妊娠中の薬との付き合い方〜安心して過ごすための正しい知識
こんにちは。薬剤師として、妊娠中の方からの薬の相談を日々受けています。
「頭痛がひどいけど、薬を飲んでも大丈夫でしょうか?」 「つわりがつらくて…何か対処法はありますか?」 「妊娠前から飲んでいた薬、続けていいのか不安です」
妊娠中は、お腹の赤ちゃんのことを考えると、薬を飲むことに慎重になりますよね。でも、我慢しすぎて母体の健康を損なうのも良くないんです。
今回は、妊娠中の方が安心して過ごせるよう、薬との付き合い方について詳しくお伝えします。
妊娠期間別の注意点を知っておこう
まず、妊娠期間によって薬の影響が異なることを知っておきましょう。
妊娠初期(0〜15週):最も注意が必要な時期
妊娠4〜7週(器官形成期)が特に重要
この時期は、赤ちゃんの心臓や脳、手足などの重要な器官が形成される大切な時期なんです。薬の影響を最も受けやすい時期といえます。
ただし、妊娠に気づくのは早くても4〜5週頃。「気づいたらすでに器官形成期だった」ということも多いんですよね。
妊娠超初期(0〜3週)の考え方
実は、妊娠0〜3週(妊娠に気づく前)に薬を服用していた場合、「all or none(全か無か)の法則」が当てはまると考えられています。
つまり、影響を受ければ着床しない、着床して妊娠が成立すれば影響はなかった、という考え方です。「妊娠に気づく前に薬を飲んでしまった」という場合、過度に心配する必要はありません。
ただし、心配な場合は必ず医師に相談してくださいね。
妊娠中期(16〜27週):比較的安定期
器官形成は終わり、赤ちゃんは成長していく時期です。初期に比べると薬の影響は受けにくくなりますが、油断は禁物。
この時期も、不要な薬は避け、必要な薬は医師の指示のもとで使用します。
妊娠後期(28週〜):出産に向けた準備期
赤ちゃんがさらに成長し、出産に向けて準備する時期です。
この時期に注意したいのは、NSAIDs(イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)と呼ばれる痛み止めです。これらの薬は、赤ちゃんの血管(動脈管)に影響を与える可能性があるため、妊娠後期には使用できません。
また、出産時期が近づくと、薬が赤ちゃんに直接影響を与える可能性も考慮する必要があります。
妊娠中に使える薬・使えない薬の基礎知識
比較的安全に使える薬
痛み止め・解熱剤
アセトアミノフェン(処方薬:カロナール、市販薬:タイレノールA、ラックルなど):妊娠中でも比較的安全に使用できる痛み止めです。頭痛、歯痛、発熱時に使用できます。
便秘薬
酸化マグネシウム(処方薬:マグミット、市販薬:3Aマグネシアなど):妊娠中の便秘によく使われます
ラクツロース(モニラック、ラグノスなど):安全性が高い便秘薬です
胃薬
制酸剤(マグネシウムやアルミニウム製剤):つわりや胸やけに使用できます
H2ブロッカー:ファモチジン(ガスターなど、市販薬:ガスター10)、ラニチジン など
スクラルファート(アルサルミンなど):胃粘膜保護薬
抗生物質
ペニシリン系(アモキシシリン:サワシリン、オーグメンチンなど)
セフェム系(セフカペン:フロモックス、セフジニル:セフゾンなど)
マクロライド系(アジスロマイシン:ジスロマック、エリスロマイシンなど) これらは妊娠中でも比較的安全に使用できる抗生物質です。
抗アレルギー薬
クロルフェニラミン(ポララミンなど、市販薬:パブロン鼻炎カプセルSαなど):第一世代抗ヒスタミン薬
ロラタジン(クラリチンなど、市販薬:クラリチンEXなど):第二世代抗ヒスタミン薬
セチリジン(ジルテックなど、市販薬:ストナリニZなど):第二世代抗ヒスタミン薬
咳止め
デキストロメトルファン(メジコンなど、市販薬:新コンタックせき止めダブル持続性など):比較的安全とされています
カルボシステイン(ムコダインなど):痰を出しやすくする薬
点眼薬
人工涙液(ソフトサンティアなど)
抗菌点眼薬(クラビット、タリビッドなど):局所使用のため全身への影響は少ない
外用薬
保湿剤(ヒルドイド、ワセリンなど、市販薬:ヒルメナイドなど)
抗真菌薬(ラミシールクリーム、ニゾラールクリームなど、市販薬:ブテナロックなど):局所使用
ステロイド外用薬(弱〜中程度の強さのもの):必要最小限で使用可能
鉄剤
フェロミア(クエン酸第一鉄)
インクレミン(溶性ピロリン酸第二鉄)
市販薬:ファイチ、マスチゲンなど ※妊娠中の鉄欠乏性貧血の治療に使用されます
妊娠中は避けるべき薬
痛み止め
NSAIDs:イブプロフェン(イブシリーズ、ブルフェンなど)、ロキソプロフェン(ロキソニン、ロキソニンSなど)、ジクロフェナク(ボルタレンなど)、アスピリン(バファリンA、バイアスピリンなど):特に妊娠後期は使用禁忌です
セレコキシブ(セレコックス):COX-2選択的阻害薬
抗てんかん薬
バルプロ酸(デパケン、セレニカなど):催奇形性のリスクが高い
フェニトイン(アレビアチンなど)
カルバマゼピン(テグレトールなど) ※ただし、てんかん発作のリスクとのバランスを考慮し、医師の判断で継続する場合もあります
降圧薬
