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お母さんのけんちん汁

小さい頃から、

お母さんのけんちん汁が、

大好きだった。

大根、
人参、
しいたけ、
ごぼう、
こんにゃく、
豆腐。

具がたくさん入った、

醤油味のけんちん汁。

私は、それが好きだった。

結婚してからも、

実家に行くと、

前の日に作ったという、

けんちん汁が出てきた。

お母さんは、

私が来るのを分かっていたかのように、

前の日に、

けんちん汁を作ってくれていた。

コロナにかかったとき、

私は部屋で、ひとりで過ごしていた。

熱と、喉の痛み。

食欲も、あまりなかった。

旦那が、

ゼリーやパン、

すぐ食べられるおにぎりを、

買ってきてくれたけど、

あまり食べたくなかった。

そんなとき、

お母さんから電話があった。

コロナにかかったことと、

あまり食欲がないことを、伝えた。

次の日。

熱は下がっていたけれど、

まだ体調はすぐれず、

ベッドでごろごろしていた。

また、

お母さんから電話があった。

「今、来たから」

え?

一瞬、意味が分からなかった。



お母さんは、

慣れない運転で、

私が食べられそうなものを、

わざわざ届けに来てくれた。

実家からは距離があるので、

お母さんが家に来ることは、

ほとんどなかった。

「玄関に、置いておくからね。
そのまま、食べられるから。
お母さんは、帰るから」

袋の中には、

アルミホイルに包まれた、焼いた鮭。

タッパーに入った、ポテトサラダ。

そして、

上を切り取ったダンボールに、

鍋ごと入っていたのは、けんちん汁だった。

フタをあけると、

豆腐がたくさん入った、

私の好きな、けんちん汁だった。

少しあたたかいけんちん汁を食べながら、

涙が出た。

結婚してからも、

お母さんのまねをして、

けんちん汁を作るけど、

お母さんの味とは、少し違う気がする。

お母さんの味は、

お母さんにしか、作れない。





#創作大賞2026                #  エッセイ部門

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