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“業界の為に”と言い出す元夜職 ── 本音は自分の為である

世の中には、辞めた途端に急に喋りが綺麗になる職業がある。
夜職もその一つらしい。

昨日まで欲望と金と情緒不安定の泥沼でバタついていたはずの人間が、気づけば“経験を価値に変える”とか“女性の生き方をアップデートする”とか言い始める。

すごい!!
人は引退すると、第二の人生ではなく、たまに急に賢いフリをするらしい。
── その賢そうな顔、本当に中身まで賢いのか?

序章|夜を上がると、なぜ急に賢いフリをしたがるのか

夜の仕事には、卒業がある。
それは、当たり前の事だ。
年齢もあるし、体力もあるし、人生もある。
いつまでも同じ土俵で勝負し続けられる人ばかりではない。
辞める事自体は、何もおかしくない。

おかしいのは、その後である。
なぜか、夜を上がった瞬間、急に“業界の導師”みたいな顔になる人がいる。

昨日まで現場でお客様と店と空気に揉まれていた人間が、半年後には「夜職の価値向上」みたいな事を喋っている。
一年前まで予約と指名とメンタルに振り回されていた人間が、今では「女性の生き方をアップデートする」みたいな顔でマイクを握っている。

進化の仕方が雑すぎる。
コイキングがギャラドスを飛び越えて、いきなり有識者会議に座ってるくらい不自然である。


第一章|承認欲求に、急にリボンを巻いて“社会貢献”として出荷するな

人間には承認欲求がある。
目立ちたい。
褒められたい。
「この人、なんか深い」と思われたい。
過去の自分に意味があった事にしたい。
できれば、ただの元風俗嬢ではなく、“夜を知り尽くした特別な女”として扱われたい。

よく分かる。
こちらだって出来る事なら、SNSで好き勝手な事を言ってるだけで「この人、只者じゃない……」と思われたい。
誰だってそうだ。
人間とは、だいたい薄味のナルシシズムで出来ている。

だから承認欲求がある事自体は、別に普通だ。
問題はそこではない。
問題は、その承認欲求に急に白シャツを着せて、社会派みたいな顔で出してくる事である。

「業界を変えたい」
「夜職女性の価値を上げたい」
「偏見をなくしたい」
「経験を未来に繋げたい」

知らんがな。
その前にまず、“私を見て見て見てーっ!”という内なる全裸ジャンプを認めた方がいい。
そこを飛ばすな。
本音は ──

「ただの元嬢で終わりたくない」
「賢く見られたい」
「昔の自分をブランド化したい」

という、かなり人間臭い話かもしれないのに、それを急に“業界愛”とか“使命”に変換して出してくる。

欲望の再包装が雑すぎるのである。
中身は自己愛なのに、包装紙だけ善人ヅラしている。
中身スカスカの自己愛に、急に社会性の金箔を貼るな!


第二章|引退すると、なぜか“夜職コンサルタントうんちく博士”みたいになる

これも本当に不思議なのだが、夜を辞めた一部の人間は、なぜか静かにフェードアウトしない。

喋り始める。
しかもただ喋るんじゃない。
まとめ始める。

「売れる子の共通点」
「愛される接客術」
「強い女の作り方」
「病まない夜職マインド」
「選ばれる女性の思考習慣」

うるせえ。
夜の仕事を急に朝活インスタみたいにするな。
さっきまで欲望と見栄と寂しさと金が、ローションまみれのヌルヌルした床の上で取っ組み合いしてた世界だぞ。

現場というのは本来、もっと雑で、もっと泥臭くて、もっと屁みたいなタイミングのズレで全部狂う世界である。

客の機嫌ひとつ。
出勤の空気ひとつ。
スタッフのミスひとつ。
その日の自分の体調ひとつ。
そんなもので全部変わる。

それを、引退した途端に「経験を価値に変える方法」みたいな、ぬるいスープにするな。
こっちは濃厚豚骨背脂マシマシを吸わされてたのに、気づいたら常温の意識高い水を飲まされている気分になる。
栄養がない。
そのくせ、ラベルだけは洒落ている。
最悪である。


