令和のおじさん流、AIを使った「経歴美人」メイク術
吉宗が大奥でやったこと
享保の改革。財政が火の車だった徳川吉宗は、大奥の経費削減に乗り出した。
全体の相当数の女性たちをリストラしたわけだが、その結果、徳川吉宗は後世のちょっとした口の悪い人からは「ブス専」なんて呼ばれるようになってしまう。どちらかというと見た目がそうでもない女性を残し、世に言う美人たちを積極的にリストラしたのが理由だ。
だが、実態は違う。「美しければ大奥を出ても嫁ぎ先には困らない」
美人は食い扶持がある。だから外に出せる。リストラできる。
現代の希望退職も、同じ構造になっている。外で通用する人が先に手を挙げ、先に出ていく。「辞めてほしい人は居座り、優秀な人ほど辞めてしまう」と、人事担当者が嘆くのはそういうことだ。吉宗は意図してやった。現代企業は意図せずして同じ結末になっている。
この記事でいう「経歴美人」とは、職務経歴書が美しい人のことだ。外に出ても通用する判断の実績がある人。美人は、今の時代も食い扶持がある。
① MIT教授が言った「AIのせいにしているが、20年前から同じことを言っている」
2026年5月、Fortuneに載ったMIT教授Paul Ostermanの発言が刺さった。
「テック企業はAIウォッシングをしている。AIのせいにしているが、20年前から同じことを言っている」
企業が人を減らす「言い訳」の変遷を並べると、こうなる。
2000年代:オフショアリング・グローバル化
2008年〜:リーマンショック
2010年代:「効率化」「フラット化」「アジャイル」
2020〜21年:コロナ禍
2022〜23年:インフレ・金利上昇
2024〜現在:AI
言い訳は変わる。でも一貫して起きていることは変わらない。正社員の「使い捨て化」だ。アメリカの労働力の35%はすでにコントラクター・フリーランス・ギグワーカーになっている。AIはその加速装置にすぎない。
「AIで仕事がなくなる」は本質ではない。「企業は昔からずっと、正社員を減らしてコストを下げようとしてきた。AIはその最新の口実だ」が本質だ。
② 美人は食い扶持がある〜希望退職で先に手を挙げるのは誰か〜
ここで一つ、意外なデータがある。
AIで真っ先に削られているのは、50代のおじさんではない。
2025年のアメリカでは、全体の失業率が3.6%に対し、新卒の失業率が5.8%だ。Big Techの新卒採用は2019年比で50%以上減少した。ソフトウェアエンジニアやカスタマーサービスのエントリー職は、2022年末から2025年にかけて約20%減少している。一方、同じ職種の中高年は増加している。
なぜか。AIが最初に代替するのは、定型的なタスクだ。レポート作成、データ整理、情報収集。これらは伝統的に新卒・若手が担ってきた業務だ。判断を含む仕事は、まだ人間が必要とされている。
ただし、これは「安全圏」ではない。「猶予」だ。
社内ではまだ必要とされている。でも外に出た瞬間に話が変わる。Metaの2025年レイオフでは、50歳以上の社員は40歳未満の社員より2.5倍解雇されやすかった。転職市場でも、50〜54歳男性の転職成功率は5.1%(厚労省調べ)だ。
社内での猶予を、どう使うか。それが問題だ。
③ 中間管理職の削減は昔からあった。AIで初めて「本当に実行できる」ようになった
中間管理職を減らそうという話は、1990年代のリエンジニアリングブームから続いている。新しい話ではない。
ただ、昔は実行できなかった。情報の集約、報告の取りまとめ、部門間の調整——これらは誰かがやらなければ組織が回らなかった。「フラット化しよう」と言っても、その仕事の受け皿がなかったから、結局中間管理職は残った。
AIが変えたのはここだ。その「誰かがやらなければいけなかった仕事」を、AIが引き受けられるようになった。Jack Dorseyは「中間管理職をAIに置き換える」と発言し、Gartnerは「2026年末までに5社に1社が中間管理職の半分以上を削減する」と予測している。
社内政治で生き残ってきた人の多くは、直属の上司に守られてきた。でもその上司ごと、フラット化で消えていく。社内政治が有効だった前提が崩れている。
もう一つ、重要な問いがある。
あなたの給料は、役職についているか。能力についているか。
