天の道~真実の行方15話
2章―④
‟秘密の仲間”と瞳の相違点が、決定的に出来上がり、それまで‟当事者”から聞かされた話の上に、乗っかっていただけに過ぎず前に出る事を躊躇っていた瞳は、立場を飛び越えてしまった。
「このままじゃ、自分自身を追い込んでしまう」
「もう、此処に居るのは限界だ!」
その夜、親友の順子に、そんな思いをぶつけた。
「瞳は、潔癖症だからなぁ」
何かにつけ瞳の一大事に、いつも正面から向き合ってくれる順子。
だが、単に昼間の心の叫びを伝える為だけじゃなかった。
呼べば応えてくれる友だと知りながら、どうしても聞き出せずにいたものを確かめるべく、話の流れの中に重ね合わせていた。
‟当事者”としての気遣いを、最も順子に寄せていた瞳。そんな順子に、淡々と自分の胸の内を打ち明け、それが何を意味するものなのか、どんな犠牲を払うものか、順子自身に委ねた。
「声に出したい」と一方的に自分の気持ちだけぶつける間接的な表現は順子にどう受け取ってもらえるだろう?
私はずるい、、伝わらなければ伝わらないで良いと思ってるくせに、そのくせ、分かってよ!という願いを込めている。
あくまで順子の解釈に任せるという確信部分に触れない言い回しは、あえて曖昧にすることで、自分の望む結果が得られた時、結果は更に大きいと
期待が持てるから……
瞳の思惑は、ストレートに聞いて、これしか答えようのないような
ありきたりの返事を受け取りたくないところにあった。
私の歩き出そうとしている事は、順子を困らせる事になる。
そんな状況に繋がる事を順子自身に察知させ、その判断を確かめたかった。
「瞳は潔癖症だからなぁ」
普段、瞳に対し、順子がよく口にする言葉だ。
「だから、何?」
私が潔癖症だから何?これはそんな単純な問題じゃないでしょう?
人それぞれ、多少なりとも価値観は違えど、これは全ての人が共通して持っていなければならない、最低限度の認識だわ
悪いけど、今回それは当てはまらない
いつもは気に留めない『潔癖」の言葉に妙に拘った。
「でも、瞳の気持ち分かるよ」
「あの時、私も暫くの間、つくづく嫌になったもの、、この仕事が、、裏の世界って言うか、あれほどの事見せられたら、誰だってそうだよ」
そうね、、順子、普通の心理だったら、そこまでは当然だと思う
問題はそこから先……その心理をどう捉えるかで人は違ってくる。
そして、、、進む事で更に分かれていくわ
そんな瞳の気持ちを汲むように、順子はちゃんと応えてくれた。
曖昧な『声に出したい』の意味が順子には、しっかり伝わっていた。
「瞳の為に、、そうなった時は、どこへでも行って証言してあげるから」
結論として順子は瞳にこう告げた。
竹内玲奈に触発され、苦し紛れに、どこへ向けてという矛先もないまま暴走しようとしていた瞳を落ち着かせてくれたのは、瞳に対する順子の誠実な心だった。
「どうするつもりなの?」
逆に問われて、答えようがなかった瞳。
何をどうする……具体的な答えなど、まだ決めていないし分からなかった。
ただ言えたのは、あそこに、居る事自体が人を騙し続ける罪を重ねる、と悟った自分の心に、今、正直にある事。
私にフラッシュバックを与える『あの子達』の幻影は、決して怖いものじゃない。怖いのは……その後、悪夢として見せられる此処での現実の在り方だ
貴方はやっぱり、命の尊さを、ちゃんと考えてくれる人だった。
その気持ちだけなのよ、私が知りたかったのは、、
期待以上を返してくれた順子に、、それだからこそ道連れに出来ない
そんな天邪鬼さが生じる瞳だった。
順子に迷惑は掛けられない……順子を巻き込む訳にいかない
大丈夫、道はある、これがあれば、私はこの先、自ずと道が開かれるまで辛抱出来る。
鬼と化した小早川や師長に、真実を問いただしても、とても太刀打ち出来る相手と思えない。小川由美の二の舞を味わうのは目に見えている。
真実への扉が、自然と開く時を待とう。
大丈夫、『あの子達』はきっと、待っていてくれる。
親友の順子と離れ、慣れ親しんだ生活を変える、、築き上げたものを捨てるという事は、何と覚悟のいる事だろう。
自分の信じた道しか歩けない、、これが私の宿業ならば、いつの日か
真実を声に出す為に、勇気を出して一歩を踏み出そう
こんな経緯を残し、瞳は3階病棟を去った。
