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桜考

桜は出会うもの


桜は、見に行くものではなく、出会うものだと言われます。

そうした知恵を知らなかった私は、ずいぶんと
「見に行く」経験を重ねてきました。
桜の名勝と言われる場所への訪問です。


見に行った桜


北海道森町
ソメイヨシノの北限。
道民にとっては海水浴のようなものかもしれません。
みんなでジンギスカンを囲む光景が印象的でした。

松前城
ソメイヨシノだけでなく、八重桜など多くの種類が咲きます。
函館から車で2時間、その価値は十分にありました。

弘前城
どこを見ても桜、桜、桜。
花筏(桜いかだ)も含めて、おそらく日本一の名勝だと思います。

角館
黒い壁としだれ桜の取り合わせ。
そして、桧木内川沿いの桜並木の圧巻の広がり。
町と風景が一体になっていました。

富士山本宮浅間神社
祀られている神様そのものが桜と深く結びついている。
桜に、どこか気高さのようなものを感じました。

河津
河津桜発祥の地。季節になれば、当然のように人、人、人。
宣伝効果もあってか、一昔前よりずいぶん人気のスポットになりました。
だからこそ、自転車を借りて走り回るに限ります。
川沿いではなく、人の波から離れたところに、
濃いピンクをまとい、凛と立つ一本桜に出会えます。

高遠城址公園
山城の跡地に咲くコヒガンザクラ。
地形に沿って広がるその花姿に、ソメイヨシノとは異なる魅力を感じました。

高田城址公園
まだ長野新幹線と呼ばれていたころ、どこか遠い場所に感じていました。
しかし、桜と水路の組み合わせが、夜になると幻想的な風景へと変わる。
その変化を実際に見られたことは、幸いでした。

醍醐寺
「醍醐の花見」といえば、いつかは見てみたいと思っていた場所です。

哲学の道
当時付き合っていた人と、その友人たちと大阪から訪れました。
うきうきした気持ちが、いまでもそのまま残っています。

南禅寺界隈の別荘群
琵琶湖疎水によって開かれた、いまの言葉でいえば高級別荘地と呼ぶのが近いのでしょうか。
あちこちに点在する桜の見事さ。
六麓荘や松濤のように高い塀で閉ざされていないことに、つくづく救われます。

原谷苑
京都出張の折、時間が余り、タクシーの運転手に桜の名所を尋ねて、そのまま連れて行ってもらいました。
桜が降るように咲いていた。
これは桜の木を守っている人がいるのだろうと、自然に感じました。

造幣局
大阪出張の際に訪問。
花よりも人のほうが多いのではと思うほど、本当に驚きました。

桜ノ宮
仲間内で帝国ホテルのスイートを取り、シャンパンを飲みながら眼下の桜を眺めました。
贅沢な花見でした。

吉野山
ソメイヨシノではない山桜。
それでも、これほど桜が映える場所はないのではないかと思いました。
「さ(神)がくら(座)する木」が桜という意味を、強く実感した場所です。
ただ、広い。
ここでもタクシーを借り切って、駆け足で巡りました。

今帰仁城
一気に沖縄へ。
濃い空に映える、濃い色の桜。
東京ではまだ冬の最中。
バッグには夏物と冬物が混ざり、最も荷物が多くなる旅程でした。


思いがけず出会った桜


思いがけず出会った桜もいっぱいありました。
その中で印象深い2例です。

弘前城の秋の桜
弘前はリンゴだけでなく、洋食や珈琲でも知られています。
そのため秋に訪れました。
城内を歩くと、桜の香りがする。
紅葉から立ち上る香りです。
花がなくとも存在を示す。
やはり日本一の名勝だと感じました。

石垣島の咲かない桜
ソメイヨシノが植えられていました。
しかし調べると、花は咲かない。
それでも、桜の木はそこに立っていました。


東京で出会った桜


むしろ東京でこそ、出会いが日常の中にありました。

目黒川
大学合格を機に、東横線からよく眺めていました。
当時は、今ほどの人出はありません。
新しい生活への不安と希望、その記憶とともにあります。

千鳥ヶ淵
食品会社にとっての定番の花見。
宴会は神社で、こちらは純粋に花を見る場所。
夜桜の美しさを実感しました。

アークヒルズのさくら坂
満開でも人は少なく、静かな桜のトンネル。
ANA東京の上層階のバーで、その名を冠したカクテルを飲んだ記憶があります。

国立の大学通り
昼もよく、夜もまたよい。
生活圏の中で、最も豪華で、最も心が動く桜です。


桜は出会うもの


こうして振り返ると、
探しに行った桜よりも、
気づけばそこにあった桜のほうが、深く心に残っている。

咲いていない桜でさえ、
その存在だけで記憶に刻まれている。

見に行った桜も、
気づけばそこにあった桜も、
どちらも私にとっては同じ桜でした。

桜は、見に行くものではなく、
出会うもの。

そしてその出会いは、
遠くにあるとは限らず、
日々の生活の中に、静かに置かれているのだと思います。


そして、近所の桜


特別な場所ではなく、
ごく身近な場所にも桜はあります。

気づけば、そこにある桜。
見に行くというより、共にある桜です。



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