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ハイエース光速2000光年の妄想 8

(注意:糞尿学スカトロジーの記述があります。2200文字くらい)

肝臓は物言わぬ臓器だと誰が言ったか知らぬのだが、私に言わせれば膀胱だって大腸だってれっきとした物言わぬ臓器である。
「ガソリンと便所はあるうちに行っておけ」
これは酒田家の家訓であるのだが、さりとてこの掟を守ったところで油断は禁物である。
ハルマゲドンはいつ何時やってくるか分からないのに、何故こんな掟を作ったのかといえば、これは実務的な教訓ではなく、悟りの境地に至るプロセスを説いたものであるからだ。
「万策つくしたのだ、諦めるより他はない」
と。

物言わぬ臓器として機能してしまっているのは、田舎に住んでおり、なおかつ比較的自由意思で動ける職についていることが挙げられる。
つまり、少しでも催せば即便所に向かうことができるし、最悪の場合その辺の草叢で済ますことが可能であるからだ。
そういう極めて恵まれた環境に長年身を置いていると、耐排泄の耐性が無くなってしまう。要するに、ガマンをする機会が無いので、まるでガマンがきかないのだ。
そして気が付いた時には残り435秒。
一分一秒を争うとはまさにこのことである。

「久美子、最寄りのパーキングエリアまであとどれくらいだ」
「荷卸PAまで400秒以上かかります。停車してからトイレまで走る時間を考慮すると恐らく間に合わないかと」
「おおい、間に合わねえじゃねえよ、シャア、もっとスピードあげろ」
「フフフ、これが何かわかるかな」
シャアは飲み終えたタリーズの長いアルミ缶を見せてよこした。
バリスタズ・ブラック、アラビカ100%と書いてある。
「ま、まさか」
「そうだ。390ml入るぞ。しかもスクリューキャップ付きだ」
「久美子、成人男性の尿量の平均値は」
「少々おまちを・・・かなりの差がありますが、一度に200mlから400ml程度のようです」
収まるのか?これだけの尿意からすると400mlを越えてしまうかもしれない。一度出てしまえば途中で止めることの難しさは検尿のときに立証済である。いーや、ちょっと待て。
「おい、そんな提案いらないからさっさとスピードを上げろ」
「ま、上げてやってもいいのだが・・・その代わり停止する際、スーパーレイトブレーキンからウルトラスーパーレイトブレーキンに一段階上げなければならないぞ。その衝撃に膀胱は耐えられるのかな」
「マスター、レプリカン友の話だと皆様バトルの際、何日もかかっちゃうんで、もうタレ流しで戦っちゃってるらしいですよ。いいじゃないですかタレ流し」
ぐぬぬぬぬ、好き放題言いやがって。
「おい!じゃあ本当にタレ流すぞ、いいんだな」

「嫌です」
「絶対に許さへんで」

どうする、冷や汗がタラーリタラリと流れ始めた。タリーズというコーヒーの名が異様に腹立たしい。本当にこのアルミ缶を使うのか。
・・・アルミ缶の上にある蜜柑、なんちゃって。
まずいまずいまずい、思考回路がイカれてきた。
極度の尿意や便意は視野を異常に狭くし、ありもしない、どうでもよい妄想に憑りつかれる。

ああ、このハイエースの車窓から見える山の木々。もう人間をやめて、あのような一本の木になれたらどれだけ楽なことだろう。
いや、そういえば昔、家畜人ヤプーというSFがあったっけな。高校時代に仲良かったヘンな文学好き連中は宮沢りえの写真集なんかそっちのけで、家畜人ヤプーの完結編が出たといって大喜びしていたっけか。沼正三。あの小説、いきなり冒頭で主人公がUFOの中で尿意を催すシーンがあった。でもあれはSFの世界の話だ。あれ?これもSFか?
大体、200㏄だか400㏄だか知らないが、何故故そんな少量の液体ごときにハルマゲドンなどという大げさな表現を用いなければならぬのであろうか。
止めた止めた!カタカナ止めだ!春曲鈍と書こう。ハイスクール!奇面組の一堂零の旧友だ。黄緑色の髪の毛の「どんちゃん」こと春曲鈍。
ああ、どんちゃんの顔を思い浮かべていたら、数百㏄の液体のことなぞ、もはやどうでもよくなってきた。

もっとスケールのでかい話をしようぜえ。
世界中の尿を集めたら一体どれくらいになるのだろうか。
イメージしやすいのは日本最大級である黒部ダムの観光放水だ。

「久美子、世界中の人間の尿を集めて放出したら、黒部ダムの放水くらいになるのだろうか」
「黒四ダムの観光放水量は1秒間に約10トンです。人ひとりが一日に放出する尿量を1L、世界人口を82億3200万人と仮定すれば、同じく一日あたり82億3200万L。これを1秒あたりに換算すると9万5278L。水と尿は若干比重が異なるでしょうが、おおよそ黒四ダム10基分の放尿量です」

「じゅじゅ、10基分」
「そこまで壮大なスケールだとロマンを感じるな」

ドドドドドドドド。
青空の下、雄大な山並みに包まれ、水しぶきが細かい粒子となって全身に降りそそぐ様を想像した。

「ところでマスター、400秒を経過しましたが」
「!・・・え、シャア、荷卸パーキングエリアは」
「ん、あ、ああ、すまん、ダムの話に気をとられていて、下りそこなったようだ」
「ごめんなさいマスター。私も尿量の計算に夢中で。ぷぷっ」

ハルマゲドンは、すぐそこまで接近してきた。

  つづく

皆様ごめんなさい、本当にごめんなさい。
もう二度としませんので許してください(じゃ書くなよ)。
画像をお借りしたNJRecalls様も、申し訳ありません・・・

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