成年後見制度の改正で変わること|「そもそも何の制度?」から丁寧に整理する
成年後見制度の改正とは何か。そもそもの仕組みやこれまでの課題、なぜ見直しが必要だったのかを整理しながら、決まった変更内容と新制度が始まる時期までわかりやすくみていきます。
最近、成年後見制度の改正に関するニュースを目にした人もいるかもしれません。
まず整理しておきたいのは、今回の制度改正は、すでに見直しの内容自体は決まっているということです。ただし、新しい仕組みが実際に始まるのはこれからです。
ただ、こう感じた人も多いのではないでしょうか。
「そもそも成年後見制度って何?」
「なぜ制度を変える必要があったの?」
「今回の改正で何が変わるの?」
制度改正のニュースは、変更点だけを見てもなかなか理解しづらいものです。制度そのものの仕組みや、これまで抱えていた課題を知らないと、「なぜ改正されたのか」が見えてこないからです。
そこで今回は、成年後見制度の基本的な仕組みから順に整理しながら、今回の改正の意味を見ていきます。
そもそも成年後見制度とは何か
まず、「成年後見制度」という制度そのものを確認しておきましょう。
成年後見制度とは、判断能力が十分ではない人について、契約や財産管理などを法律面から支える制度です。
ここでいう「判断能力」とは、簡単に言えば、自分にとってどんな契約なのかを理解して、適切に判断する力のことです。
たとえば、次のようなことが難しくなったとき、この制度が支えになります。
契約書の内容を理解する
お金を自分で管理する
必要な手続きを自分で進める
制度の目的は、本人の権利や財産を守り、安心して生活できるよう支えることです。
後見人は何をする人なのか
成年後見制度では、「後見人」などと呼ばれる支援役が選ばれます。
後見人の役割は、主に次のようなものです。
契約手続きの支援(たとえば福祉サービスの契約など)
預貯金などのお金の管理
本人に代わって行う法律上の手続き
ここで一つ、誤解されやすい点を整理しておきます。
後見人は、本人に代わって直接介護や看護をする人ではありません。
一方で、生活に関わらないわけでもありません。
たとえば、どの介護サービスや医療サービスを利用するかを考え、契約や手続きを通じて生活を支える役割があります。
実際の介護や看護は、別の専門職が担います。
どんな人がこの制度の対象になるのか
成年後見制度というと、「高齢者向けの制度」というイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。
対象になるのは、判断能力が十分ではない人全般です。
たとえば次のような状況で、自分だけで契約内容を理解したり、適切に判断したりすることが難しい場合に利用されることがあります。
認知症のある人
知的障害のある人
精神障害のある人
その他、判断能力が低下している人
年齢は問いません。高齢者だけではなく、幅広い人に関わる制度です。
なぜ成年後見制度は必要なのか
判断能力が低下すると、日常生活のなかでさまざまな問題が起こりやすくなります。
たとえば、
契約の内容を十分に理解できない
お金の管理が難しくなる
悪質商法や詐欺の被害に遭いやすくなる
施設への入所契約や入院手続きが難しくなる
具体的には、一人暮らしの高齢者が訪問販売で高額な商品を契約してしまうケースなどがあります。こうした不利益を防ぎながら、本人の権利を守るために、この制度があります。
自分や家族にも関係する可能性がある
成年後見制度は、特定の人だけに関係する制度ではありません。
日本では高齢化が進み、高齢化に伴い、認知症とともに生活する人も増えていくと考えられています。
将来的には、
親が制度を使う
配偶者が制度を使う
自分自身が制度の対象になる
こうした可能性は誰にでもあります。
決して他人事ではない制度です。
これまでの制度はどんな仕組みだったのか
ここは少し制度の仕組みに踏み込みますが、難しく考える必要はありません。
これまで一般的に利用されてきた仕組みでは、本人だけでは契約内容を十分に判断することが難しい場合に、本人を守るため、後見人が法律面を支える仕組みがとられてきました。
本人が契約をうまく判断できない場合に、後見人が代わって契約をしたり、お金を管理したりします。
本人を守るという意味では、大切な仕組みです。
しかし現行制度には課題があった
ここが今回の改正につながる重要なポイントです。
制度そのものは必要でした。
しかし、その仕組みにはいくつか課題もありました。
必要がなくなっても制度をやめにくかった
一度利用を始めると、本人の能力が回復しない限り、長期間継続することが多く、途中で柔軟に終えることが難しい仕組みでした。
