泰夢(たいむ)のお話:104
ついに開かれたドア……泰夢と華恋がアロハシャツの男と向き合います。
それでは、どうぞ!!
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アパートの日かげの側にあるげんかんだけれども、それでもやはり家の中よりは日の光が強くて、最初は細くくっきりと、そしていよいよ広く勢いよく差しこんできたその白さに泰夢(たいむ)が思わずギュウッとまゆ毛を寄せて目を細くする。
トートバッグをかたにした華恋(かれん)が、そのままドアを向こう側に完全に開ききると、やがてボンヤリと目がなじんできて、そこに大人が立っているのがわかった。
ちょっとねこぜでガニマタで、かた方の手をパンツのポケットに、もう一方の手で華恋が開けたドアがしまらないようにおさえている。
(……わ、アロハだ)
最初に目に飛びこんできたのは、くもりガラスでもハッキリとわかった、あのものすごくハデなアロハシャツだった。
シャツの全体は青くて、空と海の絵になっていて、そこにピンクと黄色の大きな南国の花と、緑と赤のこれまた見事な南国の鳥が、あちらこちらにプリントされている。
泰夢の父親が旅行で着ていたアロハシャツは、同じような色合いだったけれども、花の数なんかはもっとぐっと少なくて、空や海の青さももうちょっと色がうすかった。
シャツの生地もなんだかペラペラしていて全体的に安物っぽい感じだったけれども、この男の人のアロハシャツは泰夢がジーッと見てしまうほど、とてもしっかりしていてりっぱなものだった。
下は細身の黒のパンツで、足には白くてツルツルピカピカしたかわグツをはいている。短めのかみの毛は金色で整はつ料か何かで後ろにしっかりとなでつけていた。
(……このアロハが華恋ちゃんの知り合い?
大人で昼間なのに、遊びに行くみたいな格好じゃんか。
これってさ、やっぱなんかあやしいぞ!)
華恋の母親の名前も言っていたので、知っている人にはまちがいないのかもしれないけれども、このハデなアロハシャツやポケットに手をつっこんでいる感じ、それにさっき華恋がいやそうな顔をしていたのを考えると、やっぱり『良い人』ではなさそうだった。
ちょっと体を丸めて、頭を下げて、両手でデイバッグのかたひもをグッとにぎってアロハシャツの様子にけいかいする。
もし本当に悪い人、悪い大人だったらすぐににげなくちゃならない。
小学校でも学習スクールでも、そしてもちろん両親からも泰夢はそう教わっていた。
外を歩いていて変な人に声をかけられたり、後をつけられたりした時もそうだけれども、たとえ知っている人だって絶対に油断してはダメなのだ、とクラスたん任のオバジイは言っていた。
(アロハシャツのこと、見張ってなくっちゃな。
もし、何かあったらさ、
オレが華恋ちゃんを守らなきゃ……)
アロハシャツはドアを手でおさえて立ったまま、まだ何も言わず動きもせずだったけれども、ジッとするどい目つきで華恋と泰夢を見ていた。
泰夢も、直接に目は合わせなかったけれども、ちょっとだけ目線を上にしてアロハシャツの方を見て、その様子をうかがう。
華恋はキッチンのゆかにこしをおろして下を向いたまま、土間にそろえて置いていたクツをはいている最中だったが、アロハの足元をにらむような目で見ている。
「…………」
せまいげんかんに三人もいるのに、だれも何も言わない。
けれども、そこには学校の教室で先生が急にだまってしまった時のように、じんわりと重たくてちょっとでも体を動かしてはダメのような、おなかの辺りがソワソワするような感じがあって、泰夢にも華恋にも、いまこの場所がそんな風になっているのがわかった。
アロハシャツが自分たちを、自分たちはアロハシャツを、おたがいに気にしていないように見せながら、そのくせしっかりと見張っている感じがする。
それを一番最初にやぶったのは、華恋だった。
「せっかく来たみたいだけど、お母さん、家にいないよ。
今日は、もう仕事に行ったみたい。
わたしたちもこれから出かけるし……だから帰って」
スッと立ち上がって、そう言った。
それは泰夢が今まで聞いたことがない、冷たくて静かな声だった。
目の前に華恋に立たれたアロハシャツが、ちょっとビックリしたような顔をして後ずさりする。
それを見た華恋は、そこをどけ、と言わんばかりに、かたがけしたトートバッグを大きくゆらすと、
「━━ほら、行こうよ、泰夢くん。
次のバスまで、そんなに時間ないんだよ。
ぼーっとしてないで、さっさとクツをはいて」
と、まだアロハシャツを見ていた泰夢にふりむいて、目を大きくバチバチさせて合図を送る。
「えっ……あ、うん。
わかった、いまクツはくから!」
どうやら華恋も自分と同じように、ここからにげようとしているんだと分かった泰夢は、大あわてでクツに足先をつっこみ、トントンとつま先で土間をけってはこうとする。
「あっ……ちくしょう!
なんだよ、もう!
つま先がつっかえて、うまくはけないじゃんか!」
急ごうとすればするほど、クツの先っぽがグニャっと曲がってしまって、なかなか足が入っていかない。
どうしてこんな時に……と、あせった泰夢がさらにケンケントントンとやっていると、
「へぇー、そうなんだぁ。
ボクちゃんってさぁ、名前、泰夢くんっていうんだ……
━━よろしくなぁ!」
その声に泰夢が思わず顔を上げると、華恋の両かたをつかんだアロハシャツが、笑いながらこっちを見ていた。
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泰夢と華恋とアロハシャツ……どうやら二人はピンチのようです!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
