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【のたり歳時記】月暦/二十四節気/七十二候~桃始笑~ももはじめてわらう

桃始笑(ももはじめてわらう)

3月10日頃、桃が咲き始める。
梅が終わり、桜はまだ。
その端境期をそっと埋めるように、
桃だけが、密集した紅色の花を咲かせる。
七十二候では、この時期を 「桃始笑(ももはじめてわらう)」と呼びます。

「え、花が笑うの?」って。
でも、知れば知るほど、 これ以上ぴったりな言葉はないと思えてきます。 今日は、桃始笑の世界を 一緒に歩いてみませんか。


「笑む」という古語の豊かさ

古語で「えむ(笑む)」という言葉は、
人が微笑む様子だけを指す言葉ではありませんでした。

植物の蕾がほころび、内側の花びらがのぞく状態も
同じ「えむ」で表現していたのです。 考えてみれば、確かに似ている。
— 閉じていた口元がゆるんで、白い歯がのぞく。
— 固く合わさった蕾が割れて、紅の花びらがのぞく。

古人の目には、その二つが 同じ「喜びの表出」として映っていた。

「咲く」と「笑う」がかつて同じ意味の漢字として
扱われていた時代がある。

そういう言葉の歴史を知ると、自然と人間の間の境界が、
ずっと曖昧だったんだなと感じます。

「あ、咲いてる」じゃなくて、
「あ、笑ってる」って見えてくるんです。

不思議なものですよね。

花が「笑う」という感覚、あなたはどう感じますか?


桃始笑とは

桃始笑は、七十二候の第八候。
二十四節気「啓蟄(けいちつ)」の次候として、
3月10日〜3月14日頃に当たります。

啓蟄とは「土の中で眠っていた虫たちが目覚める」時期。
その次に来るのが、桃が笑い始める候。
地中から虫が出て、 地上では桃が笑う。
万物が動き出す春の高揚感が、 この短い5日間に凝縮されています。

ちなみにこの候、もともと中国の暦では
「倉庚鳴(そうこうめい)」—ウグイスが鳴く候でした。
日本の気候に合わせて書き換えられ、「聴覚的な現象(鳴き声)」から
「視覚的に劇的な変化(桃の開花)」が選ばれたようです。

梅(初春)→ 桃(仲春)→ 桜(晩春)。
この花のリレーが暦の中に組み込まれていることに
先人の春を段階的に味わおうとした心を感じます。


和歌に詠まれた桃

和歌の中で、桃はどう詠まれてきたのでしょう。

春の苑(その) 紅(くれない)にほふ  桃の花 下照る道に 出で立つ乙女
―大伴家持(万葉集)

桃の花の色彩が光となって地上を照らし、
そこに立つ人まで輝かせてしまう。

「下照る(したてる)」——この言葉が好きです。

花が輝くだけじゃない。
その輝きが地面に降りてきて、
道を歩く人も、その光の中に包まれてしまう。

長く寒い冬を超えて、桃の花が咲き
暖かい春の日ざしに乙女の姿が
なおいっそう輝いてみえる。
そんな意味に私は感じます。

桃の花 咲きける時に 思へば ひとつ色なる 春の曙
―伏見院(玉葉和歌集)

桃が咲く様子を見ると、
春の夜明けの空の色までもが
花と同じ桃色に染まっているように感じられる。

冬の無彩色な世界から、一気に色彩豊かな世界へ。

その転換の喜びが、
空の色まで変えてしまうという誇張に込められています。


茨城県桜川市「真壁のひなまつり」伊勢屋旅館さんにて

桃の花とひな祭り~「桃の節句」

桃の花とひな祭りは、切っても切れない深い結びつきがあります。
ひな祭りが「桃の節句」と呼ばれるのには、単に開花時期が重なるというだけでなく、古代中国から伝わった思想や信仰が大きく関わっています。
桃の木には邪気を払い、不老長寿をもたらす神聖な力があると信じられてきました。

また、桃は非常に生命力が強く、たくさんの実をつけることから、「繁栄」や「長寿」の象徴でもあります。

茨城県筑西市のお隣の桜川市で毎年行われる、真壁のひなまつり。
真壁地区は古民家や蔵が残る、歴史情緒あふれる素敵な町です。
3月3日、あいにくの雨でしたが、地元の方に真壁の街を
案内していただきました。

本屋さん、洋品店屋さん、酒蔵など代々受け継がれてきた
我が家自慢の「ひな人形」に飾られており、
自由に見学する事ができます。

真壁の蔵元「西岡本店」のひな人形展示とライトアップ

こちらは真壁の蔵元の西岡本店さんの蔵の中に、
たくさんのひな人形と幻想的なライトアップで
インスタ映え間違いなしの人気のスポットです。
見学させていただいた後は、あたたかく美味しい甘酒をいただきました。
来年は着物を着て町を散策してみたいと思います。


最近、私が実践していること

最近、私は花を見るとき、
意識的に「笑っている」という言葉で受け取るようにしています。

「咲いてる」じゃなくて「笑ってる」。

これだけで、花との距離感が変わる気がするんです。

なんというか、花が「こちら側」に来てくれる感じ。
次に花を見たとき、「笑ってるな」って呟いてみると、
あなたの気持ちがちょっと柔らかくなるかもしれません。

あなたは、花に話しかけてみたことはありますか?
どんな言葉が、ふと口をついて出てきましたか?


茨城県古河公方公園の桃の花

おわりに

七十二候は、約五日ごとに候が変わります。

「桃始笑」は3月10日〜14日頃。この五日間だけ、
「今は桃が笑い始める時期だ」と意識しながら過ごしてみる。

通勤路でも、近所の公園でも、 桃(あるいは似た色の花)を探してみる。

暦と自然と自分の日常が、 少しだけ重なる瞬間がある。

それが七十二候の面白さだと、 私は感じています。

今年の春、あなたはどんな「笑い」を見つけましたか?

「この花、笑ってるなと思った」でも、
「桃じゃないけど、こんな花を見た」でも。

コメントで教えてもらえたら、とても嬉しいです。
あなたの春の発見が、次の記事を書く力になります。

次の候へ——菜虫化蝶

3月15日頃からは、次の候「菜虫化蝶(なむしちょうとなる)」。

菜の葉を食べていた青虫が、
蝶に生まれ変わる時期です。

桃が笑い始め、虫が地から出てきて、
青虫が蝶になる——

春って、変容の季節なんですね。

次の候も、一緒に楽しみましょう。


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