「この手続きのときだけ短期間使いたい」という柔軟な使い方が難しい構造だったのです。
本人より財産管理が優先される場面があった
制度の目的は本人の保護です。
そのため、本人を守ることを重視するあまり、結果として本人の希望より財産を慎重に管理することが優先されやすい場面がありました。
たとえば、本人が「自分で自由にお金を使いたい」と思っていても、トラブル防止のために慎重な管理が優先されることがありました。
本人を守る制度なのに、自由が制限されることもあった
制度は本人を守るために作られています。
しかし一方で、本人を守るために、本人が自分で決める自由が制限されることもありました。
「守ること」と「本人の自由を尊重すること」。
このバランスに課題があったのです。
制度見直しが進んだ背景
今回の制度改正では、これまでの「一律に長く支える仕組み」を見直し、必要なときに必要な範囲で支える仕組みへ変えることが決まりました。
今後は、施行に向けて制度の運用が進められていく予定です。
主なポイントは3つです。
必要な期間だけ制度を使える方向へ
これまでは長期間の利用が前提でした。
見直し後の制度では、必要な期間だけ利用しやすくなる予定です。
本人の意思をより尊重する方向へ
これまでの制度は「守ること」が中心でした。
見直し後の制度では、「本人が何を望んでいるか」をこれまで以上に重視する考え方が取り入れられる予定です。
制度をより柔軟に使える方向へ
見直し後の制度では、その人の状況に応じて、より柔軟に利用できる仕組みになる予定です。
今回の制度見直しは、「保護を中心に設計されていた制度」から、「より本人の意思を尊重する制度」へ変えていこうとするものです。
改正後も検討が必要な課題は残る
もちろん、制度を改正すればすべてが解決するわけではありません。新たな課題も生まれています。
本人の意思をどう確認するか
本人の意思を尊重するといっても、「本当に本人が望んでいることなのか」を正確に判断するのは、容易ではありません。
制度を終える基準をどう決めるか
制度を柔軟に終了できるようになると、「どのタイミングで終了するのか」という新しい問いが生まれます。
この判断基準をどう設けるかは、引き続き検討が必要な課題です。
制度が複雑になり、理解しにくくなる可能性
柔軟性が増すほど、制度そのものが複雑になる可能性もあります。
制度を改善すると、同時に新しい課題が生まれることもある。これは制度改革全般に共通する難しさです。
まとめ
今回の制度改正を整理すると、重要なのは次の4点です。
成年後見制度は、判断能力が十分ではない人を支える制度である
この制度には社会的に大きな必要性がある
これまでの制度には、構造的な課題があった
今回の制度見直しでは、本人の意思をより尊重する新しいルールへ変わることになっている
制度は、一度作れば終わりではありません。社会の変化や、人々の価値観の変化に合わせて、見直しを続けていくことが大切です。
今回の成年後見制度改正は、その一つの例と言えるでしょう。
補足
本文をわかりやすくするために省いた論点を、ここで補足します。
成年後見制度の法的根拠
日本の民法に規定されており、主に民法第7条〜第21条が関係します。現在の制度は3つの類型に分かれている
現在の成年後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、次の3つに分かれています。後見(判断能力がほとんどない状態)
保佐(判断能力が著しく不十分な状態)
補助(判断能力が一部不十分な状態)
今回の改正では、こうした区分のあり方も見直され、将来的にはよりシンプルな制度へ変わっていく予定です。
家庭裁判所が関与する
制度の利用開始や後見人の選任には、家庭裁判所が関与します。国際的な議論も背景にある
制度改正の背景には、国連の障害者権利条約など、「本人の自己決定をどこまで尊重するか」という国際的な議論もあります。新しい制度はいつ始まるのか
今回の成年後見制度の見直しを盛り込んだ改正法は、2026年6月に国会で可決・成立しました。
一方で、法律が成立したからといって、新しい制度がすぐ始まるわけではありません。
裁判所のシステム改修や現場の準備期間が必要なため、実際に新制度がスタートするのは早くても2028年頃になる見通しです。それまでは現在の制度が引き続き使われます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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