東京圏でしか暮らしたことがなかった1940年生まれの母が、私の住む山形でひとり暮らしを始めた話②
4 高齢者施設いろいろ
とはいえ、これまで私は山形で彼女の暮らしをサポートするなんて全く考えたことがなかった。イチから情報集めである。まずは高齢者が暮らす施設の全体像をつかまないと。
インターネットでビギナー向けのページを概観する。ひとくちに高齢者施設といってもいろいろある。その選択の目安になるのは要介護度だ。彼女の現況は介護を要するほどではない、というのは認識していたが、そういう状態を「自立」という用語で位置づけているのはの初めて知った。それがわかると選択肢が絞られてくる。「自立」の母には、最初に見学した「ケアハウス(軽費老人ホーム)」は適当な選択であるようだ。正直、「老人ホーム」という言葉はしっくりこないが、「軽費」という響きは悪くない。加えて、将来的に介護が必要になったときスムーズな移行ができるような施設にも目を配った。「住宅型有料老人ホーム」がそのあたりなのか。もうひとつ「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」というのがある。都会の高齢者が優雅に過ごしている一方、それなりの経費がかかるというイメージがあったので、これはあまり真剣に検討したわけではなかった。
次に頼りにしたのは近所に住むケアマネの呑み友だ。母の現況を伝えこのあたりの施設でよいのかアドバイスを請う。都市部で暮らしてきた人が山形に馴染めるか、というのが引っ掛かっていたようだが、母の状況を踏まえると、やはり「サ高住」もお薦めらしい。加えて、すぐに適当な施設の資料を準備して届けてくれた。これはホントに心強く、ありがたかった。
これをもとに、次の見学先を検討する。最初に目をつけた山形市内の山すそにあるケアハウスは、このタイミングでは空きがなく見学を見送った。この時見学予約をしたのは、わが家から車で5分ほどの「住宅型有料老人ホーム」と、山形駅に近い「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」だ。いつしか私の中では、家に近いということと、私の仕事絡みで設置者になじみがあったという点で、住宅型有料老人ホームが本命になっていた。
5 2度目の施設見学
山形の施設見学はまだ雪の残る2月の下旬だった。ひとり山形新幹線でやってきた母を連れて予約していた2つの施設を見学をする。ともにやさしい職員の方が親身になって説明をしてくれる。とくに近所の施設は天窓から陽光が注ぐ明るい施設で建物の印象は悪くない。ただ、調理施設や冷蔵庫などが共用で、日々の生活も職員の方におんぶにだっこ感が強い。また、入居している方はベッドの上で過ごす時間が長そうなことが引っ掛かった。
母自身も、自炊は飽き飽きだといっていたものの、個別の調理施設や冷蔵庫が無いのが気になったようだ。なによりも、最初に見た学生寮風のケアハウスのように、自由に出歩いて好きなように過ごせる雰囲気のほうを望んでいた。
2つ目の施設で案内してくれた若い職員の方にそんな話をした。すると彼は、それなら市の中心部にあるサ高住がきっと合っていますよ、と提案してくれたのだ。これは意外なことであった。茶髪にピアスの彼はケアマネもやっているのかなあ。にじみ出るやさしさ。こんなところが山形である。
あらためて柏から見学に来るのも大変なので、ダメ元ですぐに提案いただいた施設に電話を入れた。急な連絡にも関わらず(しかも祝日だったのに)、見学を受け入れてくれるという。車で10分とかからないその施設は、山形の中心市街地に佇む、一見すると普通のマンションのようなこぎれいな建物であった。

恐れるほど雪は積もらない
(直記さん写真お借りしました)
6 中心市街地のサ高住へ
対応してくれたのは、私と同じ年頃の気のいい男性職員だった。さっそくエレベーターに乗り居室のあるフロアを見せてもらう。彩度低めのグリーンがアクセントカラーになった屋内の共用の廊下は、高い窓からの外光で明るく、空調も完備している。各部屋の扉が整然と並ぶさまは、まあ賃貸のマンションと変わりない。階数表示などのサインもシンプルで、高齢者施設然していないのが私的には好印象だ。
部屋は1DKで、2部屋とも東側が開口している。両部屋とも幅いっぱいの窓があり、DKは天井までの高さの大きな掃き出し窓からベランダに出ることができる。キッチンには1口ではあるがIHコンロがあり、シンクもまあ実用的な大きさだ。収納や冷蔵庫スペースもあり、ひとり分の簡単な食事なら充分作れるだろう。風呂やトイレ、洗面台も余裕がある作りで、さらには奥行きのある大きなクローゼットがある。3LDKの柏のマンションに比べればこじんまりとしているが、ひとりで暮らすにはこれぐらいがちょうどよいのではないか。
あらためて見回せばその立地環境も魅力だ。山形とはいえ県都の中心市街地にあり、市立の総合病院が目の前、市役所までも徒歩5分ほど。市街地の循環バスが頻繁に運行されているほか、市役所前は郊外へ向かうバスターミナルになっている。自家用車を持たない母でも日常の買い物や通院は自力でできそうなのだ。
私はともかく、気がかかりは母の意向だ。実はこの施設の見学時、彼女は心ここにあらずの様子だったのだ。朝、柏を出て新幹線で山形に来るだけでもひと仕事なのに、すでに2軒の施設を見学していたのだから無理もない。実は耳もだいぶ遠くなっていたので、知らない人の話を次々と聞くのはエネルギーが必要だったはずだ。それでもキッチンがあることとたっぷりの採光は好印象だったようで、やはりあまり考えることなく、ここを第一希望とすることにした。当初全く想定していなかった山形市の中心市街地にあるサ高住である。何でも動いてみないとわからないものだ。
≪③に続く≫
