文徳高校文芸部大喜利研究会――今夜はピン芸に酔いしれる日――
部室。
夕方の光が、古びた机に長く伸びる。
黒板の端には、誰かがチョークで書いたままの「大喜利練習中」。
ガラッ。
つむぎ、勢いよく扉を開ける。
⸻
つむぎ
「心春!今日は何の日か分かるか!!」
心春(ノートを閉じながら)
「MajiでZoromeの1日前」
つむぎ
「ちゃうわ!涼子はもうええ!!」
(間)
つむぎ
「ピン芸人日本一決定戦
R-1グランプリ2026の日や!」

心春
「分かってますよ。
つむちゃん、頑張れ」
つむぎ
「出てへん!
出たいけども!!」
⸻
心春
「一人、テキストとアニメで参加してたら斬新ですね」
つむぎ
「斬新ちゃう、恐怖やねん」
⸻
心春
「今年は盛り上がりますかね?」
つむぎ
「“今年は”って、わざわざ荒立てるな」
⸻
心春
「注目はいますか?」
つむぎ
「そやな……」
(少し間)
つむぎ
「やっぱ、インチキ宗教の教祖さまかな」
心春
「…ひどい言い方。
ドンデコルテの銀次さんですね」

つむぎ
「M-1での衝撃からまだ3ヶ月。
見る側の“笑う準備”は出来てる。
あの銀次がピンで何をするか――
期待値MAXや」
心春
「R-1は初見の芸が多く、まずは空気に触れるのが普通。
でも銀次さんは、
“取扱説明書”が既に配られている状態?」
つむぎ
「お!やるやん!!」
心春
「勉強しました」
⸻
(一瞬の沈黙)
つむぎ、机に片足を乗せる。
⸻
つむぎ
「R-1で一番怖いのはな、“説明”や。
笑いの前に説明が必要になった瞬間、
客は置いていかれる」
心春
「でも銀次さんは、
“説明がボケ”ですよね」
つむぎ
「そうや!!
“信じるか信じないかはあなた次第”の顔で
見る側の心をかっさらう」
⸻
心春、静かに立ち上がる。
⸻
心春
「つまり――
キャラが先に勝っている」
つむぎ
「それや。
ピンは孤独やけど、
キャラが空気を連れてくる。
そして、これをみてくれ。
くりぃむナンタラの企画
『もうええわを言わない相方たち』
…正直、鳥肌もんやった」
心春
「トークスキルの高さが異常です」
⸻
テレビのスイッチを入れる。
まだCM。
二人、画面を見つめたまま。
⸻
心春
「つむちゃんが出るなら?」
つむぎ
「……漫談やな」
心春
「どんな?」
つむぎ
「毎日、大喜利を仕掛けられる悲哀を語る」
心春
「え?
嫌なんですか?
本気で言ってますか?」
つむぎ
「本気で嫌なら
とうの昔に退部してるよ!」
⸻
二人、顔を見合わせて笑う。

心春
パクリは今日はやめましょう。
つむぎ
そうやな。
今夜は、
新しい笑いが生まれる日
今夜は、
ピン芸に酔いしれる日
