増産へ政策転換したのに農地は減り続ける——令和7年耕地面積調査の数字が示す矛盾
「米の安定供給のために増産へ転換する」。令和7年度の農業白書がそう宣言したのは、つい先月のことです。ところが農林水産省が毎年公表する耕地面積調査(令和7年・7月15日現在)を見ると、日本の農地は今年も3万3,000ha減少していました。増産を訴えながら農地は消え続けている——この矛盾は何を意味するのか、数字で整理します。
令和7年の耕地面積——何がどれだけ減ったのか
全国耕地面積:423万9,000ha(前年比▲3万3,000ha・0.8%減)
種別面積前年比 田(水田)230万ha▲1万9,000ha(▲0.8%) 畑193万9,000ha▲1万3,000ha(▲0.7%) 合計423万9,000ha▲3万3,000ha(▲0.8%)
田も畑も、同じペースで減っています。地域別では東北が6,000ha減(▲0.7%)、北海道が5,000ha減(▲0.4%)、九州が4,400ha減(▲0.9%)。全国で一様に縮小が進んでいます。
「3万3,000ha」とはどのくらいの規模か
3万3,000haという数字は、東京23区の面積(約6万ha)の半分以上です。毎年、23区の半分以上の農地が日本から失われている計算になります。
長期で見るとさらに深刻です。耕地面積のピークは1961年(昭和36年)の608.6万ha。令和7年の423.9万haと比較すると、63年間で約185万haが失われました。日本全体の農業基盤が、長期的に縮小し続けているのです。
なぜ農地は減るのか——2つのルート
①農地転用(農業以外への用途変更)
住宅・道路・商業施設などへの転用。農業の採算が合わない地域では、地権者が転用を選ぶケースが増えています。
②荒廃農地(耕作放棄)
農業者の高齢化・後継者不足により、耕作をやめて放棄された農地です。
令和6年3月末時点で、全国の荒廃農地の総面積は25.7万ha。このうち再生可能な農地は9.4万haあります。一方、荒廃農地からの再生利用は年間約1万haにとどまっており、毎年2.5万haの新たな荒廃農地が生まれています。
年間の純増減を整理すると:
荒廃農地の再生:約8,000〜10,000ha(増)
転用・荒廃による消失:それを大幅に上回る規模(減)
結果:年間3万3,000haの純減
再生の4倍以上のペースで農地が消えている——これが現実です。
「増産転換」との矛盾
農業白書は令和6年の米パニックを総括し、「生産調整から増産へ」という政策転換を明確にしました。しかし増産の前提となる農地そのものが、年間3万3,000haずつ失われています。
この矛盾の構造はこうです。
増産できる農業者は集積・大規模化で対応できる——農地バンクによる集積面積は令和5年度に5万2,000ha(前年度比+7,300ha増)と伸びており、担い手への農地集積率は60.4%に達しています。大規模農家・農業法人は規模を拡大することで単位あたりの生産性を上げています。
しかし農地の絶対量は増えない——集積が進んでも、農地の総量が減れば国全体の生産基盤は縮む。特に中山間地域・条件不利農地は集積のメリットが少なく、荒廃農地化が先行します。
増産政策と農地減少は、矛盾ではなく「分断」と言った方が正確かもしれません。集積できる農地は農業を続けられる。集積できない農地は消えていく——。
農業関係者にとっての実務的な示唆
①農地バンクの活用を急ぐ
農地集積率60.4%は着実に上がっていますが、まだ4割の農地が未集積です。担い手がいる間に集積を進めないと、後継者がいない農地が荒廃農地に転落するリスクが高まります。農地バンクへの出し手・受け手のマッチングを積極的に進めることが急務です。
②再生可能な荒廃農地の優先順位をつける
全国に9.4万haある再生可能な荒廃農地のうち、どれを優先して再生するかの判断が必要です。単価が高い作物・担い手がいる地域・集積しやすい立地を優先する戦略的な再生計画が重要です。
③農地転用の動向を把握する
転用申請が増えている農地は、農業を続けることへの採算性が低下しているシグナルです。管内での転用動向を把握し、担い手への集積や農地バンク活用による保全を先手で働きかけることが重要です。
現場目線のひと言
「うちの管内でも毎年農地が減っている」という実感を持つ農業関係者は多いと思います。ただその「実感」が、全国規模では年間3万3,000haという数字になっている。一方で増産への政策転換を宣言しているという状況は、現場から見ると「言っていることとやっていることが違う」と感じる部分があるかもしれません。農地を守ることと増産することは、最終的には同じ目標に向かっているはずです。農業関係者として、農地を守る具体的な一手を今から打ち続けることが大切だと改めて感じます。
読者ができること
農水省「令和7年耕地面積(7月15日現在)」を参照し、自分の都道府県・地域の耕地面積の変化を確認する
農地バンクへの登録状況を把握し、出し手・受け手のマッチングに積極的に関与する
管内の再生可能な荒廃農地(農水省の荒廃農地実態調査データ)を確認し、担い手とのマッチング優先リストを作る
📖 関連記事:令和6年の米パニックはなぜ起きたのか——農業白書が初めて公式に総括した要因と今後の備え(増産政策と農業基盤の現状という点で本記事と直接つながるテーマです)
あなたの管内では、農地の減少・荒廃農地の増加を肌で感じていますか?YESかNOか、コメントで一言教えてください。
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【参考リンク】
農林水産省「令和7年耕地面積(7月15日現在)」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/menseki/r7/kouti.html
農林水産省「農地の確保と有効利用」(令和6年度農業白書)
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r6/r6_h/trend/part1/chap3/c3_2_00.html
この記事は農林水産省「令和7年耕地面積(7月15日現在)」および令和6年度食料・農業・農村白書をもとに、農業に関わる仕事をしている視点で解説したものです。
