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▶ Netflix、「ポケモン」などキッズ作品に手話通訳映像。日本の放送との落差【7/21】

別ウィンドウで笑う子と字幕に埋もれる子、皮肉なほど鮮明な日米差(image)

Netflixは、手話通訳サービスを提供するSignUp Media社と提携し、200時間におよぶキッズ・ファミリー向け作品にアメリカ手話(ASL)の通訳映像を追加すると発表しました。

対象は41のフランチャイズ(作品シリーズや世界観を共有する関連作品群)にまたがる73タイトルで、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』などNetflixオリジナル作品に加え、『ポケットモンスター』シリーズや『マジック・スクール・バス』などのライセンス作品も含まれます。

出典:[engadget]「Netflix brings ASL interpretations to dozens of shows and movies for kids」 

背景には、字幕だけでは不十分だという事情があります。

世界の聴覚障害者4.66億人のうち、成人の75%は小学4〜5年生程度の読解力にとどまり、ろうの子どもは12〜13歳まで文章を流暢に読めないとされます。

「読む」ことを前提とする字幕は、手話を母語とする層には情報保障として機能しきらないのです。

出典:[indiewire]「Netflix and ASL Company SignUp Media Are Making Hundreds of Hours of Kids Programming More Accessible 」 

配信方式にも特徴があります。

作品ごとにASL版(手話通訳を付けた専用バージョン)を用意するHBO Max型と異なり、SignUp MediaはGoogle Chromeの拡張機能として動作し、通訳者が別ウィンドウに表示されます。

位置やサイズを自由に変えられるうえ、将来的には通訳者の背景色などを利用者が選べるようにする計画で、手の動きを追いにくいろう盲(目と耳の両方に障害がある人)の利用者への配慮も進めるとしています。

一方で、テレビ視聴が主流のファミリー層と相性が悪く、Netflixアプリの正式機能ではない点は普及の壁となりかねません。

制作面では「本人性」も重視され、アジア系が主役の作品にはアジア系、ヒスパニック系が主役の作品にはヒスパニック系のろう者を起用するなど、キャラクターの背景に合わせたキャスティングを徹底しています。

さらに、既存の手話単語がないポケモンの名前は、指文字で綴る代わりに各キャラクターの特徴を捉えた独自の手話表現(サインネーム)を考案し、歌の場面では逐語訳ではなくリズムや情感を伝える翻案を行うなど、専任のASLディレクターが単なる翻訳を超えた演出を担っています。

同社にとって、配信事業者(ストリーマー)と直接組んで作品を制作するのは今回が初めてとなります。

「手話は言語である」

この一言が日本の放送・配信業界に突きつける問いは重いものです。

手話は世界共通ではなく、アメリカ手話(ASL)、イギリス手話(BSL)、日本手話(JSL)など世界で約300種が存在し、同じ英語圏でも米英で通じ合えないほど異なります。

SignUpがあえて国際手話ではなくASLを選んだのは、ASLの利用者が世界で約100万人規模に達し、国際的な場で事実上のスタンダードとなっているからでしょう。

つまりこの提携は、最も市場の大きい言語圏に照準を合わせた合理的な一手でもあるのです。

翻って日本はどうでしょうか。

総務省は放送法改正(平成9年)以降、字幕・解説・手話放送の普及目標を掲げ、令和5年10月に「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を改定して事業者の取り組みを促してきました。

ですが実態を見ると、字幕放送がNHK総合で9割近くに達する一方、手話放送はごく一部にとどまっています。

民放の手話番組はほぼ皆無で、かろうじて残るものも画面の隅に通訳者を小さくはめ込む「ワイプ式」が中心です。

NHKの手話ニュースは良質ですが、その担い手である手話通訳者は高齢化が進み、映像通訳に対応できる若年層の養成が急務という構造的な問題も抱えています。

導入を阻んできたのは、技術ではなく「割に合わなさ」でした。

1時間の映像に3〜4時間の準備を要する労働集約性、通訳者の人材難、そして「字幕で足りている」という思い込みです。

SignUpのモデルは、その難所を人力の職人技とブラウザ拡張という配信の工夫で束ね、Netflixという巨大な需要に接続してみせました。

日本手話(JSL)という独自の言語を抱える日本にとって、これはそのまま輸入できる完成品ではありません。

ですが、「できない」のではなく「やってこなかった」だけなのかもしれない。

この事例は、その事実を静かに、しかしはっきりと突きつけています。

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