無茶ぶりはやめて #アマノ文筆クラブ
約1200字・会話劇
深夜2時。電話を切った後に、莉沙は拓海に再び電話をかける。
拓海:(眠そうに)もしもーし。
莉沙:あ、わたし。
拓海:なに? なにか言い忘れたことでもあった?
莉沙:いや、そういうわけじゃないんだけど、さっきの、気持ち悪い『おやすみ』だったから、さ。
拓海:……は?
莉沙:なんて言うのかなぁ……マが悪いって言うの? なんかさっきのじゃ、気持ちよく眠れないじゃない?
拓海:なに言ってんの?
莉沙:だから、もう一回、言い直そうと思って。
拓海:うん、わかった。じゃあ、おやすみ。
莉沙:だめっ。
拓海:なんなんだよ?
莉沙:気持ちがこもってない。
拓海:あのさ、今、何時だと思ってんの?
莉沙:だって……。
拓海:深夜2時。俺、明日は朝早いって言ったろ。
莉沙:何度も聞いた。
拓海:そして聞き流したのか。
莉沙:うん♪
拓海:もう切っていいか。
莉沙:ちょ、ちょっと! ごめんなさい。
拓海:うん。
莉沙:私ってウザい?
拓海:ちょっとね。
莉沙:重い?
拓海:若干。
莉沙:迷惑かな?
拓海:……そうじゃないって答える奴は少ないと思うぞ。
莉沙:わたしの声、聞きたくないの?
拓海:たっぷり聞いたよ。
莉沙:足りないでしょ? もっと聞きたいでしょ?
拓海:……これって、俺を寝坊させるためのいやがらせか?
莉沙:あのさぁ。誰かに『おやすみ』って言えるのは、とっても幸せなことなんだよ。
拓海:……まぁな。
莉沙:一日が終わる前の最後に聞く声が、わたしの声であってほしいでしょ?
拓海:もうとっくに次の日が始まってるよ。
莉沙:そうじゃなくって。
拓海:わかったよ。じゃあ、どう言えばいいんだ?
莉沙:わたしがぐっすり眠れるような声で。今日はとってもいい一日だったなって思えるような……明日もまたいい一日が待ってるなって思えるような……そんな風に『おやすみ』って言って。
拓海:……無茶ぶりはやめて。
莉沙:あなた声優志望でしょ?
拓海:じゃあ、どんな声で?
莉沙:えーっと。じゃあ、イケボの甘~い声で。
拓海:(甘く)おやすみ。夢の中でまた逢おうね。
莉沙:おおぉぉ。じゃあ、次は悪い感じで。
拓海:(邪悪)永遠の眠りにつくがいい。俺の胸の中でな。
莉沙:ふおおぉぉ。じゃ、じゃあ次はオネェっぽく。
拓海:(オネェ)おやすみなさぁい。ぐっすり眠るのよ。
莉沙:ひぃぃぃ。次は熱血で。
拓海:(熱血)俺がお前を眠らせてやるぜ!
莉沙:(笑って)うるさくて眠れないわよ。
拓海:お前がやらせたんだろ。
莉沙:楽しかった~。
拓海:こっちは目が覚めたよ。
莉沙:でも、どれもなんか違う。
拓海:ここまでやらせといて!?
莉沙:なんか、キャラを作ると逆に気持ちがこもってない気がする。
拓海:じゃあ、普通の声で?
莉沙:うん。
拓海:わかった。
莉沙:うん。
拓海:(深呼吸)
莉沙:どうぞ。
拓海:……なあ。
莉沙:なに?
拓海:さっきの、さ。
莉沙:どしたの?
拓海:迷惑じゃないって答える奴は少ないって言ったけど……。
莉沙:うん。
拓海:俺は迷惑じゃないよ。
莉沙:え?
拓海:声、聞けて嬉しいから。
莉沙:……。
拓海:莉沙の笑った声、すげぇ元気出る。
莉沙:……。
拓海:どうした?
莉沙:……照れる。
拓海:あ、そう。
莉沙:って言うか、電話でそんなこと言われて、赤くなってる自分が恥ずかしい。
拓海:あ、そうなんだ。
莉沙:うん。めっちゃ顔熱い。
拓海:(笑う)
莉沙:(釣られて笑う)
拓海:じゃあ、寝ようか?
莉沙:うん。
拓海:(幸せ)おやすみ。
莉沙:(幸せ)おやすみなさい。

