ショートショート『賞味期限切れのあなた』
「クソッ! ここもダメか!」
俺はバリケードを蹴り飛ばし、崩れかけたコンビニから飛び出した。
ゾンビが溢れる世界。
俺は彼女の手を握って、ただ逃げていた。
息が切れ、夜風が腐臭を運ぶ。
その時――背後で悲鳴。
振り返ると、彼女の肩にゾンビの歯が食い込んでいた。
「……ごめん、先に行って」
涙で濁った瞳が、それでも俺を気づかうように笑っていた。
「行けるかよ。俺も、そっちに行く」
俺はゾンビの群れに飛び込んだ。
唸り声。血の匂い。歯の音。
噛まれる覚悟で目を閉じた――が、何も起こらない。
おそるおそる目を開けると、ゾンビたちは俺を見て、ぷいっとそっぽを向いた。
「……あれ?」
もう一度腕を差し出してみる。
反応なし。
ゾンビたちは、まるで腐った惣菜パンでも見るような顔で通り過ぎていく。
――どうやら、ゾンビたちにとって俺の賞味期限は切れているらしい。
それから、俺はゾンビになった彼女と暮らしている。
彼女は「あ……う……」としか言えないけれど、
夜になると、ちゃんと俺の隣で眠ってくれる。
冷たい手で俺の頬を触ろうとして、途中で止まる。
その仕草が、まるで“記憶の中の愛”を守っているみたいで、胸が痛くなる。
腐りゆく街で、腐らないものを探している。
たぶんそれが、俺たちの愛の保存方法なんだろう。
🧟♀️あとがき
アマノ文筆クラブのお題「賞味期限切れのあなた」に参加させていただきました。
最初にこのタイトルを見たときに浮かんだのは、
恋愛の賞味期限とか、才能の賞味期限とか……まぁありがちな方向。
「賞味期限切れのおじさん」みたいなネタも考えたんですが、
お題タイトルが“賞味期限切れのあなた”固定という縛りがあるんですよね。
そこで思ったんです。
他の人と差別化するには、もうアイキャッチで勝負するしかない!
ということで、方向転換してゾンビものにしました。
ゾンビから見て、主人公が「もう食べごろじゃない」――
つまり、ゾンビ視点での賞味期限切れ。
ちょっとバカっぽい発想なんですが、
書いてみると意外と切なくて、
「腐った世界の中で腐らない愛」みたいなテーマに落ち着きました。
ゾンビと人間の間にも、保存できる“気持ち”があると信じたいですね。
🧟♂️ 宣伝パート 🧟♀️
ゾンビたちが見向きもしなくても、あなたのスキ・フォロー・コメントは、まだまだ“賞味期限内”です。
応援という名の保存食、ぜひ残さずどうぞ。
連載中の『配達員ろること2号』では、フードデリバリーの現場で起こる小さな事件や人間模様を、
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