建築家が語る|独立して、最初に作った店のこと〜15年経っても、あの日のことを覚えている〜
はじめに
いつもは「教える」記事や「失敗事例」を書いていますが、今日は少し違う話をさせてください。
私がなぜ、この仕事を続けているのか。その原点の話です。
開業ノウハウでも、内装のコツでもありません。ただ、独立して最初に店を作ったときのことを、思い出すままに書きます。
興味のない方は、読み飛ばしてください。でも、これから何かを始めようとしている方には、何か届くものがあるかもしれません。
独立したばかりの、あの頃
独立したばかりの頃は、正直、不安しかありませんでした。
会社員時代は、看板も、実績も、先輩も、全部会社のものでした。独立した瞬間、その全部がなくなる。残ったのは、自分の技術と、ほんの少しの自信だけ。
「本当に、自分に仕事が来るのだろうか」
毎晩そう考えていたのを、今でも覚えています。
最初の依頼
最初の依頼は、忘れもしません。
ある方が、長年の夢だったお店を開く——その内装を任せたい、と言ってくださいました。
嬉しさよりも先に、震えました。
その方にとっては、人生をかけた一歩です。退職金や、これまでの貯え、家族の理解。全部を背負って、お店を開こうとしている。その大事な「箱」を、独立したばかりの私に託してくれる。
責任の重さに、手が震えました。
図面を引きながら考えたこと
図面を引きながら、ずっと考えていました。
「この人が、ここで成功するには、どうすればいいか」
かっこいい店を作ることは、正直できます。でも、私が作りたかったのはそれではなかった。
この人が、ここで長く商売を続けられる店。お客さんが居心地よく過ごせて、働く本人も無理なく回せて、ちゃんと利益が残る店。
見た目の良さの裏に、そういう「続けられる仕組み」を全部仕込む。それが、託してくれた人への、唯一の恩返しだと思っていました。
引き渡しの日
引き渡しの日のことも、よく覚えています。
完成した店を見て、施主さんが、しばらく何も言わずに立っていました。
そして、ひとこと。
「ここで、頑張れる気がします」
その言葉を聞いた瞬間、ああ、この仕事を選んでよかった、と心から思いました。
建物を作る仕事だと思っていました。でも違った。私は、人の挑戦を支える仕事をしていたんだと、その日に気づいたんです。
15年経った今、思うこと
あれから15年。何百件もの店や施設を手がけてきました。
成功した店もあれば、残念ながら閉じた店もあります。失敗事例の記事で書いているのは、そういう現場で学んだことです。
でも、根っこにあるものは、最初の店からずっと変わりません。
内装は、建物ではなく、その人の挑戦そのものだ。
だから私は、ただ綺麗な店を作るのではなく、「この人が続けられるか」を本気で考える。図面の段階で、お金の流れも、人の動きも、全部シミュレーションする。失敗してほしくないから。
それは、最初の施主さんの「ここで、頑張れる気がします」という言葉を、今も背負っているからだと思います。
これから始める、あなたへ
もし今、あなたが何かを始めようとしているなら。
不安で当たり前です。私も震えていました。
でも、その一歩を支えてくれる人は、必ずいます。建築のことなら、私たちのような人間がいる。資金のことなら税理士が、法務なら士業の先生がいる。
一人で全部抱えなくていい。あなたの挑戦を、本気で支えたい人間は、ちゃんといます。
あなたの「頑張れる気がします」を、いつか聞かせてください。
いつもと違う、個人的な話を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
次回からは、また「失敗事例シリーズ」に戻ります。次はエステ・サロン編をお届けする予定です。
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建築士・電気工事士・管工事施工管理技士等、有資格者が多数在籍する建築会社を15年経営。飲食店・クリニック・美容室・士業事務所など施工実績多数。現場目線の店舗・施設内装情報を発信中。
