今の祭り #アマノ文筆クラブ
約1000字・ショートショート
僕たちの街の祭りは、いつも未来からやってくる。
年に一度、街の中心にある大時計が鳴動すると、空から砂金のような光の粒子がドサドサッと降り注ぐ。
それが「後の祭り」――未来の僕たちから届けられた、すでに楽しんでしまった記憶の断片だ。
この光の粒子が、今から始まる「今の祭り」の設計図となる。
「未来の僕は本当に楽しそうだなぁ」
届いた粒子の映像の中で、僕は汗とフランクフルトの脂で光る顔をくしゃくしゃにして笑っていた。その笑顔は完璧だった。
屋台のソースの甘い匂い、りんご飴に、じゃがバター。金魚すくいの水音と威勢のいいオジサンの声が記憶を彩る。
そして、あの娘と二人で夜空を仰ぐ瞬間が最も鮮烈だった。
僕たちはこの、これから起こる「後の祭り」を再現するため、熱に浮かされたように準備に取り掛かる。
僕の心には一つだけ、小さな砂粒のような引っかかりがあった。
花火を見上げる未来の僕の横顔。
あの時、口元は確かに笑っていたのに、なぜか一筋の雫が頬を伝っていた。
それは、楽しさの極致からくる涙だろうか。
もしくは、何か理由が……。
その疑念を心の底に押し込め、「後の祭り」を完璧に再現する「今の祭り」が始まった。
記憶通り、僕は行列に並び、記憶通り、カリッと焼けたフランクフルトの濃厚な匂いを嗅いだ。
記憶通りの場所で、記憶通りの可愛い浴衣を着た彼女を見つける。
夜空に世界を切り裂くような轟音と共に、一発目の花火が打ち上がった。
記憶通りに、僕は彼女の隣に立っている。
「……きれいだね」
と、未来の記憶と同じ、少し震えた声で彼女が言った。
僕は記憶通り、何も言えずにただ見つめ返す。
僕たちは、未来で楽しかったはずの記憶を、今、完全に再現した。それはあまりにも完璧で、あまりにも虚ろで、そして冷たかった。
彼女の顔は、夜空の光を受けて、記憶の映像と寸分違わない。
なのに、僕の心は空洞だった。
僕は今この瞬間を楽しんでいるのだろうか?
楽しかった『後の祭り』という既定の未来を、ただ必死に辿るだけの感情のない台本役者ではないか。
僕の横で、彼女はただひたすらに、これから燃え尽きる運命の火の粉を見上げている。
ヒュルルル、ドドドオォン、パチパチパチパチ……。
花火の音は、僕たちの街に響く未来の記憶の残響のように、虚しく、そして静かに弾け続けていた。
一筋の涙が頬を伝った。
それは、喜びの瞬間さえも決定づけられ、自由な感情を許されないことへの、反抗の涙。
そして、彼女の横に立っている『今』の僕だけの、初めての感情だった。

