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父とラジオ体操

小学生の頃、夏休みになると毎日ラジオ体操へ行っていた。

お母さんに、
「時間だよ!」と起こされる。

急いで顔を洗い、
赤い毛糸でつないだカードを首に下げ、
カブトムシの入っているカゴをのぞくと、
カブトムシは、ゼリーを食べていた。

サンダルを履いて外に出る。

セミの声を聞きながら、
高いひまわりが咲く田んぼ道を走って、
公民館へ向かった。

私の地域では、
子どもたちが公民館に集まり、
親が当番制でラジオを用意していた。

当番の親が、首からぶら下げたカードにハンコを押す。

あの頃はいつも誰かの親が近くにいて、
誰々のお父さん、誰々のお母さんと
すぐ分かった。

体操が終わると、
友達のお父さんやお母さんに
ハンコを押してもらうため、列に並ぶ。

カードを見せると、ギューッとハンコを押してくれた。

うちが当番の日。

お父さんは、ラジオを持って私の後ろをついてくる。

ラジオ体操が始まる。

お父さんは、ジャンプするところを足踏みしている。

右も左も、みんなと逆だった。

体操が終わり、お父さんがハンコを押す。

すると、最初の子のカードに、
いきなりハンコを反対に押した。
「あー、逆だー!」
男の子が大きな声で言う。

お父さんは、
「悪いねー。」
と照れ笑いをした。

「大丈夫です。」
男の子も笑っていた。

私は、自分のお父さんだと思われるのが、
少し恥ずかしかった。

最後に並んだ私は、お父さんのラジオを持って家に帰る。

「先行ってるよ〜!」

私は、お父さんより早く家に着いた。

家では、お母さんの卵焼きの匂いがした。

何十年か経って、今度は私が子どものラジオ体操について行くようになった。

子どもの後ろをついていく。

セミの鳴き声が聞こえる。

ラジオ体操が始まると、身体が自然に反応した。

ハンコをもらいにいく子どもを見て、
父の照れ笑いを思い出す。

今は、近所のお父さんやお母さんの顔も、よく分からない。

カブトムシも、お店で見かけるようになった。

ラジオ体操をする子どもたちの姿も、
あまり見なくなった。


けれど、時が過ぎても、あの夏、
父と行ったラジオ体操だけは変わらない。


父と歩いた田んぼ道。

太陽を目掛けて咲く元気なひまわり。

大きな木から聞こえる蝉の声。


夏の朝になると、

ラジオを持って歩いていた父の姿を、

今でもどこかに探している。




#創作大賞2026               #エッセイ部門


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