▶ W杯収益1兆3350億円で過去最高、なのに1試合の価値は19%下落した理由【7/24】

2026年FIFAワールドカップは、総収益89億ドル(約1兆3350億円)という史上最高額を記録しました。
2022年カタール大会と比べて54%増です。
しかしこの華々しい数字は、放送市場が抱える構造的な弱さを覆い隠しています。
増収の最大の理由は、出場国を32から48に拡大したことです。
試合数は64から104へと47%増えました。
ところがメディア権利収入の伸びは32%(10億ドル=約1500億円)にとどまっています。
試合数の伸びに収入が追いつかず、1試合あたりの価値は19%下落しました。
放送局は総額としては高い対価を払っているのに、受け取る中身は薄まっているのです。
試合が増えれば増えるほど、1試合の「特別さ」は失われていきます。
この下落は、放送権の売り方そのものを変えていく可能性があります。
2030年大会はスペイン・ポルトガル・モロッコを主会場とし、開幕記念試合を南米3カ国で行う6カ国開催が予定されています。
時差も試合数も、今大会以上に複雑になるでしょう。
1試合の価値が下がり続ければ、放送局が全試合をまとめて買う「一括購入」に合理性はなくなります。
自国代表の試合と決勝トーナメントだけを選んで買う個別取引、あるいは配信事業者と組んで費用リスクを分け合う共同入札へ。
入札のかたちが変わっていくと考えられます。
日本にとっても他人事ではありません。
今大会は北米時間に合わせた日程のため、アジアと欧州は深夜キックオフが相次ぎました。

その結果、世界全体の放送契約数は495件から443件へと11%減少。
中国CCTVの契約額は2億5000万ドル(約375億円)から6000万ドル(約90億円)へ、4分の1以下に急落しました。
日本でもすでに、放送権料は放送局単独では支えきれず、配信事業者との共同取得が当たり前になっています。
ここに深夜開催が重なるとどうなるか。
視聴者は寝ています。
ゴールデンタイムを前提に組まれたスポットCMの単価設計は成り立ちません。
「高い権利料を払ったのに、広告で回収できない」という事態が、次は日本を直撃するかもしれません。
ただし、希望が見えた部分もあります。
テレビの生中継が落ち込んだ分を、ネット配信が明確に補ったのです。
英国BBCの準決勝は、テレビのBBC Oneと配信のBBC iPlayerを合わせてピーク2400万人に到達しました。

同時に、iPlayerとBBC Sportでは1260万件の視聴リクエストが発生しています。
テレビの前に座れない人が、スマホで試合を追いかけていたわけです。
日本のTVerやNHKプラスも普及は進んでいます。
しかし決定的に違う点があります。
BBCはiPlayerを「テレビ放送の代わり」と位置づけ、テレビと同じ視聴実績の指標に組み込んでいます。
一方、日本では配信はいまだに「テレビの補助」という扱いで、広告の取引を支える柱にはなっていません。
この違いは、深夜開催のような不利な条件を突きつけられたときに表れます。
配信を収益の柱として数えられる放送局は、テレビの視聴率が落ちても事業として踏みとどまれます。
配信を補助としか見なしていない放送局は、逃げ場がありません。
同じ深夜キックオフでも、受けるダメージの大きさがまったく変わってくるのです。

権利者が最も厳重に守ってきた「試合映像そのもの」を、FIFAは自ら手放しました。
TikTokとYouTubeで冒頭10分を合法的に開放し、視聴数は200億回を突破。
若年層の49%が個人ハイライトを求めるという調査結果を踏まえた判断でしょう。
日本でも放送局はSNS展開やセカンドスクリーンに挑戦してきました。
しかし、誰にどこまで映像を使わせてよいかの許諾確認に時間がかかり、切り出し作業も手作業頼みだったため、規模を広げられませんでした。
FIFAは30人のクリエイターを「公式記者」として最初から制度に組み込んだ点が決定的に違います。
切り出しを禁じるのではなく、公認して量産させる。発想の転換が求められています。

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