩してみる」。
そんな16世紀の芸術文化が、建築にも現れていきます。
そして、その代表的な建築家の一人がジュリオ・ロマーノです。
③ ジュリオ・ロマーノとは?
そんなマニエリスムを代表する建築家の一人が、ジュリオ・ロマーノです。

1499年頃にローマで生まれ、ラファエロの工房で学んだ彼は、1524年にゴンザーガ家に招かれてマントヴァへ移ります。そこで宮廷の中心的な芸術家となり、建築だけでなく絵画や内装、都市計画まで幅広く手掛けました。
彼の面白さは、ルネサンスの古典的な建築をしっかり理解したうえで、そこにあえて「ズレ」や「違和感」を持ち込んだこと。
その代表作が、パラッツォ・テ(テ離宮)です。
④ パラッツォ・テの外観を見る
さて、ここからがジュリオ・ロマーノの本領です。
ゴンザーガ家のフェデリーコ2世の依頼で、1525年から1535年にかけて建設されたこの建物は、もともと王宮のような住居ではなく、宴会や余暇を楽しむための「遊びの館」としてつくられました。古代ローマのヴィラを思わせる中庭を中心とした構成も、その性格をよく表しています。

一見すると、かなり整った建築に見えませんか?
左右に長く伸びる建物に、柱やアーチが規則的に並び、中央には大きな入口があります。
使われているのも、古代ギリシャ・ローマの建築を思わせる要素ばかり。
ルネサンス建築では、こうした古典建築をお手本に、比例や対称性を重視した「調和のとれた美」が追求されました。
ところが、パラッツォ・テはここからが面白い。
近づいて、細かいところを見てみましょう。

例えば、この部分。
両側には大きな円柱が立ち、その上にはエンタブラチュア(柱の上に水平に載せられる帯状の部分のこと。)があります。
中央にはペディメントと呼ばれる三角形の装飾もあります。
ここまでは、いかにも古典建築らしい。
ところが、その下をよく見ると……
「あれ?なんか変じゃない?」
柱と柱の間にあるのは、窓のように見えて実際には塞がれた開口部。
その上には小さなペディメントが付き、壁面には石を積んだようなルスティカと呼ばれる粗い仕上げが施されています。
さらに、上部には人物や動物などのレリーフが並んでいます。
そして注目して欲しいのは、本来なら建物全体を水平に横切るはずのエンタブラチュアが、柱の部分では高く、柱と柱の間では一段下がっている。
古典建築の基本的な構成を使いながら、その水平性をあえて崩しているんです。
「柱の上に梁が載る」という分かりやすいルールを知っているからこそできる、ジュリオ・ロマーノらしい遊びです。
古典建築の要素を使っているのに、どこか素直にまとまっていない。
「古典的なのに、なんか変。」
この違和感こそ、パラッツォ・テの面白さです。

さらに、こうした細部にも注目してみると面白いです。
普段なら通り過ぎてしまいそうな柱の足元にも、石材の表現や凹凸が大胆に使われています。
パラッツォ・テは、遠くから全体を見るだけではなく、近づいて細部を見るほど「普通のルネサンス建築とは違う」ということが分かってくる建築なんです。
では次は内部へ入ってみましょう!
⑤ パラッツォ・テの内部を見てみる
外観では、柱やエンタブラチュアなど、古典建築のルールをあえて「ズラす」ことで、独特の違和感を生み出していました。
では、建物の中に入るとどうでしょうか。
その代表が、この「巨人の間」です。

部屋に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、壁から天井までを覆う巨大なフレスコ画です。
ここで面白いのは、単に「壁に大きな絵を描いた」ということではありません。
巨人や神々、雲などが壁から天井へと連続して描かれることで、壁と天井、そして絵画と建築の境界が曖昧になっているんです。

本来なら、壁や天井は空間をはっきりと区切るものです。
ところがここでは、その境界そのものが崩され、まるで部屋全体が巨大な絵画の世界に飲み込まれていくように感じられます。
外観では「古典建築のルール」を崩し、内部では「建築と絵画の境界」を崩す。
ここにも、ジュリオ・ロマーノの「分かっているからこそ、あえて崩す」というマニエリスムの考え方が表れています。
⑥まとめ
今回は、ジュリオ・ロマーノの代表作「パラッツォ・テ」を通して、マニエリスムについて見てきました。
古典建築のルールを知ったうえで、あえてズラす。
外観では建築の秩序を、内部では建築と絵画の境界を揺さぶる。
「古典的なのに、なんか変。」
そこにジュリオ・ロマーノの面白さがあります。
では逆に、彼らが崩した「古典的な美」とは、どんなものだったのでしょうか?
次回は、マントヴァを代表するもう一つの建築、サンタンドレア聖堂へ。
ルネサンスを代表する建築家、レオン・バッティスタ・アルベルティがつくり上げた「調和と秩序」の建築を見ていきます!
