思い出相続税 #毎週ショートショートnote
約400字・ショートショート
祖父が遺したのは、古びた蔵に詰まった濃密な夕焼けだった。
思い出相続税の査定員が持つ検知器の針が激しく震えた。
「特A級。素晴らしい純度だ。課税額はかなり高くなりますよ」
提示された金額は予想より二桁高かった。
「そんな大金、払えません」
「では国が回収します」
査定員が回収スイッチに指をかけた時、僕の脳裏に祖父の声が響いた。
『夕焼けは暗くなってからが本番だ』
僕が扉を閉ざすと、蔵の中は真っ暗になった。
「何を……!」
「この思い出は、この先の『夜の静けさ』とセットなんです」
思い出相続税は、目に見える輝きにしか課税されない。
つまり、これなら無課税だ。
「……チッ、評価不能か」
査定員は忌々しげに去っていった。
静寂が戻った蔵の中で、僕は一人、闇を見つめた。
何も見えない。けれど瞼の裏には、鮮やかなオレンジが、そして静かな夜が、じわりと染み出してきた。
僕はその贅沢な無価値を、深く、肺に吸い込んだ。

絵本を作りました。
