華のないふたり #アマノ文筆クラブ
約600字・ショートショート
直人と静香は、華のない者同士が結婚すれば、統計学的な「不幸」が相殺されて、むしろ平穏な日々を送れるのではないかという仮説のもと、お見合い結婚をした。
彼らの生活は世間の予想通りだった。
直人の昇進は常に隣の部署の華のある人間に攫われ、高額な宝くじが当たることもない。
外食でレストランを予約すれば、決まって騒がしい席の隣に案内された。
『華々しい幸運』にも恵まれず、生活の何もかもが淡々としていた。しかしそれが、彼らの精神を安定させていた。彼らは、人生の平均値の中で静かに息を潜めていた。
ある日の会社の帰り道、直人は突然、強烈な摩擦音と白昼の閃光に襲われた。
運送用トラックが突っ込んできた瞬間、直人は静香との結婚を後悔した。
もし華のある相手を選んでいれば、こんなことにはならなかったのに。
しかし、トラックは直人の鼻先、わずか数十センチのところで、アスファルトを削るように急停車した。
耳の奥で、甲高いキーンという音が響き渡る。
運転手が血相を変えて飛び出してきた。
「すみません! 大丈夫ですか!」
警察の事情聴取後、直人は家に帰り、静香に出来事を話した。
直人はまだ、体中に残る緊張で震えていた。
静香は静かに言った。
「華がないってことは、『華々しい不幸』にも遭わないってことじゃないの?」
直人の耳鳴りが、すっと消えた。
華ゼロとは、極端な幸運も極端な不幸も引き寄せない、統計的な「無」の結界。
彼らは、人生における最大級の不幸すら、その存在感の薄さによって回避していたのだ。

