『夜にパタパタ、黒板消しの妖精』ーー毎週ショートショートnote

深夜。
文徳高校。
誰もいない廊下を、小さな白い影たちが跳ねていた。
ぱたん。
ぱたん。
黒板消しの妖精たち。
「今夜も、悪夢を消して回るぞ!」
「おー!」
「みんなを、スヤスヤにするんだ!」
⸻
職員寮。
橘レナ、布団の中でうなされていた。

「なんで既読つかへんのぉ〜、こうじぃ……
うち、あんな長文送らんかったらぁ〜……」
黒板消しの妖精たち、静かに頷く。
「重いな」
「消そう」
サァァァ……。
レナ、急に穏やかな顔になる。

「……えへへ……月、きれいやなぁ……」
妖精たち、満足げ。
「成功や!」
⸻
次の部屋。
白井つむぎ。

「たこ焼きにバナナ入れるてどういうことやねん!!」
布団の上でめちゃくちゃキレている。
妖精たち、ざわつく。
「またたこ焼きや」
妖精たち、少し引く。
「怖いな……でも一応悪夢やな」
「消そう」
サァァァ……。
つむぎ、急に静かになる。

「……八個入り……銀だこは別ジャンル……」
妖精たち、頷く。
「ヨシ!」
⸻
最後の部屋。
桐野心春。
静かな寝息。月明かり。

妖精たち、そっと近づく。
「この子、いつも静かやな」
「どんな夢見てるんやろ」
一匹がおそるおそる夢を覗き込む。
そこには——
広大な月の砂漠。
青白い光。
無数の本たちが、無言で餅つきをしていた。
ぺったん。ぺったん。
夏目漱石全集が杵を振る。
太宰治が餅を返す。
辞書が静かに湯気を出している。

妖精、震える。
「何これ……」
「やっぱりやばい」
その瞬間。
心春、むくっと起き上がる。

妖精たち、硬直。
心春、ぼんやりした目で首を傾げる。
「……何をしてるんですか?」
一番小さい妖精、おずおず名乗る。
「えっと……黒板消しの妖精です。
悪夢を消して回ってます」
心春、少し考える。
「……なるほど」
静かな沈黙。
そして、優しく言った。
「でも、辛い夢もまた、人生の一部ですよ」
妖精たち、ぽかん。
心春、続ける。
「嫌なことを忘れるだけじゃ、人って前に進めませんから。
悲しかったことも、苦しかったことも、大事なんです」
妖精たち、しん……。
「そっかぁ……」
「深いなぁ……」
「じゃあ、夢戻すね」
サァァァ……。
次の瞬間。
職員寮。

「こうじぃぃぃ!!」
「たくむぅぅぅ!!」
「しょうたぁぁぁ〜!!」
レナの絶叫が、夜の学校に響き渡った。
妖精たち、震える。
「人数増えてる」
「記憶が連鎖した」
「……しかも恋愛で打線組んでる」
⸻
翌朝。
教室。
つむぎ、パンをかじりながら首を傾げる。

「あれ? レナは?」
心春、静かに本をめくる。
「なんか、過去の失恋を一気に思い出したらしく、お休みです」
つむぎ、固まる。
「アイツ、ホンマに学校の先生か……」
<おわり>
今回参加させていただいたのは
田原さんのこちらの企画です。
