▶ テレビ朝日も参画 放送局がLBEに乗り出す前に確かめたい22.9%成長の中身【7/30】

STYLYとKDDIは2026年7月28日、業界横断のコンソーシアム「LBEC」を発足しました。
LBEとは「その場所でしかできない体験」のことです。
商業施設や駅、映画館といった実在の空間に映像や仕掛けを持ち込み、その場を丸ごと演出してしまう催しを指します。
参画25社にはテレビ朝日や中京テレビ放送といった放送局のほか、東急不動産、パルコ、森ビル、みずほ銀行、三菱UFJ銀行などが名を連ねます。

背景にあるのは市場の伸びです。
調査会社MarketsandMarketsによれば、世界のLBE市場は2024年の54.7億米ドル(約8,200億円)から2029年には153.3億米ドル(約2兆3,000億円)へ、年平均22.9%で拡大すると予測されています。
この伸びを日本に取り込むため、LBECが最初に手をつけるのが「共通の物差し」づくりです。
今のLBEは、会場ごとに広さも天井の高さも電源も通信環境も違うため、案件が来るたびに一から現場を見て条件をすり合わせる作業が発生します。
この手間が、面白い企画ほど実現しにくいという事態を生んでいます。

手本にしているのは映画館のデジタル化です。
2000年代半ば、ハリウッドの大手7社が「DCI」という団体をつくり、上映用データの解像度や色の出し方といった仕様を統一しました。
それまで配給会社はフィルムの入った重い缶を全国の劇場へ運んでいましたが、規格が揃ったことでデータの受け渡しに置き換わりました。
日本映画製作者連盟の集計では、デジタル上映は2005年末の時点で全スクリーンの1.4%でしたが、2023年末には98.6%に達しています。
LBECが移植しようとしているのは、この「先に物差しを決めれば、後から流通が動き出す」という順序です。
放送局にとっての論点は、これが誰の仕事になるのかです。
番組やキャラクターを空間の催しとして送り出す仕事は、これまでイベントを扱ってきた事業局、権利の窓口を担うライツ部門、映像そのものをつくる制作局のいずれにも接している業務です。
当面は事業局主導で個別の案件として動き、規格が整って案件数が増える段階でライツ部門が窓口を握る展開が考えられます。
制作局が加わるのは、空間向けに映像を撮り下ろす必要が出てきたときでしょう。

海外では、配信会社が画面の外に出て街へ降りてきています。
Netflixは2025年11月、アメリカ・フィラデルフィアの大型商業施設の中に体験施設「NETFLIX HOUSE」を開きました。
広さは約9,300平方メートル、サッカーコート1.3面ほどです。
入場そのものは無料で、中の遊びや買い物、食事でお金をいただく仕組みです。
ここで気づいてほしいのは、Netflixが土地も建物も持っていないことです。
他社のモールを借りて入っています。
局が同じことをする場合も現実的なやり方ですが、これだけの広さを一年中お客さんで埋められるのは、世界のどこでも通じる作品を持っているからでしょう。
もうひとつ。先ほどの年平均22.9%という数字も、そのまま喜べません。
この調査が数えているのは、VR機器やプロジェクター、それを動かすソフトといった、いわば「設備側」の売上です。
最大の分野はゲームで、主要企業にはMicrosoftやGoogleが挙がります。
つまり増えているのは会場が設備に使うお金であって、番組を貸す側に入るお金が同じ勢いで増えるとは限りません。
放送局が最初に考えるべきは、市場規模の大きさより前に、自社のどの番組なら平日の昼間に人を呼べるか、という一点だと思います。

