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天の道~真実の行方19話

     2章ー⑧                            

「瞳の為に、何処へでも行って証言してあげるから」
いざとなったら、順子の言ってくれた、この言葉が助けてくれる…
巻き込みたくない一心で、5年前に受け取らなかった順子の真心を
今こそ使わせてもらっていいかな?心の中でそっと呟いた。

順子は今でもそう言ってくれるだろうか、、順子の誠意が、今は褪せたものだとしても、それを咎めようという気は更々なかったが、一方で少し不安を感じる自分もいる。親友ではあるが、順子といると、どうしても3階病棟を思い出してしまう。暫く距離を置く為に会わない時間を作ったが、気が付けばズルズルと、、今日まで来てしまっていた。

順子には事後報告になってしまうけど、今はこっちを優先してしまおう。
今度こそは、自分の気持ちが変わらぬうちに一歩を踏み出す為の、事を遂行してから、それから後の事を考えようと思った。二度と同じ過ちを犯してほしくないとの心情を添えた手紙を書き終え、余計なものは見ない、聞かないと、自分に言い聞かせ間を入れず投函した。

3階病棟の内情をしたためた手紙が拠点となる上層部へ向け差し出された。
起こしたアクションに対し、近いうちに何かしらの反応が返ってくるだろう。後はそれに応じて対処して行けば良いだけの事。
しかし、小さな田舎町でリークという大それたことをやってしまった私は
この先、何処へ行っても、要注意人物として扱われるのだろうな?
口の軽い人として、世間から相手にもされなくなってしまうだろうな?

ひとえに一番辛いのは、世話になった職場への恩を仇で返すと捉えられてしまう事。自分がどれ程、あの職場を好きだったか、分かっては貰えないだろう。まだ救急体制も整っていなかった田舎町に優秀な医師達を集め、地域医療の先駆けとなる基礎から作り上げて、今に成り立った立派な病院だ。

病を抱え、助けられた人は大勢いる。地域の人達はどれ程助けられた事か。
オープン当初から携わった瞳も、それまでの微温湯に浸ったような程度の低い経験からスキルアップを重ね、きびきびと、熟せるようになる迄に、多くの事を学ばせて貰った。渓流会病院で働いている事に誇りさへ持てた。
ナースとしての一生を此処に捧げるつもりだった。

リークするという事は、こういう善の部分をも薄い影にしてしまうのだ。
だから自分も代償を払う意味で瞳には、引き換えに、ナースとしての仕事は
辞めるつもりで、これに臨むんだという覚悟があった。
自分を少しでも正当化させたいが為の、覚悟だ、、

「相変わらず、瞳の潔癖症は治らないなぁ」
順子に又、そう言われてしまうな、仕方ないよ私の性分だから……
だから、、ごめんなさい。私を許して下さいと、詫びながら
相手からの出方をただ待つだけの、長く感じる時間を過ごした。

内部告発を、あえて、、内部に向け通報した形だが、事件を起こした管理元であり、この事実を一番に知らなければならない立場だと判断したからだ。
『罪を憎んで人を憎まず』ピュアな心が悟ったものは、二度と同じ過ちを犯してほしくないとする願いから、゛あの子達”を想う心を通わせてほしかった

長い…本当に長いと感じる幾日か経った頃…この件を任されたであろう久木田栄一と名乗る人物から、連絡が入り瞳は待ち合わせ場所へと向かった。
秘密を語り合うのに似合いの、静かな人気のない場所を想定していたが
指定された場所は、繁華街に近い客の出入りの多い喫茶店だった。
自分には一大事と思える行動なのに慎重さへの配慮に欠ける、と少々合点がいかない所ではあり、まだ見ぬ久木田に無神経な代理人を勝手に想像した。

店に入り、予め聞いていた目印となる黒い表紙のファイル入れをテーブルに置いてある男性を見つけ近づいて、お互いを確かめ合った。
「良かった……怖そうな人をイメージしてたけど、穏やかそうな感じの人だわ」
初対面の挨拶をする久木田栄一の声の柔らかさに、瞳の緊張が幾らか解けた

「この度は、大変、貴重なご意見を頂き有難うございました」
「……いいえ、私の方こそ、不躾で驚かれるだろうと思いながらも……差し上げた(手紙)次第です」

頼んだコーヒーが出てくるまでの間、テンポの悪い会話を少し交わした後
「早速ですが、頂いた内容を元にこちら側で調査した結果、医療過誤が認められました」
久木田が切り出して来た。
「………医療過誤?」
※医療過誤とは医療事故の中に包含される概念であり、医療機関側の人的ミスによって、患者の病態を増悪させてしまう事【厚生労働省・医療過誤説明文より要約】

「当事者、全てに直接聞かれたのですか?」
「はい」
「……その結果が、医療過誤なのですね?」
「はい」

瞳が最も使いたくなくて避けていた言葉……殺人。
此処でも、その言葉は使われず代わりに医療過誤と言う言葉が飛び出した。
直接、死へと結びつけた師長の取ったあの行為は、医療過誤にあたるのか?
助からないと判断した結果、死期を早める為の手助けの行為だったと
そう捉えれば、医療過誤にあたるのか??

医師不在時の明らかに不利な状況下で、事前に救急搬送の手配を取らなかった事は、何となく、当てはまる気がする…その事を指しているの?
医療の現場以外の事、良く分からない私に医療過誤とか持ち出されても、困ってしまう、と動揺し始める瞳に久木田が続ける。

「今後は必要な関係機関も交えて、解決に向けての話し合いが為されて行くと思います。」
必要な関係機関…きっと大きな組織も入り込んでくるんだろうな…
改めて自分の起こした行動に、身震いしそうになった。

「私は……二度と犠牲者が出ないことを一番に願って、それで、こんな事したんです。どうか、そこの所、ご理解下さい」
【罪を憎んで人を憎まず】の精神を持つなら、此処から先は、私の出る幕じゃない、上層部の判断に全てを委ねよう。
とにかく、まず自分がやるべきことはやった。

「今後の病院を良くする上で、必要な情報でした、有難うございました」
頭を下げながら最後に言った久木田の言葉が、瞳に達成感を齎せた。
 「何だ、あっけなく終わっちゃったじゃない、やって良かったんだ、案じるより産むがやすし、ね」

これで、゛あの子達”への約束が果たせたとの想いは帰路につく瞳の、嬉し涙となって頬を伝わった。折しも雨、、最高のシチュエーションだ
「頬を伝わるのは涙なんかじゃない、雨のせいなの、そう思ってね」
急な雨に、傘を持たない瞳の頬が濡れていても、誰も不思議がらない、、
人目を気にせず泣いていられる。

「そうだ、事後報告となってしまった事を、順子に謝らなきゃ、さっきの久木田さんの事も伝えなきゃね」
一気に色んなものが解決したような、こんな日が来て、順子に笑顔で会えるのが嬉しい!泣いているのに、口元には笑みが零れ出ていた。



















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