短編小説『透明トイレチャレンジ』

透明トイレチャレンジ
透明な壁に囲まれたトイレが、公園の真ん中に設置された。
もちろん外からは丸見え。
最初は誰も近寄らなかった。
だが一人、腹を押さえた主人公が震える足取りで扉を開ける。
昨日、友人に「腰抜け」と笑われたことが頭をよぎった。
「……やるしかない」
――その瞬間、外の人々がざわめいた。
「挑戦者だ!」
「カメラ回せ!」
「#透明トイレチャレンジ きたー!」
中に座った主人公は、全身から汗が噴き出す。
ズボンを下ろすだけで、子どもがアイスを舐めながら覗き込み、叫んだ。
「ママー!このお兄ちゃん、ちんちん出してるー!」
「しっ、見ちゃだめ!」
「パパより大きいー!」
「……な、何言ってるの!」
母親は顔を真っ赤にして子を抱き寄せる。
その場にいた大人たちは腹を抱えて笑い、スマホのレンズが一斉にこちらを向いた。
そのすぐ横で、カップルがにこにこと親指を立てた。
「がんばれ!」
まるでスポーツ観戦を楽しむ観客のように、瞳を輝かせながら。
羞恥心と尿意のせめぎ合い。
ついに、音が――響いた。
ポツリと落ちた一滴が、水面を叩き、群衆の呼吸やスマホのシャッター音さえ飲み込んでいく。
公園全体が一瞬、固唾を飲んで静まり返る。
……シーン。
次の瞬間、歓声が爆発した。
「すげえ!やりきったぞ!」
「勇者誕生だ!」
「次は大のほうだ!」
主人公は悟った。
これはトイレじゃない。
人間の尊厳を賭けた公開処刑アトラクションなのだ、と。
だが、身体が震えているのは恐怖か、快感か。
もう自分でもわからなかった。
不思議な「解放感」だけが確かに残っていた。
翌日、公園には長蛇の列ができていた。
その先頭に並ぶのは――昨日の友人だった。
足は前に出ているのに、手は小刻みに震えている。
彼の顔は、誇らしさと怯えがないまぜになっていた。
主人公は思わず笑った。
勇気も羞恥も、結局は光るバトンのように、人から人へ渡されていくのだと気づきながら。
その笑い声さえ、どこか透明で――。
あとがき
シロクマ文芸部のお題「透明な」に参加させていただきました。
「透明な」と聞いたとき、真っ先に頭をよぎったのは、村上龍の『限りなく透明に近いブルー』。
おお、文学的でカッコいい…!と思ったのも束の間、
「いや、お前それでええんか?」と、どこからか声がしました。
そこで方向転換。
透明=透明トイレ。
これしかないと、ギャグに全振りしました。
最初は「爽やかで幻想的な物語」にしようとしてたのに、
気づけば汗だくの主人公が透明トイレに座らされている始末。
書き上げたあとに我に返って思ったのが、
「……これ、マジックミラー号やん」でした。
あと、子どものセリフ。
めちゃくちゃ悩みました。
「いや、ここまで言わせていいのか?」「下ネタに振りすぎか?」と。
でも正直、あの場面に子どもがいたら、絶対言う。
リアリティと笑いのために、あえて踏み込みました。
羞恥と承認欲求の間で揺れる姿って、
SNS社会そのものでもあるなあと、ちょっと真面目なことも考えつつ。
でもまあ、最初から最後までギャグです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
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※本作はフィクションです。
登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。
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