自分へのご褒美にも贈り物にも
― 選ばれた特別な一枚 ―
「アンティークコインのことはまったく知らないのですが、お世話になっている方が少しご存知で…お話を伺っているうちに、自分でも興味が湧いてきて。一度
本物を見せていただけませんか?」
そんなお電話からはじまりました。
お越しくださったのは、50代の専門職の女性。
長年仕事一筋に打ち込んでこられた方で、「今の自分があるのは、その方(=お世話になった方)のおかげなんです」と穏やかにお話しされながら、コインをご覧になる眼差しはとても真剣でした。
ひと通りのご説明を終えたところで、彼女は迷いなくこうおっしゃいました。
「これにします!」
選ばれたのは、金貨でも銀貨でもなく、
一見とても地味に見える「銅貨」でした。
けれどその銅貨、実はとても珍しい**「試鋳貨(しちゅうか)」**。
コインを正式に製造する前、デザインを試しに金属へ打ち込んだ「試し打ち」で作られたもの。たまたまその試作品が銅で打たれていた、というものでした。
金貨や銀貨として発行された正式なコインとは違い、本来は市場に出回ることのない、知る人ぞ知る貴重な一枚。
それがまだ入荷して間もない頃に、まるで引き寄せられるようにその女性の元へ渡っていったのです。
「これは、これまで頑張ってきた自分の資産として、大切に持ち続けたいんです」
そう話される姿に、私のほうが胸を打たれました。
さらにもう一枚、別のコインもお求めになられました。
「お世話になった方への贈り物として購入したい」とのこと。
ご予算やお好みをお伺いしながらご一緒に考え、最終的に選ばれたのは、エリザベス女王がデザインされた個性的なモダンコイン。
その方らしさを表すような、気品のある美しい一枚でした。
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ご縁のあるコインに出会われる方は、不思議と迷わず選ばれることが多いものです。
ぐるっと一通り見回しただけで、まるでコインのほうから語りかけてくるように、その方の手に収まっていく…
この女性の決断の速さと潔さには、私も気持ちよく背中を押された思いがしました。
後日、お客様に「あの銅貨、今はどのように保管していらっしゃいますか?」とおたずねしたところ、こんな微笑ましいお答えが返ってきました。
「飾っていますよ。毎朝『おはよう』って声をかけているんです。
私にとって、ご褒美みたいな存在なので、いつでも目に入る場所に置いておきたくて。」
コインは単なる資産やコレクションではなく、
時には“人生を支えてきた証”であり、“誰かへの感謝のかたち”にもなります。
そんな心のこもった出会いを、これからも大切にしていきたいと改めて感じた出来事でした。
