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▶ 中国で顔が商品に。1話1万円で貸し出される素顔と、消せない学習データの怖さ【7/28】

主演女優をカートに入れる。制作者はもう出前を頼むより気軽に顔を選ぶ(Image)

中国で、自分の顔をAIに貸し出す市場が立ち上がっています。

複数のプラットフォームが、AI生成のドラマや広告に使う「顔の使用権」の対価として、15〜700ドル(約2,250〜10万5,000円)を支払っています。

顔は性別・年齢・「隣の女の子風」「無骨系」といった系統でカタログ化され、制作者はジャンル別に絞り込めます。

出典:[restofworld]「 In China, people are renting out their faces to AI 」

深圳のActIDは3月の開始以来約800人が登録し、うち約300人がAI制作への使用を許諾しました。

価格は1話あたり99〜500元(約2,250〜1万1,000円)、手数料は10%です。

成都のNew Clawは値崩れを防ぐため1枚500元の最低価格を設けています。

出典:[restofworld]「 In China, people are renting out their faces to AI 」

背景にあるのは縦型ショートドラマの急拡大で、今年1〜3月に公開された12万8,000本のうち95%以上が制作にAIを使っていました。

ここで起きているのは、収入の性質の転換です。演じた時間に対する出演料ではなく、顔という資産の使用許諾料に変わります。

撮影は一度きりで、以後は使われるたびに対価が発生します。

New Clawの運営責任者は、俳優やモデルが許諾するかどうかにかかわらずAIはすでに業界を壊しており、写真の権利を売ることがオフラインの仕事を続けながら稼ぐ手段になると述べています。

ただし同氏は、顔を借りる方が本人を雇うより安いことも認めています。

米国では2023年のSAG-AFTRA(映画俳優組合)のストライキで、デジタルレプリカの扱いが最大の争点になりました。

合意された契約では、複製の作成に事前の明確な同意が必要で、当初の許諾と異なる作品や用途に使う場合は改めて同意を取り直し、そのつど報酬を支払わなければなりません。

一度スキャンすれば以後は使い放題、という運用を封じた形です。

一方、日本には肖像権もパブリシティ権も明文の規定がなく、判例の積み重ねで保護されてきました。

しかも守られる対象として想定されてきたのは、主に著名人です。

中国では、制度が固まる前に売買の市場が先に立ち上がった点が際立ちます。

現場に行かず稼ぐ、私の顔は今日も時代劇で必死に恋をしているらしい(Image)

興味深いのは、実在の顔に値が付いた理由です。

ByteDance傘下の「紅果短劇(Hongguo)」は、月間利用者3億人を抱える中国最大の無料ショートドラマアプリで、AI製作品の最大の配信先です。

その紅果に、視聴者から「AIキャラの顔がどれも同じ」という不満が寄せられました。

同アプリは7月、AI作品の人物像づくりに関する規範を公表し、顔が画一的な作品の取り締まりに乗り出しています。

背景には、他人の写真を無断で使った作品が相次いで削除された経緯もあります。

生成AIは学習データの平均に寄る性質があり、量産するほど見覚えのある顔が増えます。

皮肉にも、AIが苦手とする不揃いさが希少な商品になりつつあります。

年配の顔や、どこか癖のある顔にこそ値が付くというわけです。

顔を売る契約でいちばん怖いのは、解約しても元に戻らないことです。

中国の弁護士は、数十ドルで顔データを集める業者の契約書は許諾範囲が曖昧で、誰がどう使うのか読み取れないと指摘しています。

中国国内の報道では、1年間で500元(約1万円)、買い切りなら最高1,500元(約3万円)といった相場が出回り、応じているのは学生や高齢者、エキストラが中心だといいます。

ここで見落とされがちなのが、一度学習させたモデルから自分の顔だけを抜き取ることが技術的にほぼ不可能だという点です。

削除ボタンを何度押しても、AIの中の私の顔は絶対に消えてくれない(Image)

契約期間が切れても、モデルの中の顔は残ります。

「期限付きの許諾」という言葉が、実態としてほとんど成立しない領域なのです。

日本も他人事ではありません。
今年7月27日、法務省の検討会が、生成AIによる声や肖像の無断利用について民事上の責任を整理した指針案を公表しました。

声も肖像と同じく「みだりに使われない権利」とパブリシティ権の保護対象になると明記した内容で、8月上旬に正式版が出る予定です。

法的拘束力はありませんが、判例の蓄積を待たずに行政が線を引いた点は評価したいところです。

背景には、肖像パブリシティ権擁護監視機構(JAPRO)の調査があります。

2025年6月からの約2か月間で、無断生成とみられる画像・動画が4万3,483件確認され、SNSでの閲覧は約3億3,500万回、経済的損失は20億〜45億円と試算されました。

ただし、この指針が扱っているのは「無断でやるな」という話です。

「同意のうえで売る」市場ができたときにどうするかは、まだ手つかずです。

しかも日本には、俳優側がまとめて条件を交渉できる仕組みがありません。

困るのは、名前で守れないエキストラや新人です。

中国では、事務所が新人と契約する際にAI肖像の使用条項を抱き合わせ、1年から10年の期間を設定する例も報じられています。

日本で同じことが起きない保証はありません。


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