第三章|“元”という肩書きを付けた途端、急に言葉に羽根が生える現象

「元風俗嬢」
別にただの経歴である。
辞めた ── それだけだ。
なのに、その“元”が付いた途端、急に浮き始める人達がいる。

元売れっ子。
元人気嬢。
元講師。
元プロデューサー。
現ブランディング監修。
現女性の生き方発信者。
現ナイトワークアドバイザー。
現、自分というコンテンツ。

もうこの辺まで来ると、肩書きではない。
名刺に欲望をゼラチンで固めて塗りたくっているだけである。
しかもだいたい、喋っている内容は似ている。

「自分らしさ」
「価値」
「選ばれる力」
「自己肯定感」
「強い女」
「マインド」
「在り方」

何だこの、怪しい自己啓発セミナーが、こぞって発信してそうな単語の寄せ集めは。

単語が全部ふわふわしている。
綿菓子か。
口に入れた瞬間なくなるのに、見た目だけはやたらでかい。

夜の世界を通ったから言葉が深くなったのではない。
ただ薄い言葉を、それっぽい声で読むのが上手くなっただけではないか。
そう思う瞬間が、かなりある。


第四章|“業界の価値を上げたい”の前に、自分の値札を貼り替えてるだけ

この手の人達がよく使う言葉に、「業界の価値を上げたい」というものがある。

便利である。
響きがいい。
善人っぽい。
優しそう。
知的にも見える。
何より、反論されにくい。
すばらしい。
言葉界のファブリーズである。
とりあえず撒けば、ちょっと空気がまともになった気がする。

だが、怪しい。
本当に業界の価値を上げたいなら、やる事はもっと地味で、もっと泥臭いはずだ。

新人が潰れない仕組みを作る。
教育を整える。
現場の雑さを減らす。
安全と衛生を守る。
離職率を下げる。
お客様にもスタッフにも余計な地雷を踏ませない。

こういう話は全然映えない。
フォロワーも増えない。
キラキラの宣材写真にもならない。
イベントの登壇タイトルにも弱い。
BGMにピアノも乗らない。

だからなのか、「業界の価値を上げたい」と言ってる人ほど、先に上がるのはだいたい本人の露出である。

コラボ配信。
登壇。
講演。
オンラインサロン。
自己プロデュース。
“元夜職の私が伝えたい事”。

違う。
それは業界の価値ではない。
本人の中古ブランドバッグとしての査定額である。

夜を背負っている様に見せながら、実際にやってるのは、夜という素材を使った自分の再販だったりする。
そこが透けて見えるから、一気に白ける。


第五章|夜職インフルエンサー、“苦労をオシャレに陳列する発表会”を始めがち

最近の元夜職インフルエンサーを見ていると、みんな妙に喋りが綺麗だ。

「経験を価値に変える」
「偏見を越える」
「自分の人生を取り戻す」
「夜で学んだ事を次に活かす」
「女性としての在り方をアップデートする」

何なんだこれは。
夜の仕事を辞めたら、全員“ポエム付き成功体験説明会”か“エロ版自己啓発セミナー”に出る決まりでもあるのか。

照明が当たる。
BGMが流れる。
白い服を着る。
ちょっと遠くを見る。
「私は夜の世界で、多くの事を学びました」
とか言い始める。

いや、こっちが見てきた夜の世界は、そんなに綺麗な学び舎ではない。
もっとこう、欲望の下水処理場であり、寂しさの仮設トイレであり、見栄と性欲がぬかるみでチューチューし合う湿地帯である。

そこには確かに知恵もある。
技術もある。
人間を見る力もある。
きちんとした構造のビジネスマインドもある。
でも、それはもっと不格好で、もっと生臭い。
そんなに歯をむき出して「この経験が今の私を作ってくれました」みたいに言えるほど爽やかなものではない。