ACE阻害薬:エナラプリル(レニベースなど)、リシノプリル(ロンゲスなど)など
ARB:バルサルタン(ディオバンなど)、テルミサルタン(ミカルディスなど)、オルメサルタン(オルメテックなど)など
アリスキレン(ラジレスなど):直接的レニン阻害薬
抗凝固薬
ワーファリン(ワルファリンカリウム):催奇形性あり ※ヘパリンやエノキサパリンなどは妊娠中でも使用可能な場合があります
精神科の薬(一部)
バルプロ酸(デパケン):気分安定薬としても使用されますが、催奇形性が高い
パロキセチン(パキシル):一部の抗うつ薬は注意が必要
ベンゾジアゼピン系(デパス、ソラナックスなど):長期使用は避けるべき
ニキビ治療薬
イソトレチノイン(イソトロイン、ロアキュタンなど):強い催奇形性
トレチノイン外用(レチノイドクリームなど):外用でも避けるべき
その他
テトラサイクリン系抗生物質(ミノマイシン、ビブラマイシンなど):胎児の骨・歯への影響
ニューキノロン系抗生物質(クラビット、シプロキサンなど):軟骨への影響が懸念
メトトレキサート(リウマトレックスなど):催奇形性
フィナステリド(プロペシアなど):男性型脱毛症治療薬、妊婦は触れることも避ける
ビタミンA誘導体(チョコラA大量など):過剰摂取で催奇形性
サプリメント・健康食品
セントジョーンズワート:他の薬との相互作用も問題
高用量ビタミンA(レチノール):催奇形性
ダイエットサプリ(成分不明なもの)
妊娠中のよくあるトラブルと対処法
つわり(妊娠悪阻)
非薬物療法を優先
少量ずつ、何度かに分けて食べる
食べられるものを食べられるときに
ビタミンB6を含む食品(バナナ、鶏肉など)を試してみる
生姜(ジンジャー)が効果的な場合も
つわりがひどい場合
医師に相談すれば、妊娠中でも使える吐き気止めの処方が可能です。我慢しすぎて脱水や栄養不足になる方が問題なので、辛いときは遠慮なく受診してください。
吐き気止めとして使用されることがある薬:
メトクロプラミド(プリンペランなど)
ドンペリドン(ナウゼリンなど)
ビタミンB6(ピドキサールなど)
漢方薬:小半夏加茯苓湯
重症の場合は、点滴治療が必要になることもあります。
便秘
妊娠中は、ホルモンの影響や子宮による腸の圧迫で便秘になりやすいんです。
まずは生活習慣から
水分をしっかり摂る
食物繊維を意識して摂る
適度な運動(医師の許可があれば)
薬を使う場合
酸化マグネシウム(マグミット、市販薬:3Aマグネシアなど):最も一般的に使われます
ラクツロース(モニラックなど):安全性が高い便秘薬です
カルメロースナトリウム(バルコーゼなど)
避けたい便秘薬
センナやダイオウなどの刺激性便秘薬:子宮収縮の可能性があるため、妊娠中は避けるのが一般的です
ビサコジル(コーラックなど):刺激性下剤
風邪症状
妊娠中も風邪はひきますよね。
基本は対症療法
十分な休息と水分補給
のど飴や蜂蜜(咳、のどの痛み)
鼻づまりには鼻洗浄
うがい薬の注意点
水うがい、塩水うがい:安全です
イソジンうがい薬(ポビドンヨード):注意が必要です
イソジンうがい薬に含まれるヨウ素は、粘膜から吸収されて体内に入ります。妊娠中に大量のヨウ素を摂取すると、赤ちゃんの甲状腺機能に影響を与える可能性が指摘されているんです。
水うがいや塩水うがいで十分効果がありますので、使用は控えてください。
薬を使う場合
解熱剤:アセトアミノフェン(カロナール、タイレノールAなど)
咳止め:デキストロメトルファン(メジコン、市販薬:新コンタックせき止めなど)は比較的安全とされています
鼻炎薬:クロルフェニラミン(ポララミン、市販薬:パブロン鼻炎カプセルなど)医師に相談の上、必要最小限で
去痰薬:カルボシステイン(ムコダインなど)
総合感冒薬よりも、症状に合わせた単剤を使う方が安全です。
市販の総合感冒薬には、イブプロフェンなどのNSAIDsが含まれているものもあるため、購入前に必ず薬剤師に「妊娠中です」と伝えて相談してください。
頭痛
妊娠中は頭痛に悩まされる方も多いんです。
非薬物療法
休息を取る
冷やしたり温めたりする
カフェインの摂取を控える
適度な水分補給
薬を使う場合
アセトアミノフェン(カロナール、タイレノールAなど)が第一選択です
ただし、頭痛がひどい場合や急に悪化した場合、視野がぼやける、むくみがひどいなどの症状がある場合は、妊娠高血圧症候群などの可能性もあるため、必ず受診してください。
花粉症・鼻炎
妊娠中も花粉症の季節はやってきますよね。
非薬物療法
マスク、メガネの着用
鼻洗浄(生理食塩水)
花粉の多い時期の外出を控える
薬を使う場合
点鼻薬:ステロイド点鼻薬(フルナーゼ、ナゾネックスなど)は局所作用のため比較的安全
点眼薬:抗アレルギー点眼薬(パタノール、リボスチンなど)
内服薬:クロルフェニラミン、ロラタジン、セチリジンなど(医師の判断で使用)
医療従事者向け:妊娠中の薬の調べ方
ここからは、薬剤師や医師など医療従事者の方に向けた情報です。ただ、一般の方でもご活用いただけます。
添付文書だけでは不十分
ここから先は
¥ 150
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
