経営者の陥りやすい勘違い③ ~担保設定について~
極論的に申し上げるが、運転資金を調達する際に、安易に担保権(根抵当権や抵当権)の設定を求めてくる銀行とは、付き合い方を考えた方が良い。
なぜなら、銀行がその会社への融資について、信用力だけでは取り切れないリスクを感じ、「保全」を求めている可能性があるからだ。
実務では、不動産に根抵当権を設定されている事業者をよく見る。
しかし経営者に話を聞いてみると、
「なぜ根抵当権を設定したのか」
「どうすれば解除できるのか」
「他行からの資金調達にどのような影響があるのか」
まで理解しているケースは、それほど多くない。
おそらく設定時に、銀行側から十分な説明を受けないまま応じてしまったケースもあるだろう。
根抵当権があるから融資を受けられるわけではない
根抵当権は、一定の範囲に属する複数の債権を、設定した極度額まで担保する仕組みである。
銀行側から見れば非常に使い勝手が良い。
一度設定しておけば、対象となる取引について継続的に担保を確保できるからだ。
ここで経営者が勘違いしやすいのが「極度額=銀行が融資してくれる金額」ではないということである。
例えば極度額1億円の根抵当権が設定されているからといって、その銀行が1億円まで融資してくれるわけではない。
銀行は融資の都度、
・会社の業績
・キャッシュフロー
・財務内容
・信用格付
・既存借入
・担保評価
などを踏まえて与信判断を行う。
つまり、
「根抵当権がある=いつでも借りられる」
ではない。
これは経営者にぜひ理解していただきたい。
経営状態が悪化すれば、なおさら融資は出ない
事業者が経営破綻した場合、銀行は最終的に担保権を実行して債権回収を図ることになる。
任意売却であれば比較的高い価格で処分できる可能性もあるが、競売となれば市場での通常売却より低い価格になる可能性もある。
そのため銀行は、不動産の市場価格そのものではなく、一定の掛目などを考慮した担保評価を行っている。
そして、ここが重要である。
会社の業績が悪化し、リスケジュールまで行っている状態で、
「まだ根抵当権の極度額に余裕があるから追加融資を受けられるだろう」
と考えるのは危険である。
担保余力と融資余力は別物だ。
銀行が「返済できない」と判断すれば、担保があったとしても新規融資をしないことは当然にある。
設備資金と運転資金は分けて考える
本社、店舗、工場など不動産取得を伴う大型設備投資では、取得する不動産への抵当権設定を融資条件とされることは珍しくない。
これは理解できる。
しかし、私が問題視しているのは運転資金に対する担保設定である。
通常の事業活動に必要な運転資金を調達する際に不動産担保まで要求されたのであれば、
「なぜこの融資に担保が必要なのか」
を銀行に確認していただきたい。
そして、他行から無担保で調達できないかも検討していただきたい。
銀行から融資条件を提示されると、
「貸してもらえるなら仕方ない」
と考えてしまう経営者は多い。
しかし、それでは銀行との交渉にはならない。
本当にリスクを取ってくれる銀行を見極めていただきたい。
そもそも、担保を差し出してまで借りる必要があるのか
もう一つ考えていただきたいことがある。
運転資金を借りるために不動産担保まで要求される状態なのであれば、会社の経営状態そのものが芳しくない可能性もある。
その場合、
「どうすれば借りられるか」
だけを考えるべきではない。
本当に担保を提供してまで資金を借り、事業を継続する必要があるのか。
ここまで考える必要がある。
場合によっては、不動産を担保として差し出して借入を増やすのではなく、不動産を売却して借入を圧縮し、ある程度きれいな状態で出口戦略を考えた方が良いケースもある。
「借りられるから借りる」
ではなく、
「借りた先に何があるのか」
まで考えてほしい。
担保は一度設定すると他行交渉にも影響する
担保権については、知識・経験ともに銀行側が圧倒的に優位である。
特に注意していただきたいのが担保順位だ。
同じ不動産に複数の担保権が設定されれば、原則として先順位の担保権者から優先的に弁済を受けることになる。
つまり、先順位で担保を押さえた銀行は非常に強い。
その結果、後から別の銀行に融資を申し込んでも、
「担保余力がない」
「先順位を他行に押さえられている」
という理由で、融資交渉の選択肢が狭くなることもある。
担保提供とは、単に今回の融資条件を受け入れるだけの話ではない。
将来の資金調達の選択肢にも影響する重要な経営判断なのである。
だからこそ、銀行から担保設定を求められた際には、安易に応じないでいただきたい。
「なぜ必要なのか」
「解除条件は何なのか」
「他行との取引にどのような影響があるのか」
少なくともこの3点は確認していただきたい。
担保・保証については銀行と経営者の情報格差が非常に大きい。
だからこそ、必要に応じて銀行とは異なる第三者の目線を入れて判断することをお勧めしたい。