役職給は、ポストがなくなれば理由も消える。上が詰まり、フラット化が進めば、「高コストで役割不明」の人材に見える。でも能力給のイメージがある人は違う。「この人に頼むと何かが解決する」という実績がある。コストの理由が見える。
50代が解雇されやすい本当の理由は、年齢ではない。判断が見えていないことだ。能力があっても、役職給に見られている。本人も無意識にそうなっている場合が多い。
④ 「経歴美人」とは何か〜職務経歴書が美しい人が、次も呼ばれる〜
経歴美人の条件は一つだ。「判断の跡が残る仕事」をしているかどうか。
職務経歴書に書けるのは、年数ではない。
❌「5年間の○○経験」
✅「○○という局面で△△を判断し、□□という結果になった。なぜならば——」
判断の跡が残っている人は、社内でも「この人は必要だ」になる。外でも呼ばれる。転職市場ではなく、フリーランス・顧問・副業市場では年齢フィルターが薄い。実績と判断力で評価される。
役職がある今こそ、やりやすい。役職があると場へのアクセス権がある。重要な会議に出られる、予算を動かせる、人を動かせる。その場で判断し、アウトプットを出せば、それがそのまま経歴になる。
役職は期限付きのアクセス権だ。使っている間に、能力の跡を残せ。
⑤ 令和のおじさん流、経歴美人メイク術〜AIでコストが下がった今こそ、取りに行く〜
AI活用者リストを見てみよう
もしあなたの会社でAI活用者リストが公開されているならば、名前の並び方を見てほしい。
ランキングの最下位にいる人たちを見てみよう。一切利用していない人たちが並んでいるはずだ。そこには二種類の人間がいる。何の成果も出せないダメ社員と、全てを人任せにしたザ・管理職だ。もしあなたがAIを活用していないザ・管理職ならば要注意だ(まあそんな人がこの記事を読むことはないだろうけど)。あなたは経営者がAIで減らしたい一番のターゲットである「無駄な高給取」なのだ。
逆に上位を見てみよう。メッセージの数や消費しているトークン量の順番に並べると、これらはあることと比例していることに気づく。そう、アウトプットの量だ。
あなたの判断を入れたアウトプットをAIで加速的に量産する
単にAIで説明資料を作っただけであれば、中に入っている判断が薄い誰が作っても同じ資料しか出てこない。それは読む人にすぐわかる。
判断力は「苦労を買う」ことでしか育たない。難しい局面に意図的に入ることで、判断の経験値が積まれる。あなたにはそれがある。それをAIに入れ込んであなたなりのアウトプットを作成する。
そして何より重要なのは、その機会・打席をさらに増やしていくことだ。
会議の著者になる
会議でのおじさんの典型的な行動はこうだ。うんうん聞いて、おかしいと思ったときだけ発言し、タスクは誰かに振り、議事録は若手に任せる。
これでは跡が残らない。
ファシリテーションは判断の仕事だ。AIに代替できない。「説明資料を作ります」と言うことも、判断の意思表示だ。会議の著者になれる人間が、経歴美人になる。
以前は「資料を作る」と言うことにコストがかかった。時間が読めなかった。でもAIで資料作成の時間コストは3分の1以下になった。「取りに行く」ことの障壁が消えた。
職務経歴書に書けるものを意識して積む
作ったもの(提案書・企画書・仕組み・ルール)、始めたもの(新規プロジェクトの立ち上げ)、止めたもの(早期撤退の判断・リスクの指摘)、育てたもの(人材・チームの成果)、外に出したもの(登壇・執筆・副業での実績)——これらが経歴の素材になる。
AI活用者リストを見た他者に、「○○さんって相当AI使ってるんですね。アウトプットからして意外でもなんでもないですが」と言われるぐらいに使い倒す。そして、あなたのアウトプットはMarkdownとしてフォルダに残り、あなたのAI資産になる。
そして、アウトプットは二次関数的に増えていき、職務経歴書の行を増やしていくのだ。
おわりに:苦労を買う人が、一社依存を抜ける
整理するとこうなる。
苦労を買う(判断の場に入る)
↓
判断力・知識が育つ
↓
AIを使って高速でアウトプットを出す
↓
跡が残る=職務経歴書になる
↓
社内外で「この人は必要だ」になる
↓
一社依存から抜け出せる
吉宗の大奥から出ていった美人達は、外でも生きていけた。だから先に出せた。
企業は昔からずっと、コストを下げる口実を探してきた。AIはその最新版にすぎない。でもその構造を知っていれば、打ち手は見える。
「どうしよう」の答えは社内政治ではない。経歴美人になることだ。
参考
