運命を書き換えるペン #3つのお題に空想のひらめきを
約900字・ショートショート
放課後の理科準備室。
窓から差し込む夕陽が、埃のダンスをオレンジ色に染めていた。
僕が見つけたのは、古びた万年筆。
軸には銀色の星座が刻まれ、手にとると、少しだけ冷たい。
昔、誰かに聞いた、運命を書き換えるペンの特徴とよく似ている気がした。
試しにノートの端へ、「明日の小テストは中止になる」と書いてみた。
翌朝。数学の教師がインフルエンザで急に休んだ。
本物だった。書いたことが、現実になる。
僕は、ずっと好きだった結衣のことを思った。
彼女には、一学年上の彼氏がいる。
僕は震える手で、ノートにペン先を走らせた。
『結衣は先輩と別れる。そして僕を好きになる』
青いインクが、ゆっくりと紙に染み込んでいく。
翌日、結衣は泣いていた。先輩に振られたのだという。
そしてその三日後。彼女は僕の席までやってきて、少し顔を赤らめて言った。
「……ねえ。放課後、屋上に来てくれないかな」
心臓が跳ねた。ペンのおかげだ。運命は、僕の思い通りになった。
けれど。
屋上で僕を見つめる結衣の瞳は、どこか虚ろだった。
水色の空の下で、彼女の視線はどこにも結ばれていない。
「……ねえ、本当に僕のことが好きなの?」
僕の問いに、彼女は人形のように頷く。
「うん。……どうしてかな。急に、君のことしか考えられなくなったの。胸が、ずっとくるしいの」
彼女の頬を伝った涙が、きらきらと地面に落ちて弾けた。
僕は気づいてしまった。
僕が書き換えたのは運命ではなく、彼女の心という名の、壊してはいけない聖域だったんだ。
僕は準備室に走り、ノートのページを力任せに破り捨てた。
「……ごめん。君の運命を、僕が汚してしまった」
僕はもう一度、ペンを執る。
今度は、自分でも信じられないほど、優しい持ちで。
『全てが元通りになる。僕がペンを使った記憶以外は』
翌日。廊下で結衣が、先輩と仲睦まじそうに笑っているのを見かけた。
彼女は僕の横を通り過ぎる。
知らない誰かとすれ違うように。
僕の胸は少しだけ痛んだけど。
その痛みこそが、僕たちが生きている証なのだと思った。