学びはあったかもしれない。
だが、その語り、だいぶインスタ映え用に漂白してるだろう。
「驚きの白さ!」じゃないのよ。
夜をハイターに漬けるな。


第六章|講師になると、なぜか急に“答えを知ってる顔”になる

これも面白い。
元風俗嬢が講師になる。
まあ、それは別にいい。
経験を伝えるのもいい。
新人に教えるのもいい。
接客の話をするのもいい。

だがその瞬間に、急に“正解を握ってる人”みたいな顔になるのは何なのか。
夜の仕事にそんな綺麗な正解があるなら、この業界はとっくに幸福になっている。
実際には ──

客による。
店による。
地域による。
ジャンルによる。
タイミングによる。
運による。
最後はだいたい人間がバカだからで終わる。
なのに講師になると、みんな急に

「選ばれる女性とは」
「稼げるマインドとは」
「愛される接客とは」
「売れ続ける人の共通点」

── と語り始める。
知らん。
そのへん全部、客のちんこ一本の機嫌で吹き飛ぶ事もある世界だろうが。

夜の世界を、自己啓発とビジネス書とポエムの合いの子にするな。
いやらしいし、薄いし、妙に前向きで、読んでると脳みそが痒くなる。


第七章|結局いちばん痛いのは、“見栄”を“業界愛”と呼び換えてる事

夜職インフルエンサー化した人達の何が嫌かというと、承認欲求がある事ではない。
そんなものは全員ある。
こちらだって、可能なら「夜の現場責任者界のコムドット」と呼ばれたい。
── いや、やっぱ呼ばれたくないわ。

問題は、見栄を使命のフリで出してくる事である。
ここが一番キツい。

「私は目立ちたい」
「私はすごいと言われたい」
「私は昔の自分を意味あるものにしたい」
「私は特別な存在として扱われたい」

これならまだ可愛い。
人間味がある。
居酒屋で言われたら、「分かる分かる、みんなそうだよな」で終われる。

でも、それを ──

「業界の為に」
「夜職女性の未来の為に」
「偏見をなくす為に」
「価値を上げる為に」

に変換し始めると、急に痛い。
なぜならそれは、自分のナルシシズムに公共料金の領収書を貼ってるだけだからである。

やっている事は、セルフラッピングだ。
しかもリボンだけ立派で、中身はいつもの自分。
幕の内弁当のフタを開けたら、全部こんにゃくゼリーだった時みたいな虚無がある。


終章|夜を語るなとは言わない。だが、夜を使って虚飾するな

別に、元風俗嬢が発信するなとは言わない。
引退後に何をしようが自由だ。
講師になるのも勝手。
インフルエンサーになるのも勝手。
何なら“夜職界の美のカリスマ”みたいな謎ポジションに就任しても別にいい。

ただ、せめて一つだけ自覚してほしい。
それ、本当に業界の為か。
それとも、業界という背景を使って自分の輪郭を金ピカに縁取ってるだけか。

ここを誤魔化した瞬間に、言葉は急に薄くなる。
夜を語っている様で、実際には自分の演出しかしていない。
業界の価値を上げると言いながら、実際には自分の単価を上げている。
偏見をなくすと言いながら、実際には“偏見を超越した特別な私”として見られたいだけ。

そういうの、だいたい見える。
見えるし、見えると寒い。
寒いものを見ると人は感動しない。
ただ静かに、「うわ、始まった」と思うだけである。

要するにこういう事だ。
夜を卒業したのは結構だが、そのまま“夜の賢者うんちく霊媒師”に転職するな。

── とはいえ、もちろん全部が全部そうだと言いたい訳ではない。
本当の意味で現役キャストの悩みに寄り添い、一見キラキラした世界の裏側で、地味で面倒で報われにくい部分をきちんと支えている元風俗嬢の講師や発信者がたくさんいる事も知っている。

そういう人達は、もっと静かで、もっと不格好で、もっと現場の重さを知っているから「業界の為に!」みたいな大仰な旗を振らない。
むしろ「こんな世界だったよ、気をつけてね」くらいの温度で話す事が多い。

だからこそ、こちらが鼻で笑っているのは“元風俗嬢”そのものではない。
夜を語っているようで、結局いちばん必死にプレゼンしているのが自分自身になっている人達の方なのである。

業界の為とか言う前に、まずその承認欲求のフル勃起に貞操帯をはめろ。
話はそれからだ。


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